漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

お話の作り方の個人的な方法論関連

 お話を創作をしている友達や雑誌の編集さんと話していて、たまに「それはお話になりますね」と言うことがあります。それはつまり、お話を構成する最小の構成要素がそこにあるので、あとは肉付けすればお話になるだろうなという見通しが立っているということです。

 

 それが実際面白いお話になるかどうかは未知数ですが、お話ができあがるためには、最小の構成要素というものがあると思います。例えばその一例は「何かが変化する」というものです。そのお話を通じて、始まる前と終わった後に何かが変わっていれば、それはお話になると思います。その中でも分かりやすいのは「心」です。お話が始まる前と終わったあとで、一人の人間の心が変わっていれば、つまり、その変わる様子を伝わるように描けばお話になります。

 その最小構成要素さえ決まれば、あとはその変わる前の心と、変わったあとの心、そして何故その心が変わったかを肉付けしていけばいいということになります。

 

 変わるものは別に「心」でなくても構いません。例えば「肉体の変化」でも成立しますし、「人と人との関係性」でもいいと思います。あるいは「世界の変容」でも成立するでしょう。とにかく何かが変わる瞬間を思いつけば、あとはそこに色んな要素を足していけばお話になるという算段がつきます。

 変わって良かった話もありますし、変わって悲しい話もあります。変わる過程がドラマチックな話もあれば、いつの間にか変わってしまった何かにあとで気づく話もあります。

 

 念のため書くと、これはあくまで方法論のひとつなので、何も変わらないことを描く物語も当然あります。

 

 物語を作るときに迷ったときには、この話では何が変わるのか?ということをまず決めるとやりやすくなります。それは読切漫画でもそうですし、連載の中の1話でもそうだと思います。あとは、一つのお話の中で変わるものは、多層的でもいいと思います。ただし、あまりに多すぎるとフォーカスがブレてしまうかもしれません。一息で読めるお話の場合は、変化するものはおそらく3つぐらいが読者の多くが許容してくれる限界なのではないかと思います。

 具体例を挙げるなら、「世界が変容し」「その中で人間関係が変わり」「それによって人の心が変わる」というようなものです。

 

 とにかく何が変わるかを決め、それがどのように変われば読者に効果的に伝わるかを設計すればとりあえずのお話は出来上がると思います。

 何が変わるかを決めるときには、それが変わることに意味があるものを発見しなければならないので、何が変わるといいのかのストックは沢山持っているにこしたことはないと思います。そのための方法は例えば、色んな漫画や映画や小説やゲームなどを見て、自分の心がどこの変化で動いたかを知っておくなどがいいかもしれません。

 

 このような変化がお話になるという考え方で言うと、例えば「世界観を設定する」や「能力の設定を作り込む」などはあまりお話を作ることと関係ないということになります。長大な設定資料を作ったところで、それそのものは変化を含まないのでお話になりにくく(もちろん、世界観や能力が変化するということを描くことはできますが)、それらに時間をかけても、それだけではなかなかお話は完成しないことも多いのではないでしょうか?

 

 もし世界観や設定を作り込むなら、それが何かが変わる前と変わった後、いかに変わるか?ということを簡便に表現する手段として作るのが効果的な方法だと思います。例えば、「感動すると頭から火が出る」というような設定があれば、「人の心が感動した」という変化を、絵的に表現することが簡便になります。

 例えば、「人と人が殺し合うような世界観」があれば、日常では緩やかにしか起こしにくい心理の変化を、急速に起こすことで、短いページで簡便にお話を展開させられるかもしれません。

 

 例えば僕が今やっている連載の「ゴクシンカ」は、「他人と関わることが苦手な人間の心が変化していく様子を描く漫画」として設定してあります。そして、その変化を効果的に描くために、トラウマを視覚化できるという能力を設定することで、心の変化を絵的に見せることができるようになったり、ヤクザの世界を舞台にすることで、人の状況や心を追い詰め易くするすることができるようにしてあります。

 つまり、あくまで描きたい変化を、少ない手数で効果的に描けるようにするために設定は作っており、設定ありきで、そこからお話を考え始めたわけではありません。

 

 僕は感性のようなものが乏しい人間なので、その隙間を理屈で埋めてお話を作っています。変な漫画ばかりを描いていると言われることがたまにありますが、別に変な漫画を作ろうと思ってそうしているわけではなく、合理的に考えて一番効果的な手段を選んだら、それが人によっては変に見えるという感じではないかと思います。

 

 2月19日に開催されるコミティアにも新刊として短い漫画を描こうと思っているのですが、それも何が変化する漫画であるかだけは決めてあるので、どのような話になるかはまだ未知数ですが、おそらく完成するだろうということだけは見えています。あとは、他の仕事で手一杯になって描く時間がないかどうかということだけが気がかりです。

 「お話になる」と思ったら、お話が完成することは約束されているなと思います。僕の場合は、このようなやり方をしていますが、他の人には他の方法論があるかもしれません。

 皆さんもどうやったらお話ができるかの方法論を考えてみてもいいかもしれませんね。