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バズった漫画が売れるか売れないか話関連

 SNSで漫画がバズったけど本は別に売れなかったみたいな話をちらほら聞くことがあり、実際、バズるメカニズムと本を買う動機は繋がらないケースも多いと思うので、そういうこともあるだろうなと思う話を書きます。

 

 漫画がSNSでバズるというのは基本的に、多数のユーザが「その漫画を他の人にも見せたい」と思うということだと思います。その場合の見せたい理由には様々な種類があると思います。例えば、笑えるからとか、泣けるからとか、幸せな気分になるなどのポジティブなシェアでなく、そこに描かれている内容にもの申したいというネガティブなシェアや、連想する何かの話をしたいなどの漫画そのものには実は関係ない話題としてのシェアなどもあるということです。

 より細かく言えば、笑えるというシェアの中でも、物語の中で笑える作りになっているのか、一コマだけ切り出して笑えるのか、もしくは作者の意図しない形で嘲笑的に笑われているなどの実はネガティブなシェアなど、様々な種類があるでしょう。

 

 この「バズってシェアされること」と、「購買行動」の繋がりですが、例えば、嘲笑的に笑うような内容の場合、その一瞬で消費されてしまい、その漫画を買おうとは思わないかもしれません。一コマで笑えて終わったときでも、その前後に興味を持たれなければ買われないかもしれません。作中に描かれている内容にもの申したい場合なども同様で、シェアはされるかもしれませんが、その内容そのものには肯定的ではないのなら購買行動には繋がらないことが多いと思います。

 

 あるいは、タイミングの問題もあるかもしれません。バズッた瞬間に買えるのであればいいですが、その本がまだ発売前で、やっと買えるようになった頃には、もう皆は別のバズる漫画に夢中かもしれません。そして、一回バズッた漫画は、その次の買って欲しいタイミングでは一回目ほどはバズらないかもしれません。なぜなら一回見たことのある漫画だからです。

 この辺も様々な条件があるので一概には言えませんが、バズるということとその漫画を買いたいと思うこと、そして実際に買うことの間にはそこそこ広い隙間が空いていると思います。

 

 なので、バズッたけど本の売り上げには繋がらなかったなというのは全然ある話で、本の売り上げに繋がるためには単純にバズッた数字を追うだけでは不足しており、どのようなタイミングでどのような理由でバズることができればいいのか?という話かもしれません。

 個人的に思っているのは笑えるということは拡散力が強く、泣けるというのは購買力が強いのではないかと思っていて、笑えながらも泣ける話みたいな合わせ技が強いのではないか?という想像をしています。

 

 自分の話でいうと、そのうち単行本が出るので、それをなんとかして、人に買いたいと思ってもらいたいなと思っています。雑誌で読んでくれている人以外にも読んでもらうには、何らかの方法で雑誌で読んでいない人の目に留まる必要があります。その方法のひとつがSNSでのバズりだとは思っていて、それをどうにか上手く使えるといいのになと思います。

 

 そういう先々のことを去年から考えていて、上記のように定性的な考えはありますが、自分で実際に試してみた定量的なデータもあった方がいいなと思って、この1年ぐらいは色々試していました。

 以下が、事例なので共有しときます。なお、特に大きな実績があるわけではありません。

 

(1)読切掲載告知「恋のニノウチ」の場合(2021年11月)(RT: 1548, fav: 2293)

 

 掲載当時には、コミックビームヤングキングに読切漫画を1本ずつ載せてもらったというタイミングで、僕がその次にジャンプ+に読切を載せてもらうことになっていることを想像している人はほとんどいなかったと思うので、このときは「載る」ということそのものに、SNSのフォロワーに対してのニュースバリューがあるだろうなと思いました。

 なので、その1回しか使えないタイミングは大事に使った方が良いというか、掲載情報を告知した後と、実際に掲載されるタイミングの2回に分けてしまうと、その拡散力が分散してしまうなと思ったので、掲載される日までは告知を自粛してみました。

 これは漫画の内容以前に、まず驚きによってシェアしてもらえるのでは?という考えで、そういう反応を得つつそこそこRTしてもらったので、試みとしては想定通りだったのではないかと思います。

 そういえば、掲載の数日前にジャンプ本誌に予告が載ったので、めざとい人は見つけてくれていたのですが、上記の告知タイミングの考えと矛盾してしまうので無視してしまいました(ごめんなさい)。

 

 漫画の内容も、せっかく多くの人に読んでもらえる場所で公開するのだから、ポジティブにバズらせようと思って描いたところはあります。ポジティブにバズらせようという言葉の意味としては、「読んだ人がポジティブな気持ちになる物語」にするということと「例えば特定の価値観を一方的に断罪することで賛否両論になることを誘導したりしないようにする」の2点です。

 前者は読んだ人に、読んで得したと思って貰いたく、後々に僕の本を買いたいと思って貰える布石になればいいなと思いました(こういうことを書くと好感度が下がるかもしれない!)。また、後者も結構気にしていて、内容への賛否による盛り上がりとなってしまうと、話題になったとしても、そこにアンチや、そのアンチへのアンチの争いが生まれる結果になったりしたら嫌だなという考えがありました。

 なので、ある種の問題を描きながらも、それに明確な敵を規定して倒すような話として描くわけではなく、その苦しみがある中で、人が何かポジティブな行き先を掴む物語として描こうと思ったのは、意図的な部分があります。でも、それが上手く行く確証はなくて、自分の考えているバランスが全然世間と合致していなくて、めちゃくちゃ叩かれたら嫌だなあと公開前まではビビっていました。

 

 PV数としてはジャンプ+のアプリで確認できる数字では49万超、僕の告知ツイートからのリンククリックは7000弱という感じなので、僕の告知から誘導されたのは1.4%程度という感じでした。2%ぐらい行けばいいかなと思っていたので、そういう意味では期待しているほどの宣伝はできなかったかもという感じに思いました。

 

(2)同人誌「おもしろツイート倶楽部」の場合(2022年2月)(RT: 840, fav: 2206)

 

 同人誌が人の目に留まるかどうかは、会場で見つけて貰うのではなく事前のSNSでの宣伝しておくことが重要な時代になっていると思っています。特にコミティアのような二次創作などの手がかりのない即売会では、その要素が強そうなので、事前宣伝の効果を試してみた漫画でもあります。漫画の内容は、商業の方の原稿に時間をとられて、作る時間が全然なかったので、人が何人かでただ喋っているだけの内容を面白く描けたらいいなと思ってそのようにしました。

 この漫画で行った宣伝の試みは、オチの最後の1コマ以外は全部公開するという方法をとったところです。99%以上の内容を公開して、最後の1コマだけ見たい人は、会場まで買いに来てください、というやり方をしました。

 

 結果としては当日11:00-15:00の間に、想定冊数(100冊)に到達しました。Twitterを見て来てくれたと言ってくれる人もいたので、宣伝としては成功したと思います。同人誌はそもそも在庫を抱えないようにするために、大した数を刷っていないのですが、宣伝と結果と本を売ることのアンバランスさというのは感じていて、結局宣伝ツイートを読んでくれた人の中で最後まで読める人の数が歳代100人とかなので、これで本当にいいんだろうか?(Webで買える手段も用意した方がいいのでは?ということは考えたりもします)

 

(3)連載開始告知用の読切宣伝「へレディタリー/極道」の場合(2022年4月)(RT: 4529, fav: 16400)

 

 連載が始まるので、そのパイロット版として書いた読切漫画をネットに貼っていいということになったので貼りました。これは思ったよりもRTして貰えたなという印象なのですが、RT数が思ったより多かった理由はよく分かっていません。最後まで読めるものを提供したのと、漫画が普通に面白かったからかな(自画自賛)という感じです。

 これがそのうち出る単行本の売り上げに繋がってくれればいいのですが、どう繋がってくれるのかは未知数です。ただし、無料で公開するものがさほどRTされないのに、有料で売るものが売れるとも思えないので、ほぼ好意的に読んでもらったという反応とともにfav数が1万以上いったのは、そこそこ面白いと思って貰える人がいるということだと感じたので、多少安心できる要素かもなと思いました。

 

 本当はこういう告知と実際の売り上げの相関を見るデータとかがあればいいのですが、僕はそのデータを持っておらず、まずは1冊目の単行本から個人的に見て行こうかなと思っています(出版社はそういうデータを持ってそうですが、共有して貰えるわけではないので)。

 

(4)同人誌「デスゲーム最速理論」の場合(2022年5月)(RT: 2377, fav: 9367)

 

 一番最近作った同人誌ですが、これは宣伝の調子が良かったです。ただ、色々見誤った感じはありました。このときも時間がなくて、コミティア開催3日前から本腰を入れ始め、前日の夕方まで原稿を作っていたので、本は慌ててコピー本を100冊だけ刷る感じになりました。宣伝も前日夜にギリギリになったものの、思っていた以上にRTされたので、開場後1時間程度で完売してしまいました。その後は売り切れてしまいましたすみませんという話をずっとしていたので、せっかく買いに来てくれていたのに申し訳ないことをしたなと思います。

 この同人誌は、自分が考えるデスゲームのエッセンスの部分だけを短いページで描き切ろうと思って、当初16ページで終わらせようとして、さすがに無理で27ページとかになったと思います。そういう漫画なので、展開の早さや、デスゲームという人目を惹くキャッチーさが上手く噛み合ったのかなと思います。

 

 直近の事例を振り返ると、とりあえず内容を怒られているわけではない状態で数千RTぐらいしてもらえることにはいくつかの成功体験があり、同人誌を100冊ぐらいの本を売るのには手助けになっているような感じがしています。でも、商業誌で数千冊以上の本を売りたいときにも効果があるのかは、まだよく分かりません。

 これから何か月もしないうちに多分初の商業単行本が出るので、そういったときにまたチャレンジしてデータを見てみたいなと思っています。