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来てるかも!?中年新人漫画家の時代関連

 漫画家に限らず、何かの志望者は若い方がいいみたいな風潮が世間的にはある気がします。そこには、志望する側からの「いい歳して何かを始めるのは恥ずかしい(いい年して拙い何かを晒したくない)」みたいな意識もあるかもしれません。しかし昨今、漫画に関しては、中年や中高年になって初めて漫画の仕事を始める新人漫画家が結構いるのが目に見えてきたようにも思います。

 中年新人の時代です。

 

 僕自身の今の状況がその一例で、34歳のときに何となくコミティアで初同人誌を出し、37歳で出していた同人誌をもとにちばてつや賞を受賞、39歳で原稿料を貰っての読み切り漫画の初仕事を行い、40歳で会社員を継続したままでコミックビームで連載デビューしました。

 同人活動を始めたときの僕は、「自分にも漫画を描けたらいいな」と思っていたぐらいで、お金を貰って商業誌に漫画を描かせて貰える機会が自分に来るなんて思ってもいなかったことですが、たまたま色んな人に声をかけて貰えたおかげで、うっかり運よくこのような道に繋がりました。もちろん新人ですから、この先も続けられるかどうかは全然未知数のスタートラインに立ったばかりです。

 

 僕の漫画活動は、昔の世間的な雰囲気からすれば、漫画家志望者が漫画家になることをもう諦めるぐらいのタイミングでようやくスタートしており、「何かを本格的に始めるのに遅いということはない」という事例として使えるな、と自分自身で思っています(いいでしょ?)。

 一方で、じゃあ、今の僕は特異な事例なのかというとそうでもないように感じていて、ここしばらくのビッグコミックスペリオールには60代の新人の漫画が載っていたり、この前は別の50代の新人の漫画が載っていました。他にもいくつもの30代後半や40代になってから漫画家としての歩みを始めた人の話も目にしています。

 なので、別に自分程度の年齢は今の状況ではさほど特別と言い張れるようなことでもないなという認識もあります。

 

 実際、色んな編集部と話をさせて貰ったときに、「もういい歳なので…」という話をすると「年齢そのものが何かの障害になることはない(むしろ年齢以外のハードルの方がずっと大きい)」と毎回言われていて、そうなんだ…中年がチャレンジするには良い時代だな…と思いました。そんな時代です。

 

 僕のケースについては、「もっと早くに始められていれば良かったんじゃないの?」と言われることもあるのですが、このタイミングでなければできなかったなとも思っていて、その理由を端的に言えばテクノロジーの進歩が、中年新人が漫画に取り組む上でのハードルを劇的に下げてくれているということがあるからです。

 iPadとClip Studioがあることで、僕はなんとか漫画仕事をすることができていて、それがなければきっと、やりたいなと思ったとしても、具体的なアクションに行く前にハードルの高さで何もできなかっただろうなと思います。

 

 iPadとClip Studioの組み合わせの素晴らしいところは、いつでもどこでもできること、デジタルなので何度でもやり直しができ、描いたあとの絵を加工もできること、パースに合わせて自由に設定できる定規など、デジタルならではの絵を描く上での便利な機能があること、色んな素材を簡単に入手加工できることなどです。言葉にすればそれだけのことですが、それだけのことがとても重要です。

 やりたいことがある場合、やりたい気持ちを積み増して突破するのもいいですが、ハードルを下げることで、やりたい気持ちを無限湧きさせなくても淡々とやれるようにできるといいんじゃないかと思うからです。特に中年になってくると、やる気がそもそも出てきませんし、そんな曖昧なものを手がかりにしていては何にもできません。

 

 やる気に欠ける中年が何かを作る上では、お金を使って下げられるハードルはいくらでも下げた方がいいと思います。それが色んなやり方でできるようになってきたのが今の時代のいいところだと思うんですよね。

 

 同人活動も、ネットがあれば、データをアップロードするだけで簡単に印刷して貰えます。これが印刷所と事前に色々話をしないといけなければ、よく知らない人と話すことで疲弊しやすい僕はできなかったと思うので、デバイスやソフトウェアのテクノロジーの進歩、高速なネットの普及と、同人活動が簡単にできる印刷所が存在してくれていることなど、やろうと思えばすぐにでもできる環境が、今めちゃくちゃ良い感じにあってよかったなと思います。

 やりたいと思う気持ちがわずかにでもあるなら、このような高速道路が既に整備されているので、それらを使えば最速で何かを作れるはずです。

 

 僕がこういったことを奨励するとかしないとか関係なく、事実として「漫画を描いて発表する」ということのハードルは年々どんどん下がっているので、当然の現象として、中年以上になってからちょっくら漫画でも描いてみるかと描き始める人は今後どんどん増えてくるんじゃないかと思っていて、それに比例して中年になってから描き始めた漫画でプロになる人も増えそうだと思っています。

 

 今は漫画を描くにはとても良い時代になりました。中年だけどやってみたいかも!と思う人は、とりあえずすぐに始めてみてもいいかもしれません。

 

 ただ、最初から反応を得ようとすると、反応がすぐには得られない(運の要素も大きいので)という報酬の低さにくじけてしまうかもしれません。なのでまずは、自分が感じる面白いものって何だろう?と考えながら、それを上手く再現する方法を試行錯誤をしてみるのがいいんじゃないかと思っています。

 少なくとも僕はそうしていて、面白いとはどういうことだろう?と考えて、それに対して自分なりに仮説を立て、試してみてるところが面白いなと思ってやっています。それが他の人にとっても面白いかなんて分かりませんが、まずは自分の手ごたえを感じられれば達成感がありますし、達成感があれば続けられます。

 続けて行けば昨日の自分と比較して、だんだんと上手くなります。僕もこの前3年ちょっと前の自分の原稿を見て、下手くそだなと思いましたが、下手くそだなと思えるようになったのは、つまりそのときよりは上手くなったということだと思います。あと、当時も下手くそなりに、何かを一生懸命描こうとしているなとも思って、それもよかったですね。

 

 中年になってから漫画を描いてみるのはとてもオススメだと思います。なんでかというと、僕が今それを面白いと思っているからです。