漫画皇国

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将太の寿司Tシャツをめぐる冒険

 2019年7月29日、将太の寿司界隈を驚かせるビッグニュースが舞い込んだ。週刊少年マガジンの60周年記念を祝したユニクロとのコラボ商品のラインナップに、将太の寿司が含まれていたのである。

 

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 他の作品と比べ、20年以上前に連載が終了した作品が取り上げられるのは異質に感じた我々は、ひとつのことが思い当たった。つまりは、昨年のネット上での将太の寿司ブームである(以下はそれを僕が勝手に総括した文です)。

mgkkk.hatenablog.com

 

 ユニクロ講談社も粋なことをするじゃないか。昨年ぐっと増えた将太の寿司ファンに対して、公式のグッズ供給が行われない辛さに手を打ってきてくれたのだろう。漫画は時代を超えて読み継がれる。電子書籍の時代になればなおのことである。

 しかしながら、それはもう、とうの昔に終わった連載なのだ。時代を超えてファンにはなれるが、公式の供給は一定数のファンが集中している時代にしか行われない。好きになった人は、もう手の届かない場所に行ってしまっていた。そういうことの方が多いのだ。

 だが、我々には来てしまった。そのときが。今このときを逃しては、この先もうないかもしれないチャンスが到来してしまった。買うしかないだろう。買うしかないじゃないか。デザインもクソだせえなと思ったりはしたが、だがそれがいい気持ちになってきたじゃないか。

 

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 白Tシャツの絵はマグロづくしの寿司桶である。これはまだ小樽にいたころの将太くんが、父親の代わりに寿司の大会に出るために作った寿司である。笹寿司の嫌がらせにより、閉店に追い込まれそうになっている将太くんの実家、巴寿司の名前も入っている。父親は両手を怪我し、寿司ネタの仕入れも制限されているときに、仲間の尽力で唯一手に入ったのがこのマグロである。だから、マグロづくしなのだ。マグロしかないのだ。将太くんはこの寿司桶の中に、マグロの全てを詰め込んだのだ。多彩なネタを仕入れることすらできなかった逆境を、むしろ力に変えてその寿司は出来上がったのだ。

 この寿司にはドラマがある。むしろ将太の寿司のロゴすら不要かもしれない。マグロづくしであるからこそ、その寿司が赤だけに彩られていることの意味がある。白黒の紙面では見えなかった色がそこにある。

 ロゴがないほうがハイコンテクストでかっこいい気もしたけど、ロゴがないとわかる人にしかわからないので、ロゴはあってもいいです。

 

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 グレーTシャツの絵は正面はワンポイントのマグロの寿司と将太の寿司のロゴである。これはさりげなくて嬉しい。気づく人だけが気付けばいいのだ。上に一枚羽織れば、ほとんどの人はそれが将太の寿司Tシャツだと気づかないかもしれない。でも、それは将太の寿司のTシャツなのだ。自分だけが分かっているのだ。おいお前ら!?お前らは気づいていないかもしれないが、僕はいま将太の寿司のTシャツを着ているんだぞ!!と胸を張って街を歩くのだ。

 そして羽織った上着を脱いだとき、その背中には小手返し一手(片手で一回で寿司を握る技法)のコマが入っている。擬音もかっこいい。「スパーン」だ。これは片手を怪我した将太くんが、それでも寿司を握ろうとしたコマなのだ。

 

 こう考えると、2つのTシャツには共通点があることが伺える。逆境の克服だ。父が両手を怪我しても、マグロしか手に入らなくても、自分の片手を怪我しても、それでも寿司を握るのだ。これは将太の寿司のテーマのひとつでもあるかもしれない。どれだけ笹寿司の嫌がらせにあったとしても、その逆境の中で自分にできることを掴み取り、道を切り開いていく物語なのだ。将太の寿司は、生きるための寿司なのだ。

 これは我々の状況とも似ている。公式グッズの追加供給など、とうに諦めていた我々に、唯一供給されたTシャツがこの2枚なのだ。少なく、選択肢のない、この逆境の中で生きることを掴み取ることこそが、将太の寿司のTシャツなのだ。

 

 2019年8月12日、その日は朝から落ち着かない空気が流れていた。

 僕は近所のユニクロがいつ開店するのかを調べ、そして、思っていた。

 「開店と同時に入って将太の寿司Tシャツだけを買って帰るのって、え、あの人、将太の寿司Tシャツが欲しすぎて、朝イチで来たの??って店員さんに思われはしないだろうか…」と。しかし、そんな他人の目を気にして遅く行って、売り切れていたらどうしようと不安になる。他人の目を気にしてしまったことで、入手できないなんてことはあってはならない。だから次に、僕はこう検索した。

 結論としては、ネットで検索する限り、将太の寿司Tシャツ欲しさに、開店前から並んでいる人はいなさそうだ。僕は少し考え、開店15分後あたりに着くことを目標に家を出た。

 

 現地に着くと、ひとつの杞憂が分かった。セルフレジの存在である。将太の寿司Tシャツだけを買っても、セルフレジなら他人の目は気にならない。いいじゃないか!と僕は思った。しかし、そんな少しの安心を完膚なきまでに破壊する出来事が起こる。

 ないのである。将太の寿司Tシャツはおろか、マガジンコラボのTシャツすらひとつも置いていない。住宅街の近くにある小型の店舗だからだろうか?なんということだ。最初からそこに希望などなかったのだ。

 

 

 大好きな幽遊白書のコラボTシャツの悪口を言いながらも、僕は次の行動に移っていた。比較的近くのショッピングモールの中には大型店舗がある。そこに向かえばいい。僕はバイクを走らせた。

 

 ショッピングモールの駐車場にバイクを止め、他の人の状況はどうだろうと、Twitterを開くとそこには笹寿司からの情報があった。

 そうなのだ。ユニクロのWebサイトには在庫検索の機能があったのだ。でも、ショッピングモールに来ちゃったし、ここで在庫ないの分かってそのまま帰るのもあれだから、検索せずに店舗を見にいっちゃおとなったので、とりあえず行った。

 ない。

 検索をしてみたら、そもそも埼玉県にはないっぽい??

 

 分かったよ!!だいたいわかったよ。将太の寿司をラインナップに入れてみたものの、でも、ネットで流行ったぐらいで、全国の店舗に供給しても、どうせ在庫がだぶつくだろうって思ったんでしょ?でしょでしょ??

 そして、流行ったのはネットだからオンラインショップからなら買うかもだし、超大型店舗でしか取り扱わなくっても、寿司のオタクなら買いにくるだろ??って思ってるんでしょ??

 

 そうだよ!!!!!!!買いに行くよ!!!!!!

 

 現実が、将太の寿司化してきました。寿司勝負のために最高の寿司ネタを探して走り回る将太くんと、寿司Tシャツを探して走り回る自分が一致してきました。

 

 この頃になると、全国各地の寿司のオタクたちも近所のユニクロ将太の寿司Tシャツが入荷されていないことに気づいてざわつき始めます。僕の、そして彼ら彼女らの、寿司のTシャツを求める動きが、静かなうねりのようにネット上に広がっていきます。

 誰に言われるでもなく、皆は「笹寿司の仕業だ」と思い始めました。

 

 夕方にユニクロ池袋東武店に到着した僕は、Tシャツを探してフロアを走り回りたい気持ちを押さえ込み、若干早足でキョロキョロしていたところ、ありました。

 

 ありました!!!!!

 

 よかった。これで最高の寿司が握れる。しかし、この店舗には罠があります。セルレジがないのです。将太の寿司のTシャツを2枚だけ持って行くのは、恥ずかしくないだろうか?そんな気持ちが胸で揺れました。

 でも、いいんですよ。欲しかったのだから。これだけ欲しかったという気持ちが何の恥になりましょう?欲しかったんだから、店員さんだって欲しかったんだなって思ってくれるんじゃないでしょうか?いや、そもそも客が何買ってるとか、全然興味ない気もしますね。

 

 

 ここからは、まだ寿司Tシャツが買えてない人に優越感を感じるフェイズに入ったので、そういう感じです。

 

 こうして、将太の寿司Tシャツをめぐって走り回る長い1日が終わった。たぶん正解は、オンラインで注文することだった。近所のユニクロで店舗受け取りにしていれば、朝の時点で終わっていたかもしれない。

 でも、いいんだ。僕には将太の寿司Tシャツがあるのだから。しかも、2枚も同時にだ(見てるか谷沢)(安西先生!)。

 

 あと、今さっき検索したら、オンラインももうあんまり在庫なさげなので、欲しい人は早めに買った方がよい。

 

 将太の寿司Tシャツをめぐる冒険(完)。