漫画皇国

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ネタバレのジレンマ関連

 「ゴールデンカムイ」の完結にあたって、連載も含めて全てをWebで無料で読み放題にするという施策が行われていました。延長してゴールデンウイーク中は継続するとのことなので、ゴールデンウイークは、ゴールデンカムイのウイークということですね。

 

 この施策については、色々思うところがあって、様々な意図があるとは思うんですけど、僕が感じたのは、ネットのマナーとしてのネタバレの自粛に関するジレンマへの対応の効果があるのではないかと思いました。

 つまり、「初読者の体験を阻害しないように、ネタバレの話は自粛しよう」という既読者の態度と、「せっかくの完結なのだから読んだ人はどんどん話題に出して広がってほしい」という作り手側の思惑が、すれ違ってしまうというジレンマへの対策です。

 

 このような課題は、例えば「シンエヴァンゲリオン劇場版」でも見られたものです。長期間待たれていた、たくさんのファンがいる作品であるからこそ、まだ見ていない人への配慮が必要であると考えたり、配慮をして欲しいと主張する人がいて、多くの人が、映画を見たあとも、内容の詳細については極力喋らないようにして話していました。

 しかしながら、ネタバレを含んだ具体的な話は、広がっていく力が強いものです。それは例えば、漫画についてどれだけ丁寧に語ったツイートよりも、漫画のキャプチャ画像をそのまま貼ったものの方がすごい速度で広がっていくところなどからも伺えます。

 言葉で語られたものを漫画の内容に変換して理解しなければならない、という部分がもう既にブレーキとなってしまいます。そして、内容に仔細に触れることのない言葉は、なおのこと、外に向かって広がっていく力は弱いでしょう。

 

 なので、シンエヴァの場合は、公式がネタバレ自粛はここまででやめてくれという主旨の発信を行い、公式自ら内容を含んだ映像を公開していくことで、まだ観ていない人にまで広げていこうとする態度を見せました。

 読者、視聴者のマナーの他の人の体験を阻害しないようにしようとするマナーの良さが、結果的に作品を多くの人に届けることを阻害してしまうのは、超メジャーな作品であればブレーキ程度かもしれませんが、まだまだマイナーと言っていい作品であれば、完全に情報の伝達がストップしてしまいます。

 

 そのため、例えば「忍者と極道」では、単行本発売前後などに、漫画の内容を貼って応援するということを公式に推奨したりもしています。著作権法親告罪ですから、公式が許可を出せば、安心してそれをすることができます。

 念のため書いておきますが、これはあくまで作品側が公式にそういう態度を良しとしているケースであって、良しとしない作者も当然います。なので、宣伝になるからいいだろうという態度で漫画のキャプチャをネットに貼れば、それは当然、罪として捉えられる場合もあります。そういう認識でいる必要はあると思います。

 

 さて、「ゴールデンカムイ」の話に戻りますが、この無料公開の施策は、せっかくの最終回なのだから、この盛り上がりのブレーキとなるものは可能な限り排除し、みんなが気兼ねなく盛り上がることで、その様子を、未読の人や、読むのをやめてしまっていた人たちに向けてまで広げて行こうということだと思いました。

 大きなブレーキになるものは、単行本派への配慮です。つまり、連載が完結しても、単行本でそれを初めて見る人への配慮のため、せっかく完結してもその内容について大っぴらに語ることがなく、単行本が発売されるまで待つということがよく発生しています。

 そのため、ある物語の完結に対しての言及が分散してしまうということがあって、せっかくの完結で、多くの人が満足しているのに、それらが散発的になってあまり可視化されないということを、これまで多く目にしてきました。

 

 しかし、ネットで無料で公開されているということは、「ネタバレをやめてください」ではなく、「今読めるのだから、今読んでくださいよ」ということにできるので、かなりブレーキの効果を小さくすることができると思います(それでも単行本で初めてじっくり読みたいという人もいるでしょうが)。

 

 結果として、ネットで最終回の内容そのものに対する言及が、かつてないほど多く見えたように見えるので、これが結果的に単行本の売り上げにつながるのかどうかはわかりませんが、ひとまず長期連載の完結というものを、ある種の祭りにすることで、盛り上げることには成功したように思います。今までのように気を使いながらではなく、気兼ねなく話すことができて僕も楽しかったです。

 僕はもともと全巻買ってきていますし、雑誌連載でも読んでいるので、個人的には購買行動にはあまり影響がないのですが、こういうのが読者にどのように捉えられるのかによって、今後もこのような施策が増えていったり、また別の試みがされたりするんだろうなと思っています。