漫画皇国

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「風ノ旅ビト」をクリアしました

 安売りをしていたからという雑な理由で買った「風ノ旅ビト」をクリアしたんですが、めっちゃ良かったです。PS4版です。

 

 

 このゲームはプレイヤーが操作するキャラが、ある場所を目指すというものです。そして、1時間ちょっとぐらいでクリアできてしまいました。特に難しくもありません。ある程度ゲームに慣れている人なら、頭をひねるような仕掛けもありませんでした。そして、終わったときの余韻がとても素晴らしいと思いました。

 

 このゲームで僕が味わった感情は「分かりあう」ということ、そして「やり遂げた」ということです。「分かりあう」というのはさらに2つに分けることができます。「このゲームを作った人と分かりあう」ということ、そして、「このゲームをプレイしている別の人と分かりあう」ということです。

 

 「風ノ旅ビト」には、ほとんど説明がありません。砂漠に降り立ったプレイヤーは、まず何をすればいいかも分かりません。方向キーを操作してみると、画面上のキャラを動かせることに気づきます。見渡す限り一面の砂漠の中、砂山を少し駆け上がった先に何か物が埋まっていることに気づきます。辺りには何の目印もありませんから、とりあえずそこまで歩いてみることにします。小山の上に立つと、遠くに見えるものがあります。それは、頂上の一部が落ちくぼんだ、光る山です。そこに何の説明もありません。しかし、そこを目指すべきなんだなという確信だけが得られます。このゲームは、そこから始まるのが長い旅です。長いといっても1時間ちょっとぐらいの旅です。

 

 自分が何者で何をしなければいけないか、それに対する説明はありません。しかし、次に何をすればいいのか迷うことはありません(少なくとも僕の場合は)。プレイヤーにできることは○ボタンを押して、音と光を発することです。そして、あるものの前でその音と光を発すると、印が得られます。そうすると×ボタンを押して、ジャンプができます。その印はジャンプをしていると消えてしまい、再び印を得るまではもうジャンプができなくなります。このゲームにおいてプレイヤーができることはこれだけです。周囲を見渡し、気になるものを見つけ、その前で音と光を発し、それによって何かを動かし、あるいはジャンプする、それだけを繰り返しながら、この砂漠を、謎の建造物を、地下を、雪山を、そして空を旅します。

 

 旅を続けていると、自分以外のキャラがいることに気づきます。何の説明もありませんが、その動きから、それが自分以外の人間が操作しているものだと気が付きます。旅を続ける上で、彼と助け合うような要素はほとんどありません。無視して先を進んでもいいですし、タイミングを合わせて一緒に先に進んでもいいです。あるいは、彼の動作を見て、次にどこに行けばいいかを学んでもいいでしょう。彼が誰かは分かりません。人間と思いましたが、ひょっとしたらよくできたAIかもしれません。それを切り分けるほどの確証はどこにもありません。彼を意識して、音と光を発してみます。そうすると、返事がきたりもします。それが意味することは分かりません。でも、こちらが何かを投げかけ、そして、相手がそれに反応して何かを返してくれます。

 

 このゲームは、言葉では説明されずとも、ちりばめられたヒントによって、この場所が何で、自分が何をしなければならないかを分かるゲームだと思いました。そして、わずかな手がかりを元に、同じく旅の途上にある他の誰かを分かるゲームだと思いました。そして、最終的に目的地にたどり着くことを達成するゲームだと思いました。

 

 旅には困難がつきものです。プレイヤーには色々な困難が降りかかります。僕が一番気に入ったのは雪山です。向かい風の吹きすさぶ雪山を頂上を目指して歩きます。雪は深く、自分が歩いた跡には轍ができます。風は強く、なかなか先に進めません。しかし、目的地の山頂は常に光り、視界の中に存在します。そんな雪山を一緒に歩く別の人もいました。僕がプレイした場合は、一緒に歩いていたはずの彼が、いつのまにかついてこなくなりました。僕は後ろを振り返ります。さっきまでいたはずの彼がもういません。さっき、別の場所で待ったように、彼を待とうかと思いました。あるいは、迎えに行こうかとも。しかし、強い雪の中、僕は意を決して踵を返し、再び山頂を目指します。今度はひとりで。

 吹雪は強くなり、プレイヤーの歩む足取りは重くなります。同じように方向のレバーを傾けても、なかなか前に進めません。似たような風景が続き、どんどん重くなる足取り、果たしてその先には何があるのか、自分はなぜあそこを目指さなければならないのか、最初何をしなければならないかも分からなかった僕は、いつの間にかコントローラを持つ画面の外ではなく、画面の中を歩いていて、そして、前に進むのです。

 

 さて、この先に待ち受けていたものが何であったかは、言葉で語るべきものではないかもしれません。僕は山頂に到達しました。その誇らしさは、子供の頃、高い木の上に登り切ったときと同じものかもしれません。近所の山の上まで自転車で、一度も足をつかずに登り切ったときのものと同じかもしれません。

 誰も見ていなくても、それをやりきったとき、山の上から息を切らせながら眼下に広がる街を見たとき、それは全く無意味な行為でしたが、確かに価値がありました。

 

 これは僕の旅でしたが、他の人には他の旅があったでしょう。どこまでが仕掛けられ、どこまでが今回だけの偶然であったのかも分かりません。1回目のプレイでは気づかなかった要素をまだ大量に取りこぼしているかもしれません。しかし、その旅路の中で見た風景と、乗り越えてきた困難と、その途中で出会った人と、そして、全てをやり遂げた先にあったものには確かに価値がありました。

 

 

 なので、良いゲームだなと思いました。