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商業活動と同人活動の違い関連

 商業誌から原稿料を貰って読切が掲載されたのが2021年7月、初連載を持ったのが2022年4月だったので、商業活動を始めてから2年半、連載を持つようになってからもうすぐ2年という感じになります。

 

 それまでの5年ぐらいは同人活動をしていて、僕は同人で漫画を描いているだけでまずは楽しかったので、商業活動を辞めたらまた同人活動に戻っていくと思うのですが、商業活動は結構楽しいので、できるだけ続けたいなと思っています。

 

 商業活動は同人活動よりも多くのメリットがあるなと思ってやってるので、その辺を書きます。

 

(1)紙の本を出すためのあれこれを引き受けてくれる

 即売会主体での同人活動をするのであれば、本の在庫を抱えるということには非常にセンシティブになってしまいます。家にまだ売れてない本が数百冊あるだけで圧迫感がありますし、数千冊を保管するのは現実的ではありません。なので同人活動ではせいぜい数百冊程度を刷って増刷は基本的にしない感じです。

 また、同人誌の場合、続き物の話をやりにくいという問題もあります。なぜなら繋がっている漫画の10冊目を作った時に1冊目から在庫を保持していないと、最初から読んで貰うことができないからです。家がその漫画の在庫でいっぱいになってしまいます。在庫管理がとてもしんどい。

 在庫のなくなった既刊は電子で、新刊は紙もあるというやり方もありますが、あとから買い始めた人が紙を手に入れられないのに新刊は紙で買ってくれるのだろうか?という悩みもありますし、判断が難しいんですよね。

 

 これは規模の大小は違えど、商業出版も抱えている難しさでもあり、ただし、商業出版の場合はそのしんどさを出版社にやってもらうことができるのでとても気持ちが楽です。その代わり、出版社には採算の合わない連載を打ち切るという判断があります。

 まとめると一定以上の量の紙の本を売りたければ、個人のレベルでは在庫管理が大変なので、商業出版の方が現実的です。それは続き物のお話をする場合はなおのことそうなります。個人で紙で発行する連載漫画を長く続けることは、よほどのことがないとできないと思った方がいいでしょう。

 

 なので、何十巻も続くバトルものやスポーツものの少年漫画を同人活動で続けることは基本的にできないと思った方がよく、同人活動に向いたジャンルの向いた構成のお話をするという縛りができてしまうと思います。

 一方で、紙の本を出すことを諦めて電子のみにしてしまえば在庫問題は解決するため、同人と商業出版の違いかなり少なくなるかもしれません。複数の電子書籍ストアに登録するのが面倒という問題はありますが、そこは電子取次などを利用するという方法もあります。

 紙の本を作ることにこだわっているか、どのような漫画を作りたいかによって商業活動と同人活動を選ぶという考えかたがあります。

 

(2)本を作る上での描く以外のことを担ってくれる

 同人誌で本を作るには、表紙やロゴのデザインや入稿データの作成、各種チェックなどを自分でやる必要があります。商業出版の場合は、それを出版社側がやってくれるというメリットがあります。デザイン費や入稿データの作成費も自分で支払う必要はありません。それは漫画を描くことに集中したいときにはとても便利なことです。

 一方で、本を出すと言うことを他人に頼むと言うことは、その人が本を出す上での必要経費や利益の一部を持って行くことになります。そのため、全てを自分でやる場合と比べて、1冊の本を売ったときの利益は少なくなると思います。この辺は同人誌でもデザインを外注したり、フリーの編集さんに個人で色んなことを依頼するというケースもありますが、それぞれ料金の支払いが当然必要で、他人の手を借りる以上はその人たちにお金を払う必要があります。

 

 本の売れる規模が少なければ、すべて自分でやった方が利益が多く、活動を続けやすいかもしれません。

 

(3)原稿料が出る

 商業活動では雑誌掲載用の原稿を納品すると枚数に応じてお金がもらえます。同人活動ではそれがないため、本が出て売れるまでは一円も入りません。無給で働くことはリスクがあるので、商業活動をしている方が漫画を描く環境としては安定する可能性が高いです。

 同人活動で時間をかけて描いた長大な原稿が全然売れなかったときには大変なことになりますが、商業活動であれば、少なくとも原稿料は入ってくるためリスクが低いです(アシスタントを頼むと原稿料が残らないこともありますが、同人ではアシスタントを頼むとまだお金が入らないのにお金が出て行くのでさらに難しい)。

 

 まだ利益の出る本になってないものにお金を払うリスクは出版社がとっており、雑誌は基本的に赤字で発行しているため、彼らは単行本を出してその赤字を埋め、黒字にすることを目指す必要があります。なので、単行本が紙と電子を足してそこそこ売れる限りは、あるいはそのうち売れるという期待が持てる限りはリスクをとって原稿料を支払い続けてくれます。これは連載を続け、長いお話を作る上ではとても漫画家にメリットがあることだと思います。

 

 一方で、最近はpixiv fanboxなど一定のファンから月額で支援のお金を貰えるサービスがあります。こちらの場合、その支援者たちに月額で支援をして貰いながらまず最初に原稿を見せるというメリットを与えて連載のような形式を出版社を介さずに維持することもできます。実際このような形で連載された漫画が一定量たまったところで、電子書籍として出版されるというケースも増えており、これは漫画の連載に近いことを出版社を介さずともできる環境があるということになります。

 支援者に支えられて生活を安定させながら漫画を描けることには夢がありますが、そのためには一定数のファンをまず集めるということが必要で、一定数のファンを集めるには、まず売れて知られておかないといけないという前提があると思うので、新人漫画家にはなかなかできないことでもあると思います。

 

(4)真剣に読んでコメントをくれる最初の読者がいる

 編集者は最初の読者で、かつ漫画を読んでどのように思ったかのリアクションを確実に返してくれる存在でもあります。それが精神的負荷になる人もいると思いますが、そのような読者がどのように感じたかを知ることができるのは、自分の漫画をよりよくする上では便利に使うことができるものでもあります。

 なおかつ、ネーム状態のまだ漫画になっていない時点でもコメントを返してくれるため、作画を始めて取り返しがつきにくくなる前に色んな方針転換などをしやすく、効率が良くなります。

 

 編集者には色んなタイプがいて、読んでどう思ったかをコメントしてくれる人、直し方を提案してくれる人、とにかく褒めてくれる人など様々なタイプがいて、それぞれいてくれてよかったなと思うことが多いです。

 自由に描けることの良さももちろんあり、僕も同人誌では好き勝手描いていますが、それはあくまで売れなくてもいい本として同人誌を作っているからなので、読者の反応がまだ見えない暗闇の中で本を売らないといけないときに、編集者という最初の読者がリアクションを返してくれるのはその指針になります。

 

 リスクとしては、変な編集者に当たってしまった場合、リアクションが売れる上での参考にならず、自分の調子が狂ってしまうかもしれません。そこには運の要素もあると思います。

 

(5)多くの人が関わっているので真面目にやりやすい

 自分にしか関係ない同人誌だと、どれだけ適当にしていても自分が納得していればいいですが、商業出版の中でやっていると、これだけ色んな人が動いてくれているのだからちゃんとしなくては…という意識が働きます。そのため、コンスタントに連載をすることができていますし、スケジュール管理も同人誌とは比べ物にならないぐらいちゃんとやっています。

 ただし、これは人によるとも思っていて、僕は外面を良く取り繕おうとしがちなので、他の人の目があった方がちゃんとやれるのですが、そういう効果がない人にとっては何の関係もないかもしれません。

 

 さて、このように商業活動と同人活動には様々な違いがあり、商業活動の方がなにかと便利である一方で、一冊の本あたりの利益は少なかったりはします。一定規模以上の出版になってくると商業活動でなければ届かない領域があるため、商業活動をした方がいいですが、ある程度の規模で活動を続けられればいいのであれば同人活動の方がバランスをとりやすいでしょう。

 

 また、紙の出版にこだわっているかも大きなポイントです。紙で出すことを諦めるだけで、出版社の仕事をすることのメリットの多くはなくなってしまい、気の知れた人たちとの同人活動の方がずっとコスパがよくなることもあります。

 短いページかつ読者の誘因力の強いエロ漫画の領域では、おそらく電子の同人活動の方が商業出版よりもずっと実入りがよかったりするのではないでしょうか?それも競争が激しくなってくるとどうなるか分かりませんが。

 

 とにかく自分がやりたいことと合う形で選択をすればいいと思っていて、僕は今は商業活動だからやりやすい続き物の話を描きたい上に、できればこの先、大きな規模で本を売れるようになりたいと思っているので、商業活動をやっていますが、どこかのタイミングでバランスが変われば、同人活動の方がいいと感じるようになるかもしれません。

 

 そのため、自分にとっての正解を選ぶためには、今の自分がどのような形でどのような漫画を描きたいかを把握するのが大切なのではないかと思います。