漫画皇国

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漫画の登場人物に最高と最低が同居していると目が離せない関連

 「忍者と極道」の登場人物の中でガムテがかなり好きなのですが、その理由のひとつにその存在の受け止め方をどうしたらいいのかが分からなくする、最高の部分と最低の部分が同時に存在しているというところがあると思っています。

 

 ガムテは子供による暗殺集団「グラスチルドレン」のトップに立つ、破壊の八極道のひとりです。大人に傷つけられた子供たちは、その壊れかけた心を守るための象徴として、体にガムテープを巻き、極道の手先として、人を殺しています。

 

 ガムテは、その見た目の滑稽な様子と、自分以外が世界にいないように振る舞う幼さ、つまり社会性の未獲得を見せることで、周囲の人間からは侮られています。もちろん読者も彼を最初侮ります。いかに強くても、倫理観がないだけで、ただのバカだと思うからです。

 

 しかし、彼はグラスチルドレンの中ではヒーローであることが分かります。傷つけられた少年少女たちの前に立つ、イカレたヒーローこそがガムテです。忍者と極道では、敵役として登場する極道側の方が、「友情・努力・勝利」の祝福を受けています。それはガムテも例外ではありません。かつて存在し、死んでしまったグラスチルドレンの仲間たちの友情の後押しを受けるように、最悪な極道技巧(ゴクドウスキル)を繰り出します。

 

 ガムテは彼と同じ立場に足を置き、彼をヒーローとして見た場合には最高の男の一人です。一方で、そうではない場合には、彼は最低な男です。

 

 象徴的なのは、帝都八忍のひとり病田色(色姐)との戦いです。色姐は、忍者としての能力を身につけるために顔がひどくただれてしまい、髪で顔の上半分を隠して生きています。彼女はその選択を後悔していません。普通の人間であった自分が、戦う力を得るためには必要な代償だったと思っているからです。

 一方で、彼女は生活する上で顔を隠しているわけです。なぜなら、その顔が他人をギョッとさせてしまうことを想像してしまうからだと思います。たとえ表面上は気にしないように振る舞ってくれたとしても、人のそのような反応には気づいてしまうものです。そんな中、この物語の主人公である忍者(シノハ)くんは、その顔を、そうなるに至った色姐の生き様を肯定してくれます。それは、自分に必要なものを得るために、何でもやっていくという、前を向いた態度に対する憧れを持った肯定です。

 そこには、様々な諦めがありました。様々なものを諦めた結果、色姐は今戦いに身を投じています。でも、諦めなければ、そこにこだわって立ち止まっていたら、今ここに立つこともできませんでした。彼女は、自分が生きたいように生きるために、様々なことを諦めて来ました。そして、そうであるということの強さと美しさを忍者くんは肯定してくれます。

 

 そして、ガムテはそんな色姐の顔に全く心無い言葉吐き捨てます。醜悪(キッショ)と、化け物だと言ってのけます。そして、色姐を殺します。読者側からすると、全く受け入れがたいパーソナリティを全力で見せつけます。最低の人間であると思ってしまいます。

 

 ここについて、後にガムテは、戦う相手を全否定し罵倒することは礼儀だという独特の美学を語りますが、それは、ガムテの中だけで成立する話で、やってはいけないことをしたことを許容できる理由にはなりません。ただ、彼は色姐が強かったことも素直に認めます。彼女と戦ったからこそ、色姐が強かったということを誰よりも理解しているのもまたガムテであるということが描かれるわけです。

 

 悪い人間には一点の曇りもなく悪くあってほしいとか、良い人間には一点の曇りもなく悪くあってほしいという感覚は世の中にあるのではないかと思います。なぜならば、そうであるとその人に対する態度を一貫しやすくなって楽だからです。

 そのため、人は楽な状態でありたくて、自分が悪いと思っている人が良いことをしても、悪く解釈しようとしてしまったり、良いと思っている人が悪いことをしても、良く解釈しようとしてしまったりします。

 でも、人はそんなにその全てが良いと悪いのどちらかになるということはないですよね。

 

 ガムテは、最高の要素と最低の要素が両方が、矛盾しない状態でその中にある人間です。だからこそ、その理解を自分の中でひとところに定めることができずに、その動きから目を離すことができない魅力的な存在に見えるのかなと思います。

 この構造は、たまに優しいDV彼氏に対する気持ちと似通っている気がするので、いいのか??と思ってしまう部分もありますが、最高と最低のどちらかしか持たない人間と比べて、どうしてもその一挙手一投足から目を離せなくなってしまうので、めちゃくちゃ魅力的に見えてしまうなと感じています。

 

 そして、期限が本日までなのですが「ガムテ外伝」が今公開されているので、まずは最新の単行本まで読んでから(そうでないと致命的なネタバレがあるので…)、未読の人は読んで、どう受け止めたらいいのか気持ちをぐちゃぐちゃにしてしまったりしましょう(あなたがこの文を読むとき、このリンクはもう読めなくなっている可能性も高い…!!)。

comic-days.com

 ということが言いたかった。あと以下は僕が描いたガムテのファンアートです。