漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

「女の園の星」と理解し難い女子高生関連

 和山やまの「女の園の星」の単行本がちょっと前に出ましたね。めちゃくちゃ面白いんですけど、これは女子高の先生である星先生をとりまくお話です。

 

 この漫画のどこを面白いと僕が感じているかというと、人の思考の流れや飛躍を追っていくのが、めちゃくちゃ心地よいんですよね。そこに、周囲の人々との、どうにも上手く取れていないコミュニケーションが加わることで、思考が変化したりさらに飛躍したりが激しくなってめちゃくちゃ面白くなってきます。

 

 このお話に出てくる人たち同士は、上手くコミュニケーションがとれていません。いや、そもそも人間は基本的に上手くコミュニケーションがとれないものだと思うので、そこがリアルに詳細に描かれていることにおかしみを感じてしまいます。

 でも人が自分は上手く取れていると思ってしまうのは、人間は主観でしか物事を見ることができないからです。他人の内心が分からないので、自分の中で勝手に想像で辻褄を合わせて納得してしまいます。

 

 それを色んな人を客観的に内心まで見ることができることが面白いというか、勘違いが面白いというのもありますけど、確かに、これしか知らなければこう考えても仕方ないなという面白さもあって、人間のやり取りって面白いんだなとおもっちゃうんですよね。人間が面白いということです。他人が面白いということです。

 

 さて、この漫画が他の漫画と違うように思うことは、女子高生という存在の取り扱い方かなと思ったりします。連載している雑誌が女性向けであり、なおかつ主人公が男性であるということもあると思うのですが、星先生にとって自分の教え子である女子高生たちは、理解が難しい外部者として描かれてるように見えるんですよね。

 なので、それぞれ個性的な存在でありながら、そこはかとないモブ感というか、味方で主役級の個性を発揮するというよりは、こんなに個性的なのに、脇役感がすごくて、このお話は星先生側に主観が置かれている漫画なんだなと思ってしまいます。

 

 漫画で女子高生というと、誘因材料として使われがちというか、女子高生が主役だからこそ、おっさんが主役だったら読まれにくいような漫画が成り立つというようなことがあると思っていて、でも、この漫画の場合は真逆です。

 読んでいて、こいつら理解不能だな、いや、理解はできても、その枠の外に自分の立場があるんだなと思ったりしてしまいます。

 

 それは例えば、彼女たちの中でつけられている先生のあだ名の容赦なさとかから読み取れるものです(「ポロシャツアンバサダー」という言葉がめちゃくちゃツボにハマって、そのページにしおりを挟んでしまいました)。

 先生たちと女子高生は仲間ではないですが、でも、先生たちは先生だから、そこのコミュニケーションから逃げることができません。その、先生と生徒という関係性から生まれる異文化コミュニケーションが、双方の物の考えにめちゃくちゃ影響し合っていて、そこがめちゃくちゃ面白いなと思っています。

 

 例えば、第五話はこっそりと星先生の観察日記をつけている生徒が出てくるのですが、星先生とその生徒の間の直接的なコミュニケーションって、宿題のノートと間違って提出してしまった観察日記ノートのやりとりだけなんですよね。それ以外は、星先生とその生徒の頭の中だけで起きたことです。双方が頭の中で相手をどのように理解したかの発散の仕方が面白くて、完全にすれ違っているんですが、でも、当人の中では辻褄が合っているわけです。

 

 ここで読者でよかったと思ってしまいます。読者である僕は全てを見通すことができるから。

 

 最後に、星先生と同僚の小林先生の関係性がめちゃくちゃ好きなんですよね。星先生は寡黙な人で、対人関係は半歩引いてやりとりするようなタイプなんですが(親近感がある)、一方で小林先生は、他人に平気で半歩踏み込んでくるような性格です。

 個人的な経験からも思うんですが、半歩引いている人ってそのままだとあんまりドラマがないというか、一人で自分の中だけでも十分なので、頭の中だけで色んなことが完結しちゃうんですが、そこにずけずけと入り込んでくる人がいると、行動に繋がったりします。半歩引いて生きている人は、他人に踏み込まれたことで「やれやれしかたがない」と動く性質があると思うんですよ。なぜなら僕がそうなので。

 

 その入り方が深すぎると引いてしまいますし、浅いとか入って来られないと何も起こらないので、半歩引いている人と半歩踏み込んでくる人が、ちょうどいいコンビで存在することで色んなことが起こります。とにかくそれが心地よくて、あー、居心地が良い!ここにずっと住みたいと思える世界が広がっていて、めちゃくちゃいいなと思います。

 

 この世界に住むときの方法ですが、別にどこかのキャラクターになりたいわけではなく、全体を見通せる神の視点でいたい感じなので、じゃあ読者じゃん。もう達成されてるじゃんと思って、完全に勝利してしまいました。

 

 皆さんも勝利するために、未読の人は読みましょう。フィールヤングで連載中の「女の園の星」。