漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

紙の漫画と電子書籍とWeb連載とウェブトゥーンが違う関連

 漫画の在り方というのは近年選択肢が増えているように感じていて、昔ながらの紙の漫画の他に電子書籍という選択肢が増え、紙の雑誌ではなくWeb連載となる漫画も増え、スマホに特化したウェブトゥーンなども勢いがある状況です。

 

 一口に漫画と言っても、「読者に届ける」というやり方についてはそのような多様な選択肢があり、その中で、どの方法を選ぶか?を考えるには、どのように届けたいか?という価値観が必要だと思います。この文章では、その選択においてどのような考え方があるかについて僕が思っていることを散漫に書きます。

 

 (1)紙vs電子
 目につく大きな違いのひとつは、昔ながらの紙で作られた本と、データで売ることが出来る電子媒体の違いです。この2つの性質の違いは、販路とリスクと収納と保存性の4点あると思います。

 近年電子書籍が強くなっている理由の一つは販路だと思います。つまり、書店や通販で買う必要のある紙の本は、「買える場所が限られている(さらに書店は現象傾向)」かつ「欲しいと思った瞬間に買えない」という、電子書籍に対して劣った部分があります。つまり、「今すぐにこの場で買って読みたい」という需要に紙の本はなかなか応えることができません。

 

 また、販路の違いには決済方法という論点もあって、例えば、クレジットカードを持てなかったり、スマホ決済手段も親に握られている年齢の子供は、電子書籍を買うための決済を行うことに手間がかかったりできなかったりします。さらに、小学生以下の場合は自分専用のスマホを持てない場合もあるでしょう。

 一方で、書店で紙の本を買うのであれば、現金を出せば買えるので若年層にとっては身近な販路になり得るかもしれません(この辺の状況はしだいに変わる可能性もありますが)。

 

 この辺りのことを感じたのは「鬼滅の刃」の単行本がとても売れているときに、それまで紙の本はもう減少していくしかないだろうなと感じていたのに、「紙で買いたいと思う人がこんなにもいたんだな」ということを認識したということで、紙の本は廃れていっていたのではなく、「届くべきところに届くための導線が薄くなっていたんだな」と思いました。それは「呪術廻戦」や「東京卍リベンジャーズ」などで継続する紙の本の売れ方を見て、印象がより深まります。

 

 つまり、紙と電子では、届く範囲が異なっており、電子でなければ想定読者に届かない漫画もあれば、紙でなければ想定読者に届かない漫画も、今現在あるということです。

 

 次に、リスクの問題があります。紙の書籍はリスクが高いので出ず、電子書籍専売の漫画なども既に多く存在します。また、最終巻は紙で出せず、電子でしか出ないというケースもあり、その本をそれまで紙で買っている場合、やめてくれよ!!と強く思いますが、見方を変えれば、「電子でなら出せた」という理解にもなり、紙で出せと要求すると「なら出ない」という判断にもなってしまうかもしれないので、しぶしぶ仕方ないなと思っています。

 

 世の中には最初から紙の本は出ず、電子専売の漫画なども既にあり、それらは出版のリスクが低いため、チャレンジがしやすいという状況もあるようです。紙の本が出ないということは、印刷費や保管費が不要ですし、在庫にかかる税金もないはずです。そして、在庫管理やどのように増刷するかなどのためのあれこれの判断なども不要です。

 電子専売にすることで、様々なリスクを減らして気がるに漫画を出せるようになり、それによって世に出てくる漫画も出ているのではないかと思います。

 

 最後に、収納と保存性については、マニア向けの話です。僕の家などは紙の本をあとどれだけ家に置けるか?という部分で日々頭を悩ませており、電子ならばまだ好きなだけ買える!という希望を見ています。一方で、電子書籍は、現状電子書籍の各ストアと個別に紐づいたものなので、仮に電子書籍のストアが閉鎖した場合、読めなくなる可能性があります。保存性に難があります。

 

 電子書籍もネットのサービスとして考えると、ずっと続くものの方が少数派で、いつか読めなくなるかもしれないというリスクを抱えることになります。その点、紙の本であれば、とりあえずその物体が存在している以上は読めるので安心です。ただ、何十年とかの単位で考えれば、結局、本も物理的に崩壊していくので永遠の存在ではありませんが。

 

 これらの違いで言いたかったことは、紙と電子は対立するものであるとは限らず、その性質の違いから、それぞれの購入者に対して響く場所が異なるということです。

 ある漫画における収益の最大化を狙うなら、両方やる方が良いでしょうし、リスクの方を高く見るなら、電子専売でやるという方法も出ているなと思っています。


(2)単行本vs連載

 単行本派という言葉があるように、漫画が単行本化されて初めて読むという流儀の人と、雑誌連載で読む人が存在します。このあたりは、どちらが正しいか?ということもなく、どれぐらいの頻度で読みたいかであるだとか、単行本を買っている漫画以外も読みたいか?というあたりの違いではないかと思いますが、近年はWeb連載が増えたことによって、連載を即時に追うための選択肢が増えたと思います。

 漫画を連載で追うことのメリットは、同時性というものがあると思っていて、同じタイミングで同じものについて仲間内や知らない人同士でリアクションを返すことで、連載を追うという行為に対して、ただ漫画を読むということ以外の、何らか社会的な楽しみが生まれるという部分はあり、その他の試走な輪の中に入ることで連載を追い始める人などもいるように見えています。

 連載が読まれているかや、それに対する反応があるかというのは、特に紙の雑誌とWeb連載では大きな違いがあって、人気のあるWeb連載であれば、公開直後に、その話に対する多くの反応を見ることができます。それは作者にとっても有用なことかもしれませんし、ファン同士でもその活発さがさらなる推進力になるようにも思います。

 

 一方で、紙の雑誌での連載であれば、ジャンプ等の一部の例外を除けば、多くの場合は、読者の反応はまばらというのが普通だと思います。話題になるのは基本的に単行本が出てからで、そこである程度の盛り上がりがあることで、やっと反応にありつけます。

 

 反応の即時性も量も、Web連載の方が多くなりがちなので、作者側からすれば、自分がどこに向けて描いているのかを細かく把握したいならば、Web連載の方がいいかもしれません。一方で、即時的な細かい反応に気持ちを影響されたくないのであれば、連載は穏やかに進められる紙の雑誌の方が落ち着くという人もいるかもしれません。

 

 一概に何が良いとは言えないかもしれませんが、最近の傾向としては、自分が描いているものがどのような反応を受けているのかを観測しやすいWeb連載のメリットが好ましく思われているようにも見えています。

 

 紙の雑誌を買う人は今は少数派だと思うので、単行本発売前に知名度を上げていくためには、まず雑誌を買って読む人を増やさないといけないでしょうし、それができるなら既に売れとるという感じもしてしまいます。

 ただ、紙の雑誌を買う読者層とWeb連載の漫画をアクティブに読む読者層は異なる気がしていて、また、Twitterなどで可視化される読者層の他に、漫画アプリの中で閉じた客層もあります。それぞれ異なる性質があるように見えていて、Twitterで話題になっても売れない漫画の話も聞きますし、Twitterではろくに話題になっていなくても、漫画アプリでガンガン課金されて読まれている漫画の話も聞きます。

 

 自分の漫画がどの層に向けてアピールすればいい性質の漫画なのかによって、適切な宣伝場所や、反応を見るべき場所は異なるかもしれません。

 一概に正解はないと思いますが、ある漫画が、どこで読まれるのが適切なのか?ということを考える発想は必要なのではないかと思っています。

 

(3)作品vsサービス

 単行本派と連載派の話とも少し被りますが、ここでは日本で主流の単行本ベースのやり方とウェブトゥーンの違いのような部分の話です(ただ僕はウェブトゥーンをそんなに沢山は読んでいないので雑な話かもしれません)。

 

 僕の印象では、そこにある違いは、単体で成立する作品を作っているのか、サービスとして提供されているのかということであるように感じていて、単行本ベースのやり方とウェブトゥーンのの大きな違いは、お金を儲ける場所だと思います。

 

 つまり、日本で現在主流の漫画でのお金の儲け方の基本は、単行本を売って儲けるという方法であるために、様々な制約や偏ったパワーバランスがあるように思います。ウェブトゥーンが新たな選択肢として見えているのは、その従来確固として存在した制約がとっぱわれたという部分で、そこに自由があるように見えるからではないでしょうか?

 

 ただ、別に単行本で儲けるモデルがダメなわけではなく、実際、好調に儲かっているので、日本の漫画もウェブトゥーンの方式に移行するべきと見えているわけではありません。ただ、別の選択肢があるということであり、それは前提が異なるので、それぞれメリットとデメリットがあるように思えるという話です。

 

  まず、単行本になる漫画はその前提からして、縦スクロールで連載するという選択肢が非常に狭まります。これまで、縦スクロールの漫画を紙の単行本に変換するという試みがあったり、本の形式の漫画を縦スクロールに変換して連載するという試みも行われていますが、めちゃくちゃ上手くいったという事例はまだ見えていません。

 

 つまり、それぞれが中途半端になっているようにも見えていて、結局どちらかに最適化してしまうためも、もう一方には歪さが残るような形になっている(少なくとも現状は)ように思えます。

 コマの構成方法は演出に直結するものなので、変換時には少なからず歪さが残ってしまうというのが現状であるように思っています(今後それを埋めるやり方があるかもしれません)。

 

 本の形式と縦スクロールはそれぞれ演出論の異なる方法であり、どちらが優位であるかは単純には言えないと思います。ただ、作成の効率という意味での差はある気がしていて、僕自身でやってみた実感があるわけではありませんが、週刊連載以上で量産するという意味では、縦スクロール漫画の形式の方が効率がいい可能性があるのではないかと思っています。

 

 また、紙の単行本にしないという選択をすることで、白黒である必要がなくなり、カラーをバンバン使うことができるようになります。これは電子書籍でも同じかもしれませんが、紙にする場合、白黒とカラーは印刷上かなり違うものですが、電子であれば、その差はかなり小さくなります。

 

 また表題にした、作品なのかサービスなのか?という部分なのですが、ウェブトゥーンは単行本にするタイミングでお金にするモデルではないので、連載だけで十分なお金を儲けるというWebサービスとしての立て付けになっているはずです(いくつかパターンはあるので、一概には言えないかもしれませんが)。

 

 ここにウェブトゥーンのメリットがあるのではないかと思っていて、つまり、単行本で設けるという日本で主流の漫画のモデルでは、「赤字で連載する」ということが珍しくないという部分があります。これは単行本が売れれば辻褄があうという部分があるために温存されている良くない部分ではないかと思っていて、結果的に単行本が売れなかった場合、連載をした結果、借金を抱えるというまであります。

 

 ただ、赤字になるのはアシスタントを雇って量産体制を作るという部分に大きな原因があり、原稿料にもよりますが、一人で描くのであれば少なくとも借金を抱えることはないのかもしれません。ただ、そこで赤字になってもクオリティを上げたり、量産できるようにするのは、漫画が個人に帰属する作品であるという性質があるのが要因のひとつではないかと思いました。

 それは、日本の漫画の多くが、出版社の提供するサービスではなく、漫画家個人の作品であるからこそ、可能な限りリソースをつぎ込んで、ハイリスクハイリターンを目指されることが多いのではないかと思いました。

 

 作者に帰属する作品であれば、当たれば大きいものの、連載をするということそのものは苦しい可能性があり、その部分が連載の一話一話そのものが赤字にならないように作るはずのウェブトゥーンとの、在り方の違いの大きな部分があるのではないかと思いました。

 

 継続するサービスとして、ひとつひとつの話が赤字にならない収入源のもとに量産体制を作るという部分と、大きなリターンを見込んで、借金を抱えてでもハイクオリティで量産し、単行本で一気に回収するという博打を打つという部分が、ウェブトゥーンと単行本で回収するモデルの違いのひとつではないかと思っています。

 

 また、連載で儲けるというパターンは10人の読者から満遍なく1のお金を貰う形で、単行本で儲けるというのは、10人の読者のうちの忠誠心の高い1人から10のお金を貰う形のような差もあるかもしれません。これは、音楽や映画のサブスクにも見られる変化で、ユーザのひとりひとりがお金を出してくれるモデルの方が全体のパイが大きくなる可能性はあって、その辺の変化が漫画にも今後来る可能性はあると思います。

 

 書いてたら長くなったので、ここで急に終わりにしますが、なんか色々違うもので、どれを選ぶかが大事だなと思っている話です。