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退路を断つ方がいいのか退路がある方がいいのか関連

 ガールズバンドクライというアニメを見ていて、大学受験のために予備校に通っている主人公が、バンドに本気になるために予備校を辞める宣言をしていました。

 友達とその話していて、予備校は辞めない方がいいと思うよ(バンドも勉強も頑張った方がいい)ということを言ったら、まあアナタはそう言うだろうという反応があり、自分は会社員を続けながら漫画家もやっているので、確かに一貫性があるかもしれないと思いました。

 

 ここから先は特にガールズバンドクライの話ではなく、僕が思っていることの話です。

 

 退路を断つとチャレンジングな道に進むことができる、というのは確かにそういうところがあると思いますが、それは退路を持っている人の言い分だなと思っていて、最初から退路なんてない立場の人からすると、「退路がない」ということが、だから「チャレンジングな道に進むことができる」ことを意味しないことも多いと思います。つまり、逃げ場がないために、是非を別として今目の前にあることをやるしかないという状況になってしまったりします。そこに苦しさを感じたり、長期的な損得よりも短期的な損得を考えるはめになり、それがじりじりと自分を追い詰めていく可能性もあります。

 

 つまり、間違えても戻れる場所があるなら、失敗したら戻ればいいんだしという気持ちでチャレンジもできますが、一回失敗するとおしまいという退路が断たれている状態では、失敗ができないという状況に追い込まれることがあります。もちろん、居心地のよい退路から一歩も出れないということもあるかもしれません。

 

 なので、これはどちらかが正しいという話でもないと思います。どちらも正しいというか、実はそもそも退路のあるなしの話ではない気がしていて、つまり、「理想に向かって進んでいくことは難しい」という話です。退路を持ち合わせている人は、自分には退路なんかがあるから進めないのだという解釈をし、退路を持ち合わせていない人は、自分にもし退路があれば怯えることなく進んでいけるのにと思ったりするのではないでしょうか?

 

 僕が漫画の連載を始めるにあたって会社員を辞めたりしなかったのは、いつまで続くのかも分からない連載と、売れるのかも分からない自分の漫画に専念することの怖さからです。会社員という退路があるので、生活は会社員の方で成り立つという安心感から平気で漫画の仕事ができるのであり、そうでなければ貯金が尽きる不安の中で苦しみながら仕事をしないといけなかったかもしれません。

 もし、連載が決まったタイミングで会社を辞めて退路を断っていれば漫画の仕事が今よりもより順調になったでしょうか?なったかもしれませんし、ならなかったかもしれません。わかりません。ただ、少なくとも僕にとっては兼業する前提でしか漫画の仕事をすることを選べなかったというのが真実です。怖かったからです。

 

 以前受けた相談で、漫画家になるためには仕事を辞めた方がいいだろうか?というものがあり、そのときも「辞めない方がいい」と答えたと思います。そのときも他の友達の反応は、まあアンタはそう言うだろうねという感じでした。

 

 いや、でも、辞めたっていいんですよ。それを止めたいわけでもありません。専念してみて上手くいけばいいですし、上手くいかなければまた再就職してもいいと思います。ただ、一回両方をやろうとしてみたときに、自分の心が把握しやすくなるんじゃないかとも思っていて、何を危惧しているかというと実は「漫画家になるために仕事を辞めたい」のではなく「単に仕事を辞めたい」という気持ちを「漫画家になりたい」という言い訳で無自覚に隠している可能性があることです。そして、実際自分が無自覚でそうだったとき、仕事を辞めた時点で目的を達成してしまい、その後も漫画家になるための活動をすることができず、余裕をどんどん食いつぶしていく中でさらに行動ができないくなるという辛い状態を想像してしまいます。

 なので、忙しくてもできるぐらいには漫画をやりたいのだと、辞める前にまず確認してみてもいいのではないか?と思います。

 

 会社員として忙しい中で漫画を描くのは仕事量的に大変ではありますが、メリットもあって、時間も体力気力も有限なので、その制約がある中で漫画を描こうとするとどうしても効率化をしていかないと成り立たなくなります。効率化を行おうとすると、自分がどこに時間を使っていて、それは何故なのか?それを短くする方法は何があるのかを考えて、自分に適用して効果を見て、上手くいけば採用しますし、上手くいかなければ別の方法を考えます。このような試行錯誤によって僕の月々の漫画生産量は始めた頃の数倍にはなっていますし、そのおかげで兼業漫画家生活を続けられています。

 兼業の限られた時間の中で成果物を作らなければならないという制約が、自分の作業効率化を促したので、そういう時間はあってもいいのではないかと思います。

 

 ここで気づいたかもしれませんが、実は、退路を断たないために兼業をやっているように見えて、兼業の限られた時間で連載を続けなければならないという形に退路を断っているとも言えるんですよね。この観点から言えば、十分な時間のある専業の方が退路を確保していると見ることもできます。

 なので、最初にも言ったように、退路を断つ断たないはそんなに重要ではなく、成果を出せるか出せないかという話ではないかと思いました。自分が成果を出せると思った方をすればいいと思いますし、僕の場合はどちらかに専念するのではなく両方やる方が成果が出ると思っているからやっています。

 でもどちらかに専念していたら今よりもすごい成果が出ていた可能性もあるかもしれません!!だったらどうしようと思いますが、僕は結局怖くて選べないだろうなと思いました。