漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

漫画の連載が終わるときの気持ち関連

 ヤングキングで連載していた「ひとでなしのエチカ」が、先日ジュブナイル編の完結を持って連載終了となりました。10月10日に最終の5巻が出ます。

 編集さんとは、どうにかして再開したいよねという話もしていますし、もともと同人誌だったので、同人誌としてなら新エピソードはいつでも描けるのですが、とりあえずは別の新しい連載を起こすことの方をしようと思うので、新エピソードは今後どのような形でできるのかを模索していこうと思います。少なくとも、もっと漫画を描く技術を向上させて、もっと固定ファンを獲得することは必要でしょう。

 

 連載が終わる理由はシンプルで「売れていないから」です。特に紙の本が売れていません。電子は紙よりも売れていますが、電子の売り上げが紙の本の売れてなさをカバーできるほどの水準にはありません。なので潮時だなと思っていて、終わること自体には「それがいいと思います」と思ったので異論はありませんでした。売れる漫画を作れなかったなという敗北感はありますが、それでも内容は面白いものを描いていると思えていたので、それを連載出来てエピソードの完結まで描かせてもらったことには満足感があります。

 

 現在紙で出版されている漫画に関しては、連載が続くかどうかの分水嶺は「増刷されるかどうか」にあることが多いと思います。なぜならば漫画の発行部数は巻を重ねるごとに減っていく(順番に買う人が多いので、当然前の巻より次の巻の方が発行部数は少なくなる)ので、どこかのタイミングで部数が減って採算割れをするからです。増刷すれば基準が増えるので採算割れせずに本を出し続けられます。

 新人の漫画の部数であれば1巻の時点で採算割れをしていることも多く、どこかで人気が出て増刷されるかもという期待で引っ張りつつ、どこかのタイミングでもう増刷は無理だと諦める、ということになると思います。その基準については、最近は最低〇巻は保証します、みたいなことを編集さんから伝えられることもありますね。

 

 ともあれ部数が減ると出版社も赤字を重ねることになりますし、部数の減少に合わせて作者に入るお金も減っていきます。僕は一人で描いているので原稿料で黒字ですが、スタッフを雇っている場合は原稿料がそれで飛んでいき、単行本で黒字を出すスタイルになるので、発行部数が減っているとクリティカルに効いてくると思います。連載が終わったとき赤字が残ったというケースも耳にします。その状態で無理に続けるよりも、早めに仕切り直して別の「今度は売れるかもしれない新しい漫画」を描いた方がいいという判断があると思います。

 なので連載が終わるのは別のもっと売れそうな漫画にチャレンジをするというポジティブな判断という側面もあると思います。

 

 紙から電子への移行が進んでいる中で、紙の本基準で連載の継続が決まるのはどうなんだ?という話はあると思うのですが、少なくとも僕は紙の本を出せるから商業出版に取り組んでいるという側面があり、電子だけなら自分で出すこともできるので、紙は出したいんですよね。

 一方で、紙の本をもう出さなくなったレーベルや出版社もあり、それによって連載の継続がしやすくなっているケースもよくあります。紙で出ていた本が、途中から電子のみになることもありますし、そこに不誠実さを感じる場合もあるでしょうが、紙とセットなら出せないで終わるものの、電子だけなら出せるので、せめてそれはやろうという苦渋の決断があるのだと思います。

 

 紙の本は海外では伸びていたりするそうですが、日本国内では縮小し続けています。その理由は色々あり、電子版への需要の以降や(ちなみに電子も頭打ちという話もありますが)、紙自体の高騰であったり、書店の減少による接点や販促施策の減少、売り上げの予測と在庫管理技術の最適化による余計な本を刷らないで済むようになったなどがあると思います。

 部数が減ればどこにも置いてない本になり、どこにも置いてない本が売れないという話になってくるので負のスパイラルです。そこに抗うには、売れる本だから置いて貰って、より売れる本にするという正のスパイラルが必要で、そのためにすべての漫画は作者も出版社も、上手く行くためのことをできるだけしていると思います。広告宣伝を頑張ったり、何かの賞を受賞するように応援したり、編集部でYouTubeを始めたり、試し読み試作やアプリを使った誘導など、色んな試みがされていると思います。

 でも、それでも実際に上手く行くのは一握りでしょう。

 

 そこで上手く行くまでどれだけチャレンジを継続できるのかということが重要なのではないかと思います。僕はまだしばらくはチャレンジできると思うので、継続しようと思っています。

 

 「ひとでなしのエチカ」自体はめちゃくちゃ気に入っている漫画ですし、連載をできてとても良かったです。子供の頃から大好きな漫画家さんたちに漫画をすごく褒めて貰ったり、ずっと心の支えにしてきたamazarashiの秋田ひろむさんに帯にコメントを貰ったり、GACKTさんにテレビでオススメをして貰ったり、こんなにありがたいことがあるのか?と思うような夢のようなことが沢山ありました。

 連載中に何人もの読者の方から熱のこもったお手紙を貰ったり、コミティアでスペースまで来てくれた読者の方からすごく褒めて貰ったり、感謝の言葉を貰ったり、描いて良かったなと思います。池袋のジュンク堂で特設コーナーを作ってもらったりもしました。

 

 おかげで、もともと同人誌で数十冊程度だけ売っていただけの漫画を、桁が2つ増えるぐらいには買って貰えたし、立派な単行本を5冊も出させて貰うし、連載にしましょうと言ってくれた編集さんにはずっととても良くしてもらっていて、とても良かったですね。問題は、続けていくためにはもう1桁多く売ることを目指さないといけなくて、僕にはそれができなかったということなのですが。

 

 もっと売るためにはどうすればよかったのか、次はどうすればいいのかを考えてはいますが、基本的には、読者にとって先を読みたいと思えるような面白い漫画であり、手元に置いておきたいと思えるような大切な漫画になるものを描くという部分であるように思います。もう一つ付け加えるなら、この漫画面白いよと人に伝えたくなるような漫画である必要があると思います。

 

 元々自己満足の同人誌であるという部分が影響していると思いますが、僕自身が面白いと思うことばかり描いてしまって、そういう読んでくれる人に向けたホスピタリティが不足していたように思いました。なので、もともと感性の合う人にはとても喜んでもらえたものの、それ以外の人を巻き込む力に欠けていたのではないかと思っています。一応その部分も考えて描いているつもりではありましたが結果を見ればできておらず、とても難しいですね。

 

 今回の連載終了は端的に実力不足だなと思います。実力不足で結果が出せなかった、という当然の結果です。でも、できるだけのものは描いていたので、読んで面白いと思ってくれた皆さん、色々と手を貸してくれた皆さん、ありがとうございました。まだ単行本作業中ですが、最終巻も良い本にするつもりなのでよろしくお願いします。もっと実力をつけて再チャレンジをしようと思います。

 

 amazarashiのジュブナイルの歌詞も最後こう終わります。

 「物語は始まったばかりだ」

 

 5巻の予約は各種ストアで始まっているので、良かったら買って読んでみてください!

www.hanmoto.com