漫画皇国

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物語作りが上手くいかないときの方法論関連

 昨日、漫画家志望の人が、描いた漫画の講評を受ける、みたい配信を聞いていて、物語を作る上での色んなところで詰まっている人がいるなと思ったということと、僕自身もなかなか物語が作れなくてようやく一本最後まで描き切れたのが34歳のときなので、そのあたりの体験談や今思っていることを書きます(34歳よりも若くて漫画を描けている人は全員僕よりスゴイと思って見ています)。

 

 これはあくまで僕がこういうことを手掛かりにして物語を作っている一例でしかないので、他の方法も沢山あると思います。

 

 物語がなかなか作れないときにまず止めてみるといいのは「世界観を作り込むこと」です。なぜなら、世界観は物語そのものではないと思うからです。

 世界観の中に物語があるのではなく、物語のために世界観が存在します。最初に世界観があると、それが物語を作る上でのむしろ足かせになる可能性があるので、「世界観を設定しているのに物語が上手く作れない」という悩みの場合は、まずはその世界観を捨ててみるのがいいと思います。発想を狭めず、なんでも出来るようにしておいた方が選択肢が増えるからです。

 捨てた世界観も、後々使えそうであればまた拾いにくればいいと思います。

 

 次にやってみるといいことは、プロットを捨ててみるということです。ここでいうプロットとは、物語の最初から最後まで起こる出来事の羅列という意味です。なぜならプロットも物語ではないと思うからです。

 

 なお、ここで言う「物語」は僕独自の定義です。

 

 僕が考える「物語」とは、「出来事と出来事の連なりの間に存在する人間の感情」です。なので、出来事だけを羅列したプロットでは、そこに物語上必要な感情の動きが含まれていないので物語の大事な要素が何も決まっていないということになります。

 つまり、それを描いてもただ出来事を描いただけのものになりかねませんしし、最初に考えたプロット通りに動いているだけの物語は、全体が向かう方向が収束しているために予定調和的になって驚きがなくなったりします。

 また、「プロット通りに話を動かさなければ」という考えがあると、登場人物の感情を無視して無理に話をそちらに動かしたり、説明的なだけのページが増えてしまったりします。そこに読者が違和感を感じたり、退屈してしまう可能性もあります。

 

 出来事を羅列するプロットは作ってはいけないとは思っていませんが、ネームにしている途中にそれを捨ててしまってもいいと思います。特に登場人物の感情の動きと合わない場合は、そこで不自然な描写をするぐらいなら方針転換をした方がいいと思います。

 まずは、登場人物の感情の動きを設計すること、あるいは、感情の転換が起こる場面などを決めておく方が重要であると思います。

 物語から色んな装飾を取り去って最後に残るのは、「読者にこれを読んでこういう気持ちになって欲しい」という願いではないかと僕は思っていて、そこの部分さえしっかりしていれば、他の部分は何に入れ替えてでも物語として成立するのではないかと考えています。

 

 また、世界観は最初に作り込むと足かせになりやすいですが、最後に設定すると便利なアイテムになります。特に読切漫画のときはそうです。物語を描いている途中には、様々な矛盾や冗長な部分が出てくると思いますが、それらを世界観で解決すれば速くて便利だからです。

 

 前に作った漫画では、「格闘の決着」と「恋愛の成就」が同時に重なると良いなと思ったのですが、それを現実世界でやると説明が冗長になるので、「胸に打撃を受けると相手を好きになってしまう」という世界観を設定しました。なお、現実では胸を殴るのは危険な話なので、リアリティのレベルをあえて下げ「そんなわけないやろ」という雰囲気を出すことも意識しました。

恋のニノウチ - ピエール手塚 | 少年ジャンプ+

 

 なので、僕が思うドツボにハマりやすい物語の作り方であるところの、世界観⇒プロット⇒ネームの流れで物語を作ろうとするのは止めて、感情設計⇒プロット⇒ネーム⇒プロットの破棄やつじつま合わせの世界観の設定⇒ネームの直しのようにすると物語は作りやすいです(少なくとも僕の場合は)。

 

 「人に読んで貰う物語を作る」ということは、「人間と人間のコミュニケーション」だと思います。ただし、相対して話すときのように相互に口からリアルタイムに出てくる言葉によるものではなく、紙や電子的に描いた絵と言葉で、一方通行に相手に提示するという特殊な方法のコミュニケーションです。

 そう捉えると、自分が読む相手に対してこのコミュニケーションによって何を伝えたいかと、それを伝える上で自分の描く物語が適切な形をしているか?ということを考える必要があり、そこに十分な伝えるものがないと物語の枠組みを使っていても、結果伝わったものがないので空虚に思えてしまうと思います。

 

 例えば「朝起きました」というコミュニケーションがあったとして、それを口頭で伝えようが物語にして伝えようが、「朝起きたんだな」ということしか伝わりません。なので、その物語は何を伝えるためのものなのか、そしてそれが相手にとって面白いのか?という視点が必要です。

 

 なので、何らかのメッセージがあればそれを物語として描けばよく、受け取った人がそのメッセージを好意的に解釈できれば良い物語と思って貰える可能性が高いです。

 

 じゃあ、なんらか伝えたいメッセージが自分にあるのか?というと、これがないんですよ。僕の場合は本当にないです。なので、読んだ人をどういう気持ちにさせたいかという部分のみをまずは手がかりにしています。

 多いのは「笑わせたい」と「驚かせたい」です。それを描いている途中で自分の底に浮かび上がってくるものがあると、それを拾って中に入れている感じです。描いているうちに自分ってこんなことを考えていたんだなと思いながら出来上がることの方が多いです。

 

 この描きながら模索するやり方だと、個人的には面白い話ができたなと納得がいく経験も結構あるのですが、ただし、ネームを描く過程でかなり悩みながらになるので、出来上がるのがどうしても遅くなるというデメリットも存在します。でも、商業誌の〆切に追われているわけではないのであれば、より面白くなる方法を選んだ方が良い気がするので、同人誌や掲載時期の確定していない読み切り仕事は、プロット無視ありのネームで悩む工程を入れるようにしています。その中でもう少し早くやれる方法が考案できるといいなと思います。

 

 ポイントをまとめると

  • 漫画はコミュニケーションの一種なので読者に何かを伝えるために描くと描きやすい
  • 伝えたいことなど何もないのであればどういう気持ちにさせたいかが手がかりになりやすい
  • 世界観やプロットから作るのではなく読者の感情をどうしたいか?を元にお話を設計する
  • 登場人物の感情が不自然になるぐらいならプロットは途中で変更してしまってもよい
  • むしろプロットを変更したくなるようなアイデアが出てきたらそっちが面白い可能性も高い
  • 都合が悪い部分は世界観をいじってなんとか辻褄を合わせるようにすると便利
    というような感じです。

 物語を作るのに詰まったりしてしまったときには、上記の便利な方法を使ってみるのもいいかもしれませんね。