「恋愛経験が豊富」という言葉について昔から気になっているところがあって、それってどういう意味なんだろう？と思います。例えば、今まで何十人もの人と付き合ってきたひとは恋愛経験豊富でしょうか？例えば、同じ人ととても長い期間付き合ってきた人は恋愛経験豊富でしょうか？
沢山の人と付き合った経験がある人は、色んな人との関係を構築したことがあるので、経験豊富と捉えられる一方で、そんなに沢山の人と付き合ってきたということは一人一人とはとても短い期間としか付き合ってこなかったということになります。色んな人と長期間の関係性を構築することがなかった人が経験豊富と言えるでしょうか？
一人の相手と長く付き合った人は、その期間の中で色んな経験をすると思うので経験豊富と捉えられる一方で、その人以外と付き合ったことがなければ、その経験は一人の相手に特化したものであって、他の人であればどうかは分かりません。一人だけの経験を一般化して語るのであれば、それを経験豊富と言っていいのか？という疑問があると思います。
それらはそれぞれ「豊富と言っていい」と思いますし「豊富と言うには疑問がある」とも思います。つまり、経験豊富という言葉の中には色んな意味があるということです。ある意味では豊富だし、別の意味では豊富ではなかったりします。
人のよって色んな差があるという経験を参考にしたければ、多くの人と付き合った経験のある人の話が参考になるかもしれませんし、一人の人との長い関係の中で出てくる色々なことについては一人の人と長く付き合った経験のある人の話が参考になるかもしれません。
木尾士目「陽炎日記」に、恋愛に対して多くの洞察があるように語っていた男女が、互いに自分は「処女」と「童貞」であることを告白するというくだりがあります。僕はこの話がすごく好きなのですが、では、自身の恋愛経験が乏しい彼らの恋愛論は無意味でしょうか？彼らは恋愛経験が乏しいでしょうか？
それも乏しいという考え方もあれば、そうでもないという考え方もあると思います。自分以外の話でも、一人の人間では経験できないような色んな事例を見聞きしてきた人には、それなりの知見のある論があると思うからです。
ただし、当事者となったことがない以上、そこに自身の経験でないがゆえの不可知の領域があるということを忘れると暴走してしまう可能性があります。
実体験が伴わないものに対しては、容易に正しいことが言えるからです。自分の話でなければ、ダイエットを成功させたければ食べる量を減らして運動をすればいいだけ、と言うことができます。でも当事者からすれば、その正しいことをする上での欲望を抑えることの苦しさや、運動をする上での苦しさをどのようにいなしていくかの考えが、すっぽり抜けていると思うかもしれません。
どれだけ人間に対する鋭い洞察や科学的知見を持っていて「正しい」考え方ができたとしてもも、人間はそういった外部的な理だけに沿って生きることが容易ではなく、目の前の欲望や苦痛との兼ね合いによって別の選択もしてしまうという認識が必要だと思います。
つまり、それによって、必ずしも第三者的に見て合理的ではない選択をしてしまうということです。
もしそれに対して、「なぜ人が合理的でない行動をするのか？」という疑問を持つならば、それは人間の行動原理に対する考え方が荒いということになると思います。合理的と思っている範囲が狭いことを、合理的ないと思っているだけだと思うからです。経験をするということは、その部分に対する認識の広がりをもたらしてくれるものかもしれません。
思ったこととしては、豊富かどうかというのは色んな捉え方があって、経験だけにも寄らないし、経験が役立つことも大いにあると思います。ただ、結局のところ豊富と判定されるかどうかは、それを外部から利用する人、つまり例えば相談相手になるなどの場合に、どれだけ相手の立場に合わせた役立つことが言えるか？という話になるのかもしれません。
その意味では様々な実体験が伴うかどうかはその下に隠れた部分でしかなく、あるかないかは表面からすると関係なく、突き詰めれば恋愛経験のないAIが生成した回答も、恋愛経験豊富な回答だなと認識できるかもしれないなと思いました。
こういうのは結局、人の中身の話ではなくて、その人を見た周りが勝手に判定することなのかもしれません。
