漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

中年からスタートする漫画家志望関連

 ちょっと前に、手を動かさない口だけのイタい中年漫画家志望者がいる、みたいな話題を目にして、その話題の中で中年から漫画をやり始めて描いてる人の一例として自分の名前を挙げている人がいるのを目にしたので、その辺関連の雑感を描きます。

 僕は漫画家としてはまだスタートラインに立ったばかりなので、この先のことが上手く行くかは分かりませんが、ここまでのことは説明できると思うからです。

 

参考までに僕のこれまでの状況まとめとしては、

・34歳で初めてちゃんとストーリー漫画を完成させられてコミティアに出る

 (ただし、それまでも絵は描いていて、数ページ程度のショート漫画も描いたことがある)

・37歳のときにちばてつや賞ヤング部門で佳作を受賞

 (編集さんにコミティアで声をかけられ同人誌を投稿に回してもらう)

・39歳のときに初の原稿料の発生する仕事をする

 (読切漫画をコミックビームで1作、ヤングキングで2作、ジャンプ+で1作)

・40歳のときにコミックビーム連載開始、半年後に初単行本2冊同時発売

 (連載作の「ゴクシンカ」と、コミティアで出していた同人誌のまとめ本「ひとでなしのエチカ」)

という感じです。

 

mgkkk.hatenablog.com

 

 中年になってから本格的に漫画を描き始めてプロになれるかというと、僕以外にも沢山の実例はあるので「可能」という話だと思います(先月初単行本が出たハン角斉先生は67歳の新人漫画家です)。ただしそれは、中年であったとしても、20代志望者が漫画家になれますか?というのとそうは変わらないという話でしかないと思います。つまり、20代の志望者にとってもそうであるように、中年漫画家志望者に対して、何の前提条件もなしに「今からなれますよ」と言うのは難しいなとも思います。

 

 今の漫画家へのなり方には複数の方法があって、大きく分けるならば、

能動的な方法は、

・賞に応募する

・持ち込みをする

受動的な方法は、

同人誌即売会で声をかけてもらう

・インターネットで声をかけてもらう

だと思います。

 

 僕の場合は受動的な方法の両方がありました。またそこから賞にも応募したので、持ち込み以外は全部経験があります。僕はもともとプロになろうと思って同人活動をしていたわけではなかったので(自分にそんなことができるとは思っていたなかったため)、声をかけてもらったことで初めて、自分にそのルートがあるということを自覚することになり、せっかく話を貰ったのだから、ここにしがみついてみようと思った感じです。

 おそらく早く結果が出やすいのは能動的な方法です。しかしながら、すぐに出た結果が上手く行ったものでなかったときに、「能動的に動いたのに結果が出ない」というストレスと戦う必要もあります。一方で、受動的な方法は、自分の好きなように漫画活動をしていると声がかかる話なので、ストレスは少ないです。しかしその代わりに、いつ実際に声がかかるかどうかが不明なので気の長い話です。

 僕もたまたま声をかけてもらっていなければ、今もぼんやり好きなように同人活動をしていただろうなと思います。

 

 なお、今は漫画家になるというのは、必ずしも出版社からの仕事を受けてなるものとも限らず、電子書籍個人出版で続けていく道もあると思います。その方が収入が高くなるケースもままあるので、漫画を描いていきたいときに出版社の維持する枠組みの中に入るべきかどうかには判断が必要かもしれません。

 僕が商業誌で描きたいと思ったのは、もともと漫画オタクで商業誌というものに対する憧れの気持ちが強いことがひとつです。そして、全てが自分の裁量の範囲の同人活動とは異なり、自分以外の人たちと漫画を作るということに興味があったのがもうひとつで、こちらの方が大きいです。

 この本が面白くなってほしい、売れてほしいと自分以外の人も思っているという状況が、活動をしていく上で面白いので、同人時代よりも生産性(年間に描くページ数)も上がりました。

 

 さて、漫画家になるルートは複数あるものの、そのために必要な行動としては2点に集約されると思います。つまり、「漫画を描く」と「漫画を知って貰う」です。そこにさらに修飾語をつけるなら、「誰かが面白いと思ってくれる漫画を描く」と「その面白いと思ってくれる人に漫画を知ってもらう」です。

 前述の4つの方法は、それに合わせて選択するといいと思っていて、一番話が早いのは「面白いと思ってくれる人」の対象が「ネットの人」で、「SNSでバズらせることで届ける」という方法でしょう。一方で、面白いと思ってくれる人がいる内容であったとしても、ネットではバズりにくい内容の漫画もあるはずです。そういったときには、同人誌即売会で同じ感性を共有できる人を少しずつ探していったり、適切な雑誌を選んで、賞への応募や持ち込みをするのがいいのではないかと思います。

 

 選択肢はあくまで広くとっておいて、自分の状況に合わせて適切なものを選ぶのが良いと思います。最初から選択肢を絞ってしまい、例えば「Twitterで漫画をバズらせる」とか「ジャンプの新人賞を受賞する」とかのみが自分にとって唯一の方法だと思っていると、そのせいで他の上手く行くかもしれなかった方法を見落としてしまうかもしれません。

 

 声をかけてくれた漫画雑誌の編集者と話をするときに、「僕は結構いい歳なのですがそれでも大丈夫でしょうか?」という話は何度も聞いてしまっていて、そのときの答えは常に「年齢は関係ない」というものでした。僕の理解としては、年齢は関係ないというのは優しさから出ている言葉ではなくて、そんなことよりも他にもっと厳しい関門があることを示す言葉ではないかと思います。

 つまり、「面白い漫画を描ければ年齢は関係ない」という言葉の意味するところは、「面白い漫画を描ければ」の部分がとても大きな関門であり、それ以外の部分である「年齢」は比較対象として些末なことであるということです。

 

 じゃあ、「面白い漫画」はどうすれば描けるのか?というと、そんなの分かんねえよ!!!という話だと思います。僕はよく分かりません。相対する編集者さんによっても異なる答えが出てくるでしょうし、漫画を読む読者によっても異なる答えがあるはずです。

 

 僕の漫画も、担当編集者や編集長の価値観において「面白い」とする一定の評価が出たために連載が開始し、単行本も出ましたが、その先にはそれを読んだ読者の人たちから「面白い」という評価が得られるか?という話になってきます。その人数が十分大きく適切にそこに届くなら本は売れて連載は続きますし、少なかったり上手く届かなければ連載は終わるのだろうと思います。

 ちなみに今はその真っ最中なのですが、描いてしまった漫画はもう変えられないので、少しでもこの漫画を面白いと思ってくれるかもしれない人に届けることが重要だなと思って、少しでも人の目に留まるように日々宣伝活動をやっています。出てくれ!!宣伝効果!!

 

 そういえば、「漫画が面白ければ年齢は関係なく漫画家になれる」という話を別で解釈するならば、「漫画家になれないならば、その理由は年齢ではなく漫画が面白くないからである」という話になりますね。その場合、自分の漫画が採用されないのは自分の年齢のせいであるという主張に対して、いや、漫画が面白くないからですよと返せるための下地のような言葉にも解釈できます。

 漫画を描くということについては、デジタル技術の進歩により年々低コストでできる体制が確立されているように思います。僕は会社員の労働をしながら漫画を描く上で、写真加工や3D素材の存在が不可欠ですし、もし全てを自分の手で描いていたならば両立は不可能でしょう。iPadがあれば日々の生活の隙間時間で漫画を描けますし、出張で全国を行き来しながらでも大丈夫です。この先はAIが生成してくれる素材で、もっと楽に描けるかもしれませんし、ラフな線をAIが整えてくれたりトーン作業をしてくれたりで、時短で描けるかもしれません。

 漫画の発表の場も、昔は雑誌の掲載枠が上限でしたが、今はウェブもアプリもあるので、描ける場所は無数にあります。

 

 また、新人が漫画の原稿料のみで生活するのはアシスタントを使っていると不可能だと思いますが、一人で描けるのであればギリギリ可能ですし、副業としてやれる範囲に作業量を調整できれば、生活は本業の方で成り立つので、+αの収入としては良い仕事とも言えます。

 なので、副業としての漫画家というのは、今後さらにどんどん増えてくるのではないかと思っていて、中年になってから漫画家を目指す人も増えてくるのではないかと思っています。そこで重要なのは、漫画編集部は年齢を実際さほど気にしていないかもしれませんが、何らかの意味で「面白い漫画」を求めているということで、自分の漫画が他の漫画と比較してどこが面白いのか?を考えてみたり、その面白さを分かってくれる最初の相手としてどこを選ぶか?を考えることが重要なのではないかと思います。

 世間ではすぐにはウケなくても、この編集部なら分かってくれるということはあるかもしれませんし、編集部の連載会議には全然通らなかったけど、ネットに公開したらバズったなどもあると思います。それぞれ最初から何らかの意味で面白い漫画は描いているものの、それが伝わりやすい相手の選択を間違えては上手く行かないという話だと思います。

 

 そういうときには、別の方法だってあるんだと思って変えていけばいいのではないかと思っています。また、自分の描いている面白さが狭いものであるならば、もう少し広く伝わる面白さを目指してみるのもいいのかもしれません。

 中年だけど漫画を描いてみたいというのであれば、それはオススメできる活動だと思っていて、なぜなら僕が今それを面白くやっているからです。