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「コーポ・ア・コーポ」における人間が物語に勝利してる関連

 岩浪れんじ「コーポ・ア・コーポ」はすごく面白くてすごくオススメです。

 

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 コーポ・ア・コーポは、ある家賃の安そうな集合住宅に住んでいる人たちを取り巻く人間の様子を描いた漫画で、とにかく登場するあらゆる人間の存在感が異常に濃くて強い漫画です。漫画というのは、物語と登場人物のどっちが主導権を握るかの綱引きで描かれるようなところがあると思っていて、例えば、こういうお話にしようと思っても、物語の方が強くて、登場人物がそれを構成するパーツにしかならない場合、そこに人間味を感じられなくて面白くなかったりします。

 コーポ・ア・コーポの場合は、物語を駆動するために人間がいるのではなく、人間がいて、その人間を描くことが物語になっているような雰囲気を感じます。だから、あるお話に登場する人の様子を見ても、そこで出てくるその人は氷山の一角でしかなく、その話では出てこない向こう側に、その人のでっかいまだ見えていない部分があることを思わせます。

 あるエピソードを描くためにその人がいるのではなく、あくまでその人がいて、生きているからエピソードがあるという風に読んでいて感じるということです。

 

 そして、また別のお話を重ねて読んでいくと、登場人物のそれまでの話では見えなかった部分が徐々に描かれたりもして、分からなかった描写の意味がわかるようにもなったりして、だから、お話を読み進めるにつれて人間って本当に面白いなという気持ちになってきます。

 コーポ・ア・コーポのお話は基本的に、毎話ある登場人物にフォーカスをあてて、その人が過去に何があったのか?今どうなのか?そして別の人たちとの関係性がどうなのか?という部分が描かれていきます。読むことはそれぞれの人について知っていくことです。

 

 よくある物語が、時系列という線の上を登場人物たちが進んでいく物語だとすると、コーポ・ア・コーポは、人間関係の円が中心から徐々に広がって、そこにいる登場人物たちについて見える部分がどんどん広がっていくようなお話に思えます。

 だから、読んでいて、これはなんかすごいものを読まされているなと思ってしまいます。そして、ここまで一人一人の登場人物に実在性を感じるほどに濃いお話がどのように作られているんだろう?と思っていました。

 

 それでこの前、大阪までフラリと「忍者と極道展」を見に行ったときに、たまたま人のつてで、岩浪れんじさんとお話をする機会があり、それで分かったことは、岩浪さんがめちゃくちゃ面白い人であるということでした。

 面白い人が描いているから面白い漫画が生まれるんだなあという、すごく漠然としたことを思いました。

 

 コーポ・ア・コーポは、人間というのは誰しもその存在が面白い、という根源的な部分を感じられる漫画だと思います。そして、そこにあるのはおそらく「分からない」という気持ちなのではないかと思いました。

 実際に生きている人に対しても、他人を単純化して「こんなやつ」みたいに理解することはあると思いますが(だって全ての人とちゃんと個別に人間関係をやることはできないため)、でも、実際はそれぞれの人にはそれぞれの人生があり、それらは、たとえ傍目にはどれだけ類型的に凡庸に見えたとしても、人間一人分だけ十分面白いのではないか?と思ったりします。

 他人のことは分かりません。だからこそ、そこに表面上の反応の裏を想像するような不安な気持ちがあったり、たまに分かったと思う嬉しい気持ちがあったり、やっぱり分からないと思ってしまったりがあるものだと思います。そういうのが面白いなと思います。

 

 コーポ・ア・コーポに関しては、あらゆる登場人物にそれを感じてしまうので、とにかくそれぞれの人間の物凄い情報量の含まれた凝縮体のような漫画で、人間って面白いんだなあと思って読んでいます。物語のために人間がいるのではなく、人間がいるからそこに物語があると思える力のある漫画だと思います。

 とりあえず冒頭のリンクから無料で何話も読めるので読んでみてください。オススメです。