比較的短いページ数の同人誌の漫画を作っていると、物語を終わらせる力について考えることが多いです。つまり、この話をこのページ数で終わらせないといけないが、では物語ってどうすれば終わるんだっけ?という話になってきます。
ここには固定的な正解はなく、描く人の思想性が出てくると思います。何が描かれればこのお話は終わったことになるのか?という認識が試されるわけです。
色んな漫画を思い浮かべてください。この漫画はちゃんと終わらなかったと言われている漫画が思い浮かんだりしないでしょうか?例えば、MONSTERやドラゴンヘッドの終わり方について、僕は連載終了時には、ちゃんと終わっていないと思ったりしましたが、後に読み返した時には、いや、ちゃんと終わっていると思いなおしました。それは、自分がこの物語は何を描いていたものか?という認識が連載を追っているときには上手く捉えられておらず、まとめて読み返したときに、この物語はこれを描いていたのだから、描くべきものが終わったところで終わるのが正しいと思い直したということです。
スラムダンクで、山王戦のあとの湘北の負け試合がちゃんと描かれていないと文句を言う人をめったに見ないように、寄生獣で結局ふと思った地球上の誰かが誰なのかの謎が明らかになっていないと文句を言う人をめったに見ないように、その物語が描く必要のないと思ったものは描かなくても問題がありません。
でも、その描かれなかったものこそが本筋だと思う読者もいて、その人はちゃんと終わっていないと文句を言うのだと思います。ただし、それもその人がそう思ったのなら間違ってはいないと思います。
終わらせるということについては、これが何の物語であったかの認識が重要だと思います。その物語として描くべきものが決まれば、それを描けば終わることになります。
例えば、ホラー漫画は一番インパクトのあるシーンが描かれればそこで終わっても大丈夫です。ホラー漫画は怖いということが重要なので、なぜその現象が起こったのかや、その後、登場人物たちがどうなったのかは重要なことではないからです。
なので、自分が描いている物語が何を描いているものかを認識することが、終わらせ力を生み出す終わらせ筋を鍛えるために重要です。
終わらせ筋のフィットネスは、終わらせてみる経験の繰り返しになると思います。お話を途中まで描いてみて、この話を今から何ページかで終わらせると決めたときに、終わらせ筋に火が入ってきます。この物語はどういう物語で、何が描かれれば終わりを迎えることができるのか?を考えます。
最近描いた自分の同人誌で実例を挙げると、
・デスゲーム最速理論
これは分かりやすくて、ゲームが終わればお話が終わります。ゲームが終わるには人が死ねばいいので、どんどん人を死なせることで終わらせることができました。追加エッセンスとしては、主催者の目的の開示に伴う意外な展開を上乗せしています。
5/5のコミティア、既刊の「デスゲーム最速理論」も持って行きますが、もうあんまり在庫がないので、これも全部貼っておきます。(1/8) pic.twitter.com/yyI5976K2h
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) 2023年4月29日
・右手が毒手の毒島さん
これは毒島さんにフラれて思い悩む主人公が、自分の気持ちを捉え直すという心の変化が出てきたところで、悩みの解消により終わらせることができました。毒島さんの新たな一面を主人公に捉え直させるために、急に殺し屋を出したりしています。
2/19(日)に東京ビッグサイトで開催されるコミティア143に出ます。スペース番号はM13a「七妖会」。新刊があり、「右手が毒手の毒島さん」という15ページの漫画を描きました。大した話でもないので全部貼ります。あとがき付きの紙の本が欲しい人は来てください。(1/5) pic.twitter.com/qQvwFP764m
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) 2023年2月13日
・勇者の寿司
こちらは魔王の目的を明らかにするということと、魔王の変化が描ければ終わると思ったので、いきなり回想シーンをぶっこみました。将太の寿司からもってきたテーマ性である、「目の前の人のために寿司を握る」ということの意味を、過去の勇者に求めて時間経過に乗せることでハッとする気持ちを演出し、それを物語上のアクセントとして使っています。
5月5日に東京ビッグサイトで開催されるコミティア144に出ます。スペース番号はM08bの七妖会。新刊は、Twitterで寺沢大介先生に見守られながら寿司漫画を描くという暴挙に出た「勇者の寿司」という漫画です。中身は全部貼るので、紙の本が欲しい人は買いに来てください。(1/8) pic.twitter.com/I55KmTGAJ6
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) 2023年4月27日
・僕のことを三次元と呼んでくる多次元お姉さん
こちらは謎のお姉さんとの別れとともに目的が開示されると終わると思いました。途中で時間の捉え方についての砂山の喩え話を出していたので、綺麗に出来た砂山を壊したくないという理由から去ることにし、なぜお姉さんはこの光景を大切だと思ったのかの理由が分かったところでフィニッシュです。
例によって紙の本が欲しい人だけ来てくれればいいので、全部貼っておきますね。(1/5) pic.twitter.com/iWtw8W9gjQ
— ピエール手塚🍙 (@oskdgkmgkkk) 2023年11月20日
このように、「この話って何を描こうとしていたんだっけ?」というところを明らかにしていけば、おのずと終わり方が見えてくるものだと思います。そのためにも描く前にテーマがちゃんと決まっていたりするととてもやりやすいですね。テーマというのは別に高尚っぽいものでなくてもよくて、「高飛車なお嬢様の服がはじけて裸になるのっていいよね…」みたいなものでも大丈夫です。その場合、どのような角度からでも、高飛車なお嬢様の服をはじけさせ、裸にすることができればお話は終わることができます。
終わらせ筋が十分鍛えられていると、何にせよ終わらせることはできるだろうと思いやすくなるので、見切り発車で描き始めることができるようになります。そうなると特に短いページの漫画はすぐに描き始められるので、めちゃくちゃ得ですね。だから鍛えたいと思っています。
皆さんも終わらせ筋のフィットネスを繰り返すことで、終わらせ力を鍛えてみるといいかもしれませんね。