漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

兼業で漫画を描くノウハウメモ(2022年2月版)

 今、仕事をしながらたまに漫画を描いているので、仕事をしながら漫画を描くためにやっていることをメモしておきます。

 

・ネーム編

 ネームというのは、漫画の設計図のようなもので、漫画を作る上では必ずしも必要なものではありません。同人誌では今でも作らずに描いています。しかしながら、商業原稿ではほぼ必須の工程です。なぜなら、編集さんに見せる必要があるからです。

 設計図の段階で見せるのは、その段階で内容を改善する必要があるからです。完成原稿まで描いてしまったものを修正するのはかなり面倒な作業ですが、設計図の段階であれば、大きく修正することも比較的容易です。

 

 なので、ネームの役割のひとつは、他の人に共有するために、これから作るものがどういうものであるかが理解できることです。その最低限の構成はコマ割りと台詞で、絵については、イメージが伝わればいいのではないかと思います。モブの人の顔を細かく描くのが面倒なときは、顔に文字で名前を描いたりもします。顔のある場所を丸だけしか描いていないこともあります。

 ちゃんと描かないのは、その段階では、その部分は全体設計の中ではあまり重要ではないと思うからです。キメの表情などは重要なので、どういう表情になるかを細かく描いたりもします。また、どうせ修正のときに消すかもしれないので、あんまり気合を入れて描いてもなと思っている部分もあります。

 ネームが完成し、編集さんに伝われば、分かりにくいところや、盛り上げるために必要なアドバイスなどが発生します。僕は修正指示には今のところ全て対応していると思いますが、修正意図は確認し、アドバイス通りではなく、その意図に沿う形での代替案で直すときもあります。

 

 結果的にどのようにしたいかという部分において、僕と編集さんで方向性が一致していれば、あまり修正で困ることはなく、自分の見落としを指摘してもらえるので、自分以外の人が、この段階で内容をちゃんと読んでくれて、意見をくれることはかなり助かります。

 実際、そうやってネームは修正すると良くなったと感じるので、良くなったなと思うと、どんどん自己肯定感が上がってきます。

 

 最初のたたき台となるネームがどうやったら描けるのかは依然として謎に包まれています。今までのところどこかのタイミングで完成はしていますが、そのプロセスがちゃんとしたルールになっていないので、サイコロを振っていたらたまたま出来るみたいな感覚に近いです。

 それでもいくつかの手がかりはあり、ひとつは見開き単位で作るということです。「ページをめくったときに、次に何が見えて欲しいか?」という部分が重要だと感じていて、この見開きの2ページに何を描くのかは決まっていないが、とりあえずページをめくったあとに何があるかを先に決めて、間を埋めるような描き方をすると進みが良くなります。

 ページをめくった先には、驚きがあって欲しいと思います。そうするためには、ページをめくる前に読者が想像したことを少し裏切る必要があり、そのような予測のずらし方を重ねることで、グルーヴ感を上げていくと具合がよく感じます。

 

 文字のプロットは作っていません。その理由は、作ったところで、どうせその通りにはならないからです。ネームを描く前の時間よりも、ネームを描いている時間の方が長いですし、より具体的に見えてくるとアイデアも生まれやすくなります。ならば、最初に思ったことよりも、途中で思いついた方に舵を切った方がいいと感じてしまいます。そのため、ぼんやりと方向性は考えていても固めることはせず、実際にネームにする段階で初めて完成する感じにするようなやり方になります。

 ネームをするときにしてはいけないのは、考える以外のことをしないことです。特にツイッターを観てしまうと、ネームは完成しません。そういうのを見るとき、自分が他人が考えたことを再生する装置になるので、自分として考える機能が停止するのではないか?と思っています。

 

 とはいえ、世の中には何かしら夢中になってしまうものが沢山あるので、僕はそれらを遠ざけるために原チャリを運転して買い物に行くことにしています。運転中は何かを見たりできないですし、運転に集中しなければなりませんが、頭は比較的暇なので、そこまで考えたことを頭の中でぼんやり再生していると、ふいにその先が流れてくることがあります。それを捕まえると、続きが描けるので、先の展開が思いつかないと運転をすることが多いです。

 そこでひとつでもいい感じの場面が出てくれば、それをまずネームに描いてしまって、前後を上手く馴染ませて取り込むような感じにします。

 

 僕は自分の作者としての力量は全く信じていませんが、読者としてはそこそこ信頼しているので、ネームを作る工程で重要なのは、自分でそれを読む工程です。読んでいて不自然だな?と思うところを細かく修正していって、読者としての自分のひっかかりがなくなるまで、やすり掛けのような作業をすると、当初はボロボロでも、だんだんとそこそこ読めるものになっていきます。漫画を読むのが得意でよかったなと思います。

 

 だいたいそんな感じにするとネームができます。ネームが出来る時間はまちまちですが、1週間から2週間ぐらいで何かができることが多いです(ページ数にもよります)。上手く描けてないなと思っても、そのまま編集さんに送る場合もあります。そうすると相談できるので、また直す糸口が見つかったり、上手く描くには足りてなかったページが増やせたりすることがあります。

 

 そのやり取りの中で、編集さんがそのネームに対して言うことが特になくなかったら完成という感じになります。

 

 細かく言うと、他にも指針にしているものがいくつかあります。面倒なので全ては書けませんが、例えば、キャラクター同士の会話の繋がりは噛み合わせず、少しずらしておくようにしています。それは、現実の人の会話が実際そうだと思うので自然さを出すという意味と。完璧に噛み合った会話は、一人の人間の考えを2人に分けて描いているだけに感じて、情報量が減ってしまうと捉えているからです。2人いるのだから、別の人格を持つ2人が会話するから出てくるような情報があった方がいいだろうなと思っています。

 また、噛み合った会話は起承転結で言うと承が続くようなもので、長くなりやすいです。長くなったのに見合うだけの情報があればいいですが、そうでないことも多いので、会話を途中で打ち切ったりすり替えたりする方が短く表現することができます。

 つまり、承ではなく転で会話を繋げた方がいいと思っています。そのために楽なのは、他人の話をちゃんと聞かずにぐいぐい行動するキャラクターで、人と上手く会話していない人を会話の中に放り込むと話が早くなっていいなと思ったりしています。が、僕が作る漫画はうじうじと考えるが行動を起こさない(僕のような人)が出やすいので、その辺をどうするかが考えどころです。

 

・作画編

 ネームはそんなに早くできる技がないんですが、作画の時短テクは沢山あります。

 まず重要なのは、ネームがそのまま下描きになるようにすることです。特に、ネームで描いている絵の比率と、原稿の比率が異なると、コマの中の絵の再設計から始めないといけないので二度手間です。ネームでコマ割りから台詞の配置までを一旦終わった状態からスタートすると、その部分が時短になります。

 僕個人の感覚かもしませんが、精神は目減りします。やるぞ!と思って描き始めた当初は、良い感じの線で絵を描けますが、作業を始めて時間が経つと、だんだんとぶっとくて雑な線で絵を描くようになってしまいます。それは疲れてきたので、早く終わったことにしたいという気持ちの表れではないかと思います。

 

 ともかく作業をしていると、だんだん絵が荒れてくるので、元気があるうちに、見せ場のコマからまず描いていきます。

 

 背景は基本的にクリップスタジオの3点透視のパース定規に沿うように描きます。パース定規を使うと、全ての線が設定したパースに沿うように描けるので、雑然と描いてもそれっぽい画面になります。

 ここで背景を何のために描くのかという話になりますが、僕の場合はキャラクターがどこにいるのか(状況把握)と、そこにどのような3次元空間があるか(位置把握)を表現できればいいと割り切って、背景そのもので何かを表現したり、現実にあるようなディテールのある背景を再現することは諦めています。

 これは一人で描いているという事情から、かかる労力とリターンのバランスでやらないことにしていますが、あった方が幅が広がるということは当然あります。そのため、労力を減らす手段として、写真を上手くベースにした背景が描けないかは色々試しているところです。

 

 背景で便利に使っているのはグラデーションのトーンです。これはお手軽に明暗の変化を描くことができるので、貼るだけで背景の情報を増やすことができます。人間は明暗の区別に敏感なので、明暗の差があれば情報を読み取ってくれます。つまりグラデトーンは空間の情報を示すための便利な補助になるんですよね。

 トーン処理も、基本的には絵の描き込みを増やさずともお手軽に情報を増やせるツールとして使っています。シンプルな例で言えば、手前と奥が表現できればよく、カメラの手前にあるものをボケさせるようにトーンを貼ったり、逆に奥にあることを示すためにトーンを貼ったりします。

 

 絵の描き込みは増やせば情報が増えて目が留まりやすくなりますが、増やし過ぎるとガチャガチャしてしまうこともあります。人は描き込みの多いところに自然と目が向きますが、そのためには逆に他の部分の描き込みを減らす必要もあります。

 その辺の塩梅をトーン処理でお手軽にやってしまおうとしていますが、まだ最適なバランスは見つけられていません。

 

 時短の理想で言えば、トーンがなくとも質感と奥行きが表現できればいいのですが、その画力が不足しているので、トーン処理に頼っているというところもあり、まだ何段階も改善ができるポイントだと思います。

 

 3点透視のパース定規を使うことには重要な意味があり、それは3Dモデルの素材を使えるようになることです。3点透視のパース定規のレイヤの上に3D素材をドラッグアンドドロップすれば、そのパースに合わせて変形してくれるので、描くのが面倒なものを素材を使うだけで済ますことがやりやすくなります。

 実際は素材をそのまま使うと画面になじまないので、線を自動抽出したあとでタッチを追加したりしますが、複雑な形状をしたものはできるだけ素材を購入して、それで済ませようとしています。メガネとかも描きたくないので、3D素材で済ませるようにし始めました。

 

 僕は人の顔の絵は労力を描けずに一発で思った通りの絵が描けるので、基本的には人の顔の絵を上手く連ねていくことで、漫画を構成しようとします。人の顔を描くのは楽なので、まずはズバババと人の顔のアップのコマを埋めてしまい、だいぶ進んだなと思ったあとで、後半戦で背景を描かないといけなかったり、沢山の人がいて、その距離感などを表現しないといけないコマが残りまくって苦しくなってきたりします。

 

 今はそういうコマはクリスタの機能で3Dの人形をまず配置して、アタリの代わりにしたり、パースの雰囲気を掴むことで段階的に進捗させることでなんとか乗り切っています。

 時短で絵を描くためには、悩まないということが必要で、つまりは、何が正しいのか?という部分を何度も試行錯誤することを止めなければなりません。これは数をこなしていけば、良いと悪いの基準も整理されてくるので、割と速く描けるようになってきます。

 

 ただし、本当は悩むことが力になると思うので、もっと悩んだ方がいいと思うのですが、今のところはとにかく量を追求する時期だなと思っていて、多くのページ数を描くことの方にまずは注力しているという認識です。

 

 あとは、実際に作業時間を計ってみて思ったのですが、手を動かしていない時間が結構長く、とにかく一秒でも多く手を動かせばそれだけ早く終わるので、手を止めない工夫が必要です。

 今のところは作業通話がそれにあたると思っていて、人と喋りながら手だけは絵を描いていると、口の方に意識が集中して、手を止める思考にならないのか、ずっと止まらずに絵を描き続けられるので、作業が遅れ気味のときには誰かがやっているmocriの作業通話に入ったり、discordで友達に強請ったり、twitterのスペースで開いて人に来てもらったりをすることで進捗を出しています。

 

 今のところは、1ページあたり1時間~3時間程度で描き上げていて、ここのところは平日2~3時間、休日5~8時間程度を使うことで、作画だけなら月に50ページぐらいまでは無理をしなくてもできるということが分かってきました(いや、自分にそんなに漫画仕事があるのか?という部分はありますが)。

 多分もうちょっと効率化ができるんじゃないかという認識があるのと、効率的ではないが、今はまだやったことがないが意味がある表現のバリエーションを増やしたいというのもあって、ここからも試行錯誤が続いていくと思います。

 

 長くなったので、とりあえず今回は終わり。