漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

「ゴクシンカ」という漫画について

 コミックビームで僕が連載していた「ゴクシンカ」が完結し、最終巻となる2巻が出ました。ゴクシンカはどういう意図のもとに描いた漫画かというと、「人を元気にしたい」と思って描いた漫画です。

 

 僕は子供の頃に、親が子育て限界になったために、しばらく親戚の家をたらいまわしにされて生活していた事情などもあってか、自分がそこにいていいのかの自信がない状態の中で過ごしてきた経験が多く、そのためか他人の顔色を強く窺って生きるような育ちをしてきました。それでも小学生のときにはまだ天真爛漫さがありましたが、中学生のときに自分の天真爛漫な部分が新しく行った場所で他人とぶつかり、いじめなんかも受たりしました。その辺から自分が他人とぶつからないかということに対する意識がより強くなったと思います。

 それでも少数の友達に対しては気にしないで済んだため、楽しい思い出のある十代を過ごしてはいましたが、心を許した友達以外の対人関係に対する苦手意識が強く、あまり他人との接触を積極的にやることをしない人間になりました。

 

 自分の行動が他人の目にどのように映るかを強く気にしてしまいます。にもかかわらず、他人の目に映る自分の姿を上手くコントロールできるような能力もなかったため、せめて自分の考えを他人に読み取られないように無になることを心掛けたり、他人との接触を最小限にして、一人でいることでようやく落ち着いたりしていました。いる場所を社会の隅っこに移すことでやり過ごしてきたような感じです。

 

 ただ、今は不惑を過ぎ、ようやく持ち前の天真爛漫さをそこそこ取り戻してきたなという気持ちがあります。それは「自由な自分」と「他人」との間に起こることを、それなりに調整できるような能力が身についてきたことや、加齢によって感覚が鈍麻してきたり、自分の心の整理が上手くなったりして、他人からの目線を意識し過ぎないようになってきたことが関係していると思います。

 

 なので、若い頃はしんどい感じでしたが、今ではそうでもありません。今なおあんまり他人と積極的に接する感じではないことは変わりませんが、友達も結構いますし、それなりに上手くやっています。

 

 僕は人生が下手くそだなと思っていましたが、「それでもなんとかなったな」という気持ちがあり、だから今、人生が苦手だなと思っている人に対しても、「そういうこともあるけど、だからといって別にダメじゃないよ」という気持ちがあります。でも、そんなことを単純に言ったところで、たまたま上手くやれている人間の生存バイアスとしか思われないかもしれません。

 だからその気持ちが漫画の形をしていれば、まだ伝わりやすいかなと思いました。

 

 僕はこれまで色んな失敗を大量にしていて、それはとても格好悪くて、色んな人に迷惑もかけていて、なかった方がよかったかもしれないことですが、それでも、それらは自分の人生にはあったことなのだから仕方がありません。

 そういう色んな嫌なことがあっても、そこに後悔があっても、でも、それを踏み台にして前に進んで行くことが自分の人生だろう、ということが背景にある中で描いた漫画がゴクシンカです。

 

 今しんどい気持ちで生きている人が、少しでも元気になってくれたらいいなと思って描きました。この物語の特に終盤は、若かった頃の僕自身に語りかけるような内容となっています。それが、今しんどい気持ちで生きている人に対しても届くものであるということに対する祈りのような気持ちがあります。

 できるだけ多くの人に届くといいなと思っています。

 

 余談ですが、僕がしんどい状況のときに読んでいた漫画としては、「エアマスター」の深道クエスト編があり、どれだけしんどくなってもこの部分を読み返せば、また頑張ろうという気持ちになりました。なので、本作は僕なりの深道クエストになるものが描ければいいなというモチベーションがあり、いくつかの引用を入れていますので、気づいた人も多いかもしれません。

 あとは今現在の僕が世の中を前向きにやっていくのがいいという気持ちになったのは、「プリパラ」の特に104話〜106話のガァルマゲドン結成編と、「プリティーリズムディアマイフューチャー」の最後の上葉みあさんの言葉の影響が大きいので、その辺も入っています(本作のエンディングテーマは「Dear My Future〜未来の自分へ〜」にしても合うなと思いました)。

 子供向けアニメは大人が子供に向けて作っているということに、大人の状態で見ると気づくことがあり、大人は未来に希望があると言い続けるのが仕事のひとつだなと思いました。そして言葉だけでなく、地味な仕事を真面目に続けて、その未来を自分の手で作ることも。

 

 目の前の現実に絶望するよりも、今はまだ空虚でも希望を語る方がずっとカッコいいと思っています。絶望的な現実を直視した上で語る空虚な希望こそが、世の中で一番強いことだと思います。

 描いていいページ数の中でできる限りのことは描き切った満足感のある連載でした。よかったら読んでみてください。