来月発売のコミックビームで「ゴクシンカ」は最終回です。面白い話を描いたと思っているので是非とも読んでください。もしくは単行本もほどなく出るのでそっちで読んで下さい。
一話の試し読みです。
気弱な男がしらす丼定食を注文したことでヤクザになろうと思う漫画です。(1/12) pic.twitter.com/opBTs0QUjO
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) October 11, 2022
ゴクシンカは元々2巻という話で、1巻が売れたら3巻目以降も続けられるかもという話だったので、つまり、「続刊できるほどには本が売れなかった」という結果となります。残念ですね。それでも、僕がコミティアで同人誌を出していた冊数からすると電子版を含めれば、数十倍から百倍程度は既に売れているはずなので、個人的にはかつてなく広く買って貰えたなと思います。
とはいえ商業出版で継続的に本を出すために求められる最低限の冊数はそれ以上であるという話で、いやあ難しいなあと思いました。
さて、漫画の単行本を売ることの難しさの説明のために、漫画の単行本というものがどういうものかについての一般論を解説をします。
漫画の単行本というものは基本的に1巻が一番売れるもので、2巻以降は段々と売れる数が減っていきます。例えば1巻を100刷って70売れたとします。でも、2巻は70も売れません。1巻を買って2巻を買わない人はいても、1巻を買っていないのに2巻だけ買う人はほとんどいないという理由からです。このように仮に7割の人が続刊を買うとすると、3巻は49、4巻は34になります。4冊目でもう当初刷った数の3分の1になってしまいました。
続刊をどれぐらいの割合の人が買うかは漫画によると思いますが、傾向としてはどの漫画もこんな感じだと思います。連載漫画の単行本は、出るたびに前の巻よりも売れる数が減っていくものです。
そして、紙の本は、一度に何冊刷るかによって原価が変わってきますし、刷った本のうちの何冊が売れるかで売り上げが変わってきます。つまり、何冊刷って何冊売れるかで採算のとれる分岐点が存在します。
冊数によっては紙の本は売る前から、全部売り切っても赤字になるという計算もあり得るわけです。そこで続刊すればさらに数が減るので赤字が拡大します。そのように、この本を続刊しても今後赤字にしかならないと分かったときに、連載は終わらなければならないものになります。
「連載を続ける」ためには、少なくとも「採算が合う最低限の売り上げを達成する必要がある」ということです。でも前述のように、続刊をしていくほどに売れる冊数は減っていくのでいつかは採算割れをするものです。
じゃあなぜ連載が長く続く場合があるかというと、当たり前の話ですが「増刷」があるからです。1巻が一番売れ、続刊が段々部数が減っていっても、1巻が売れる数がどんどん増えていれば、その続刊も採算割れしない水準に保つことができます。つまり「増刷することができない本は、連載を継続することが難しい」というものが漫画の連載を継続する上での原則論という話になります。
今は電子版もあるのでこのあたりの判断に電子版の売れ行きも加味されます。
電子でものすごく売れているのに、紙では全然動かないという本もあり、その場合、紙は赤字になる部数でも出たりすることもあります。一方で、紙で出すことは赤字になりやすいので、途中から電子版しか出ないようになったり(もっこり半兵衛などがそうですね)、最終巻が採算割れの想定から電子版しか出ない漫画もあります(ブルーストライカーなどがそうですね)。
商業活動として本は出ているので、採算を合わせるため、あるいは赤字が拡大しないための様々な判断が世の中にはあります。
本の売り上げも基本的には統計的に予測可能な動きをします。何かのきっかけで突如として売れる本もあるかもしれませんが、基本的には初動が一番大きく、その後はなだらかに売れなくなっていきます。理由の一つは本屋の新刊の回転があります。新刊の棚に置かれているものは1ヶ月で既刊の棚に移動するか、返本されてしまいます。本屋で目につきやすく買いやすいのはその最初の1ヶ月だけで、それ以後は人の目に入る機会も減っていくため、売れる可能性は減っていきます。
ごく一部の例外を除けば、初動の動きを見ていれば、その後の売り上げは予測可能だと思います。ごく一部の例外とは、ネットでめちゃくちゃバズったり、メディアで取り上げられたり、賞を受賞したりなどがあります。ゴクシンカについては、発売から1ヶ月ほどの売れ行きから、増刷はなさそうであることが想定でき、実際に今に至るまで紙の在庫が枯渇するような売れ方はしていないため、その予測も正しかったことが分かります。
メディアに取り上げて貰えるなどの多少の動きは僕にもあり、大変ありがたく感謝しており、様々な注目も得られましたが、紙の本の売れ行きとしてはそんなに大きな結果までには繋がりませんでした。
2巻で終わることが決まったのは前述のように1巻が出て1ヶ月後ぐらいで、その判断が早かったことは個人的に良かったと思っています。なぜなら、2巻の最後でどう終わらせるかを準備する時間がたっぷりあったからです。なおかつ、2巻をめちゃくちゃ分厚くしてもらえたので、描きたいところが入るところまでは描けました(1巻には6話でしたが、2巻には10話入ります)。
連載は来月で終わりますが、漫画は面白い内容で、面白く終わったと思っているので、よかったら読んでみてください。単行本もほどなく出ます。全2巻なので買いやすいと思います。
初連載はとにかく色々勉強になることがありました。会社員の仕事をしながらでしたが、色々工夫を重ねながら休むことなく最後まで毎月連載をすることができ、初単行本が出たのも嬉しかったですし、色んな宣伝を試してみたのも面白かったです。
色々知見は貯まったので、次にやる連載では色んな改善をしていくことで、もっと売れるようなやり方ができるんじゃないかと思っています。
ちなみに、今年の頭からヤングキングで隔月での連載中の「ひとでなしのエチカ」の方も8月末に2巻がでますが、こちらは連載が続きます。単行本の売れ行きは、ゴクシンカとだいたい同じ水準だと思いますが、出版社ごとに色んな判断があるということです。
ひとでなしのエチカは今出ているヤングキング にも「千年幸福論」というエピソードが掲載中です。
収録作の試し読みも置いておきます。
親に捨てられた子供が、大きくなって、自分を捨てた親に再会する漫画です。(1/13) pic.twitter.com/TQSe9M2PFO
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) October 4, 2022
ちなみに僕の漫画は電子版の方が紙よりもずっと売れているので、ネットでの宣伝を色々やった効果がでている実感があるのでよかったなと思っています。これからもうるさく宣伝をしていこうと思います。
まずは来月のゴクシンカの最終回、そしてその後の単行本を宜しくお願いします。