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漫画家はTwitterをすべきではないか?関連

 ちょっと前にWebラジオでこういう話をしたので、自分の中でのまとめとして書きます。

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 すごい漫画家はTwitterを常用しないということは実際その傾向があると思っていて、商業的にヒットをした漫画家さんがTwitterをやめたり(商業の名前を出してないアカウントはやっているかもしれない)、仕事の告知のみになったりすることはいくつもの事例があります。また、何百万冊も売るようなヒット作家はそもそもTwitterをやっていないことも多いです。やっていても頻繁につぶやいたりしなかったりします。

 

 すごい漫画家がTwitterをやるべきでない理由もいくつか思い当たります。

 

(1)一対大量のコミュニケーションのストレス

 人間はそんなにたくさんの人間とコミュニケーションをとれるようにはできていません。例えば、一つのツイートに対して数百のリプライがつくほどの人気者がいた場合、その数百人に対して個別に反応を返せるでしょうか?その場合、時間がいくらあっても足りません。なので、一方的な発信にならざるを得ないと思います。

 また、沢山の人に見られる場合に、そこには様々な立場の人がいます。人は自分の考えと異なる人を見ると「違う」と指摘したくなるものだと思うので、大量の人を相手にすると、何を言っても誰かに「違う」というコメントをされてしまうと思いますし、中には悪意を持って「傷つけてやろう」とするようなコメントをされることもあります。

 最初から全て見ないと思っていればいいかもしれませんが、自分の言葉がどこかにぶつかっている様子を常に見せられるとそこに精神力を持って行かれる可能性がありますし、普通にしんどいだろうなと思います。

 そのため、非常に沢山の人に見られてしまうようなすごいクリエイターは、一方的な告知などをするだけの使い方をするか、コメントを一切見ないという鉄の意志を持たなければ、日常のリソースを対人の認識に多く持っていかれるので、生活を持ち崩してしまう可能性があるのではないでしょうか?

 なので、やらないことにもやめることにも正しさがあると思います。

 

(2)思いついたことはツイートではなく創作の形で発表する方が得

 初めて見た新鮮さというのは大事なことで、僕自身、僕の描いている漫画を友達が読んで「何が面白いのか分からなった」とコメントを貰ったことがあります。それは「お前が日頃から言っているようなことが描いてあるだけだから」という理由でした。ただし、僕と日頃から喋っていない相手には新鮮な意見として映ったという感想も貰っており、その内容に触れるのが最初か最初出ないかということは読んだときの感想に関係してきます。

 なので思いついたことをTwitterなんかに書くぐらいなら創作で表現した方が効果的ですし、その方が作品の方をより多くの人に面白がって貰えるかもしれません。

 

(3)作品に作者というノイズをまぎれさせない

 作者と作品を完全に別物として認識できる人はまれです。また作者も人間である以上、人間としての好悪が生まれます。Twitterでの振る舞いが人間的な好悪の悪として判断された場合、作品の方を素直に読んで貰えない可能性がありますし、読みながら作者の顔がちらつくことで楽しめなくなる可能性もあります。

 とりわけ政治的な話題のような人によって立場が異なる話題については、そうなりがちです。なぜなら、ある立場の人は、別の立場の人の意見を許容できないことが多くあるからです。政治的な立場というのは、本人の意志程度ではどうしようもないものだと思っていて、生まれ育った場所や置かれている環境によってどうしようもなくあるものであったりすると考えています。なので、ある人にとっての正しい政治的な立場が、他の人にとってもそうだとは限りませんし、他人の立場からの意見を受け入れると、自分の立場が不利になることもあるので許容しづらく、共存も難しい場合も多々あり、それゆえにその意見表明が多くの人との間に溝を作ってしまうことがあります。

 僕はこれは仕方がないことだと思っていて、むしろそうであるからこそ、政治というものが社会で大事な事項として色々と揉めながらも議論され続けているのだと思います。

 

 例えば、「みんな揉めずに仲良くしましょう」というのは、実は立場の弱い人の意見表明を封殺することかもしれません。だから政治の話というのは常に揉めるものだと思っていて、何かの立場の表明は別の誰かの立場に否定であったりして、人が自分と異なる立場の他人の政治的態度を許容できないのは割と普通のことです。

 それ自体は当たり前のことだと思いますが、それによって作品を楽しんで貰える人が少なくなることが、クリエイターとして不利になるということはあると思います。それならばそこがノイズとならないように、クリエイターの名前では発信をしないというのもひとつの判断です。

 

 このあたりが代表的な理由として思い当たり、沢山の人の注目を集められるようなすごいクリエイターは、Twitterを人間という立場でやるほど嫌な気分になることが増えるのではないかと思います。影響力が強いということはそんなに良いことばかりではなくて、自分が発した言葉の力も大きく跳ね返ってきてしまいます。そんなストレスにわざわざさらされる必要が感じられないなら、やらなかったりやめたりすることに正しさがあるだろうなと思います。

 

 じゃあ、すごくない漫画家というか、僕こと、インターネットのなんでもないアカウントが最近急に漫画家になった立場としては、今後もTwitterをこのままやっていくのかというと、「やっていく」という判断になります。理由はすごくないからです。すごくないので上記のデメリットがそんなに大きくなく、逆にメリットも多くあります。

 

 メリットというのは、これまでも書いている宣伝効果の話で、新人漫画家の自力宣伝手段ってほんと「ない」んですよね。店頭に本が置かれるのも新刊として取り扱われる最初の1ヶ月だけでどんどん手に入りにくくなりますし、雑誌を読む人が減っているので、その漫画が存在することそのものがあまり知られていません。出版社の宣伝も、基本的にはどこの出版社も、売れているものに宣伝を集中させるので、新人に手厚いことはまれです。

 

 なので、新人の漫画って放っておくと特に話題にもならないままに消えていくのが普通だと思っていて、僕自身が読者として、こんなにも面白い漫画が世間で話題にならずに終わっていくなんて!!と憤っていたことも昔から多々ありました。近年は電子書籍で買いやすくなったこともあり、連載が終了後に、やっと面白いということが世間に広まってきた漫画も色々あって、それで連載が再開された作品も色々あります。再開するぐらいなら、最初から止めなければよかったじゃないかと思わなくもないですが、その時点では結果がでなかったのは仕方がないことでもあると思っていて、面白いものが今描かれているという時間の流れと、それが世間に広まるという流れの足並みが一致しないことの方が世の中には多いのではないでしょうか?

 

 Twitterに情報を流すのはその流れの足並みを揃わせられるための手段のひとつで、「Twitterなんてやらない方がいい」と言えるのは、ネットでの宣伝なんかしなくても全然漫画が売れている人だからこそ言えることだなと思ったりします。ワイのような知名度も実績もない者にはTwitterでお伝えするぐらいしかないんや…。

 

 宣伝を頑張っているおかげでフォロワーの数も増やすことができ、副次的に良いこととしては僕が好きな漫画の宣伝にも協力しやすくなったというところがあります。面白い漫画はあるのに、それが十分に人に届いていないという問題とはずっと向き合っていて、自分の漫画もそうなのですが、自分が好きな漫画もできるだけ僕が思っている面白さに見合う以上に売れて欲しいと思っています。

 

 実際、世界は自分とは違うのでそれは一致しないかもしれませんが、漫画家はTwitterなんてやるべきじゃないと言ったときに、Twitterをやらない方が漫画がより面白くなり、漫画がより売れたりするでしょうか?答えは漫画家の数だけあり、それぞれの人が選んでいく話だと思います。

 やってもいいしやらなくてもいい。僕はやる方が得だと思っている。そういう話です。