漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

漫画雑誌のエロスとタナトス雑感

 漫画雑誌から強烈なエロス(性描写)を感じ始めると、その雑誌のタナトス(休刊への追い風)も感じることがあります。僕が好きで読んでいた漫画雑誌の中では、例えばヤングサンデーやアクションが顕著で、それまでの連載が次々に終わっていったあと、エロス風味の多い連載が次々に始まり、雑誌全体がエロスな雰囲気を醸し出し始めました。

 その後しばらくして、ヤングサンデーは休刊し、アクションも一時休刊の後に紙面を入れ替えて再創刊という形となりました。

 

 これらが起こった時期で言うと、ヤングサンデーはザワールドイズマインや度胸星、殺し屋1などの連載が終わった時期からしばらくです。ただし、エロスな連載だから面白くないということは別になく、アイドルが主人公のミステリ漫画「なんてっ探偵アイドル」や、各エピソードのどこかに女性の裸を無理矢理っぽく盛り込んできていた初期の「闇のイージス」などを僕はとても楽しみに読んでいました。ヤングサンデーの場合は、一時のエロス路線から再び軌道修正しつつも(というか思えば元々エロス感のある連載も多かったのですが)、結局は休刊し、それぞれの連載は増刊号での完結や、他誌への移籍での完結となりました。すごく好きな連載が沢山あった雑誌だったので、とても寂しい気持ちになりました。

 アクションの場合は、成年向け漫画雑誌で執筆していた作者を呼んできたという印象で(アクションピザッツとかの方面と雰囲気が近くなっていました)、継続連載していた軍鶏だけが異様に浮いている紙面となっていた記憶があります。とはいえ東京家族なども連載されていましたし、夕凪の街が読み切りで載ったのもこの時期だったと思います。

 

 エロスな連載が増えると、雑誌の先行きが厳しい感じの印象を感じ取ってしまいます。それは、エロスな連載が安易で面白くないとか倫理的に問題だとかいうことではなく、雑誌の売れ行きが悪いので、どうにかして新規読者を獲得するための施策としてエロス連載が増えているのではないかと解釈しているからです。エロス(生の衝動)を増やさなければ生き残れないぐらいにタナトス(死の衝動)が強いんだなと感じてしまうのです。

 

 性表現というものは、人間が繁殖して存在し続けるために必要なものですから、文化を超えるある種の普遍性を持ったテーマだと思います。それゆえに、人の心を良くも悪くも刺激したり、普段なら決して届かないような文化と文化の間の壁を貫通できたりします。

 新規参入の読者が増えず、雑誌の継続性が危ぶまれる場合、このように参入障壁を下げ、訴求力を高めるためのエロスな連載が増えることはよくあることです。そしてそれは、それまでの読者の信頼を失う諸刃の剣となることもあります。

 

 漫画雑誌もマイナーなものになるほど、固定客としての読者が大手より少ないため、エロスな連載が増えがちです(もちろん例外もあります)。例えばヤングアニマルヤングチャンピオンは、エロスあるいはバイオレンスを題材にした連載が多く、その増刊であるヤングアニマル嵐ヤングチャンピオン烈はよりいっそうエロスな漫画が多く載っています。ヤングアニマルにはさらに、グラビアアイドルの写真や動画がメインコンテンツであるプラチナ嵐なんて増刊も存在しています。

 最近ではグランドジャンプに載る漫画載る漫画、なんらかおっぱいが取り上げられているなあと思ったこともありますし、その増刊であるグランドジャンプPREMIUMにも近い傾向を感じています(話と関係ないですが、「ここは今から倫理です」が連載化されたので楽しみにしています!)。

 そういえば、今は亡きヤングマガジンアッパーズも、エロスを取り込んだ漫画雑誌でした。僕はこの雑誌がとても好きでしたが、例えばEオッパーズという企画では、普段そういう絵を描いていない漫画家さんにおっぱいの絵を描いてもらったり、士郎正宗のフルカラーエロス連載が載っていたりもしていました。でも、休刊してしまいましたね。休刊号では大市民に度々登場していた「池上タッチ(池上遼一のタッチをイメージして描かれた絵)」を池上遼一ご本人が描いて表紙となるというお祭り騒ぎ的な感じで、これでおしまいなのに、花火が上がった感じでとても印象深く思いました。本当にいい漫画が沢山連載されていたんですよ…。

 

 さて、電子書籍の読み放題ランキングなどを見てみても、男性向け女性向け問わず、エロスを取り扱った漫画がその上位を占めていることが確認できます。そのため、何を読めばいいか分からないときに、エロスがあるというものは強い道しるべとなる力があるのだなと思います。

 

 また、ウェブサイトの広告にも、エロスな漫画の広告がこれでもかと表示されることもしばしばです。

 エロスな漫画の広告が表示されることについては、求めていないときに見せられると嫌な気持ちになるということもあります。しかし、その広告が出てしまうことについては、このサイトを見ている人は広告を見ても購買行動に移ることが少ないが、エロスな漫画の広告の場合は、そこから購買行動に繋がる人もいるのかな?と捉えています。つまり、そのサイトが無料で運営されている影には、誰かがその広告を見て、エロスな漫画を購入しているという事実があったりするのではないでしょうか?

 そのような広告について「質が悪い」と表現されることもありますし、僕もあまり歓迎はしていませんが、実際問題として、もっと「質が良い」広告を出した方が、広告として意味があるのであればそうなっているでしょうし、結局広告が有効に機能している分野がエロスな漫画なのであって、それを買ってくれているどこかの誰かがいることによって、かろうじてそのサイトを無料で見ることができているのかなと思ったりします。そうでなければ、続けられないということです。

 

 そう考えれば、これだってネットの広告で運営されるサイトにタナトスを感じる部分なのかもしれません。広告で運営されているはずなのに、大半の人はその広告を見て購買行動に移ることがなく、つまり、広告を出す意味がないのであれば、誰も出稿しなくなります。そのビジネスは成り立たなくなるのです。そうなれば、少しでも買ってくれる人がいる分野に広告を出すべきだとなり、それがエロスな漫画の広告に行きついたのであれば仕方がないことです。そうしなければなくなるしかないのですから。

 

 このようなことは様々な分野で起こっていることだと思っていて、エロスが前面に出てくる状況が頻出するならば、その分野にはタナトスが蔓延している可能性があります。

 

 実際、漫画雑誌にエロスな連載が増えてきたとき、それを喜ぶ人もいれば、それを苦々しく思う人もいるでしょう。でも、そうなるということはどうしようもないものなのではないかと思っています。エロスに限らず、暴力的な表現や、倫理的に問題がある表現だったとしても、ある程度過激にやらなければ人の注目を集めることができないぐらいに、世の中には無数の選択肢があり、物が溢れてしまっているように思うからです。人の目に留まらなければ、続けることは難しくなります。

 

 なぜこうなったか?と問うとき、そうならないで済む道はとっくの昔に潰えていたということもある話で、漫画雑誌を開いて、エロス連載ばかりだなあと思ったときでも、そうでなければ、とっくの昔になくなってしまっていたのかもしれないじゃないですか。今の道しかないのだとしたら、それはもう仕方がないわけですよ。

 

 直近ではヒバナの休刊も発表され、漫画雑誌の存続は厳しい世の中です。その中で何かの漫画雑誌にエロスが増えてきたなと感じたとき、それが生を肯定するために生まれたエロスのためのエロスなのか、死に抵抗するために生まれたタナトスから逃れるためのエロスなのか、考えてみるのもいいかもしれませんね。