漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

漫画の宣伝をやっている2024年春

 直近で単行本が2冊出たので漫画の宣伝をやっています。

 

 

 なんでやっているかというと、商業媒体で漫画をやっている以上は、「売る」ということが継続的に活動していくために必要な要素であり、自分以外の人が宣伝をしてくれるという身分でもいまのところないため、自分がやるのが適切だろうと思っているからです。

 

 何かの漫画を人が買うには基本的に以下のステップがあると思います。

  1. 漫画の存在を知る
  2. 漫画を手に取ってみる
  3. 漫画を読んでみる
  4. 漫画を面白いと思う
  5. 漫画を手に入れたいと思う

 書評によって買うなど、別の誰かの感性を利用することで3と4のステップは飛ばせることもあるかもしれません。でも、基本的にはこういうことだと思います。人な何かの本を知り、そこに価値を感じ、手元に置いておきたいと思って買います。

 

 そして僕は長年漫画オタクをやっていたため実感としてあるのですが、ほとんどの漫画は、1の存在を知って貰うステップにすら至ることなく買われずに終わっています。漫画の新刊は月平均1000冊以上出ているのですが、皆さんは毎月そのうちのどれぐらいの割合を知っているでしょうか?おそらく知らないことの方が多いと思います。しかしながら、存在を知らない漫画を買うことはほぼありえないため、まずは知って貰う必要があるということです。その中でも自分でできることが宣伝です。

 

 宣伝のコツですが、「頑張らないこと」です。僕の様子は頑張っているように外からは見えるかもしれませんが、気持ちの上ではあんまり頑張ってはいません。頑張るといけません。頑張るといけないのは、「頑張りに見合った結果」が欲しくなるからです。「こんなに宣伝したのだから、これぐらいは売れて欲しい!!」と思ってしまうかもしれませんが、その場合、宣伝したのに実際は特に売れなかった場合、こんなことをしても意味がないと思ってしまうかもしれません。そうすると止めてしまいますし、止めてしまうとより知られなくなるわけですから、売れるかもしれない機会を逸してしまいます。

 なので、精神のエネルギーをできるだけ使わない方法で淡々と続けていくことが大事だなと思っています。

 

 僕の漫画もありがたいことに固定のファンになってくれている人はいるので、出ますと言えば、初動は動きます。でも、電子書籍のランキングなどをみると、初動は動いてもじりじりと順位を下げていってしまいます。同じく初動で動く漫画がその後もたくさん出てくるので当然の現象です。

 ただ、ヒットしている漫画との違いはそこで、ヒットしている漫画は、発売直後に一極集中するのではなく、その後も色んな人が様々なタイミングで前述の1から5のステップを踏んで買っているということだと思います。

 100万冊売れる本には100万人分の、それを買おうと思った物語があります。その物語を作っていくことが本を売っていくことだろうなというのが今の僕の考えです。

 

 そこで重要なのは、本人の自力宣伝以外の、別の人たちが「おもしろいよ」と紹介してくれることだと思います。なぜなら色んなところに情報の発信源があれば、タイミングや場所をずらしながら、そういう購買行動に繋がるうねりが生まれやすいからです。しかしながら、特に無名の新人漫画家にはその機会が訪れることは少なく、待っていても仕方がありません。

 とはいえ僕も先日テレビでGACKTさんがオススメしてくれたので、そういう非常に幸運な機会が訪れることはあります。でも、そこは自分でコントロールできない領域なので、あると期待していると、ないかもしれず、であるならば、期待してもしょうがないので自分でできることをした方がいいなと思います。

mgkkk.hatenablog.com

 

 こういう考え方をすると、漫然と宣伝をするのではなく、自分の宣伝が購買層に対してどのように届くことを期待して、どのように作用するのかということを考えていく必要があります。見てくれた人の中での物語のステップを動かすことが宣伝の目的だからです。

 

 漫画の宣伝で言うと、SNSでバズることは一つの分かりやすいやり方です。バズるということが通常の宣伝とどのように違うかというと、普段自分のことを見てくれている人たち以外の大量の人たちに接点ができる状態であるということです。1の知られるというステップを上手く果たす機能があります。

 バズるためにはその宣伝自体が拡散したくなる内容である必要があり、「漫画が出ます」みたいな情報だけでは、既に自分のことを知ってくれている人以外は拡散したくなったりはしないと思うので、そこになんらかの面白い要素があった方がいいです。

 

 でも頑張りたくないんですよね!!!!!!!!!!

 

 なので今のところ頑張ってないです。宣伝用に新たな何かを描いたりとかをする手間をかけたくないので、それでもできるのが漫画を1話貼るとかになります。既にあるものだから貼るだけでよく、楽です。

 それに漫画を直接貼ると、2の手にとってもらうや、3の一度読んでもらうまでは達成できるわけです。そして、面白い漫画を描いていれば、4の面白いと思って貰える確率は上がるでしょう。そうなれば、その中から5の購入に至ってくる人も出てくれます。

 

 なので、漫画をSNSなどに貼ることで宣伝するのは理にかなっているなと思います。ここで重要なのは、宣伝がバズらなくても気にしないことです。気にすると止めてしまうからです。止めてしまうと可能性がゼロに近づきます。損ですよね。

 

 作者にできる宣伝がインターネットでの自力宣伝ぐらいだとすると、漫画の内容をバズるための内容にするという方法もあり、これは結構重要な要素だと思います。みんなが言及したくなるような内容であれば、拡散力が強く、多くのまだその漫画を知らない人の元に届けることができます。

 

 でも、そこで難しいのは「拡散力が強い漫画」にしたかったら「賛否両論になる漫画」を描くという方法があるんですよね。それはある種の重要なテクニックであるというと同時に、取り扱いがとても難しいと感じています。

 賛否両論になる漫画とは、例えば「みんなが気にしている話題について、偏った考え方を漫画の中で披露する漫画」です。そうすると、その考え方を叩きたい人と擁護したい人の争いの起爆剤となり、争いの中で拡散されていくということになったりします。

 それによって色んな読者に届くことがある反面、それはあくまで話題提供の役割を担っているだけに過ぎず、4の漫画そのものを面白いと思ってもらったり、それによって5の買って手元に置いておきたいというところには特につながらない可能性があります。そして、賛否両論にしてしまった副作用として、大量のアンチを生み出してしまい、その後、ネットで嫌がらせをされてしまうリスクもあります。

 

 漫画は100人いたら100人にウケるということはありません。「タイムパラドクスゴーストライター」では、そういう理想の漫画のことを「透明な傑作」と読んでいて面白いなと思いましたが、それはありえないと感じているものだからこそ面白いなと思いました。

 Amazonで「寄生獣」の1巻のレビューを見てみてください。星1をつけている人もいます。え??寄生獣のあんなに面白い1巻に星1を??と思ってしまいますが、その人の感性がおかしいわけではありません。人は多様だということです。僕が気にしないようなことを気にする人はいますし、僕が気にすることを気にしない人もいます。それぞれの人の中の複雑な作用の中で、その人にとっての面白いと面白くないは決められていて、それは当人の中の話である限りは全て尊重されるべきものだと思います。

 なので、自分の漫画についても、これをおもしろいと思ってくれるような読者はどこにいるのか?この漫画の存在は、その人にまで届くような状況になっているのか?漫画と読者を繋げられる方法が宣伝であるとするなら、この漫画はどこでどのように宣伝をすべきかということも考える必要があると思っています。

 

 100人のうちの1人しか面白いと思ってもらえない漫画があったとして、その1人に漫画の存在を知らせる方法って何があると思いますか?僕は結局まず100人に読んで貰える漫画にするのが一番近道だったりするのではないかと思うんですよね。そうなると多くのマイノリティに響く漫画を描くためには、まずマジョリティにウケないといけないという話になってきます。

 それぐらい、どこかにいるかもしれないその1人をピンポイントで狙い撃ちすることは難しいと考えています。まあ、戸愚呂(兄)のように根気よく、強さと悪さを兼ね備えた人間だけがキャッチできる特殊な波長の信号を送り続けることもできますし、それだけの時間をかけるという方法もあります。もしくは、そういう感性の人が集まる場所、同人誌即売会でもいいですし、discordのサーバでもいいかもしれませんが、そういうところに入っていくなどもあるかもしれません。

 

 ともあれ、商業誌での活動を継続する以上は、漫画を売っていかねばなりません。そのためには、自分の漫画を買ってくれるかもしれない人に適切に届ける必要があります。それは一朝一夕で突発的そうなることもあるかもしれませんが、そうならないことの方が多いと思うので、いつか来るかもしれない幸運のときへの備えとして、根気よく続けて、ファンとなってくれる人を増やしていくしかないなと思っています。

 今は単行本が出た時期なので、そういうことを淡々とやっています。幸い、初動としては既刊も含めて動いており、でもまだまだヒットしているという領域は遠いので、省エネの工夫をしつつ漫画も宣伝も続けて行こうと考えています。