会社員（課長）と漫画家（新人）の２足のわらじの生活を初めて２年以上になりますが、個人事業主として漫画家もやっていると、会社員の生活がいかに色んなことを考えずに済むようになっているかということに気づいてきます。
自然状態ならありえない環境を会社組織が作ってくれているために、心の中から多くの心配事が消え、脳みそのリソースを節約することができます。
念のため書いておきますが、会社員は認識がおかしいとか、会社に施してもらっているとかいう話ではなく、会社組織というものが人の脳みそのリソースを仕事に集中して、その成果をもとにやっていくという相互の利益のためにこのような形に至っていて、その中にいることの快適さがあるよねと改めて思ったという話です。
例えば、仕事の状況にかかわらず毎月給料が出るというのは幻です。個人事業主であれば、仕事の対価の入金がなければ収入はありませんが、会社に居れば会社に外から入金がない月でもちゃんと給料が出ます。
それは、組織がトータルでつじつまが合うように収支を上手く隠ぺいしてくれているので、会社員は今月の給料が入るのかどうかを毎月心配する必要がありません。その心配に、脳のリソースをとられないようになって助かります。
ただし、会社が隠ぺいしてくれているものの内実がつじつまが合わなくなってしまう場合もあり、その場合は倒産して給料未払いになったりすることもあります。
有給休暇というのも幻です。休んでいるのにその日の給料が出ることは個人事業主ではないことです。これも組織の中で上手く調整することで実現できている概念だと思います。
実際、権利だからといって全従業員が同時に長期間休めば色んなことが回らなくなります。そういう意味では、従業員自身も互いに上手く調整しながら、休もうと思えばいつでも給料をもらいながら休めるという権利を維持しているのだと思います。
会社というものは経営者と従業員による共同幻想の側面があると思っていて、会社組織を維持することで、本来は無いはずのものを有ると思うことができ、安心感を得ることができます。
30年ローンでお金を借りるなどもそういった幻の果てに成立しているもので、毎月の収入が不安定なのに、毎月一定のお金を返済し続けるという状況はめちゃくちゃキツいので、会社員として毎月安定してお金が入ってくる状態以外では、心労の強さが借りるメリットを上回るかもしれません。
毎月金策に走って、足りなければ別で借りて一時しのぎをする、みたいなことは世の中には実際ありますが、その状態ではお金のことで頭がいっぱいになってしまい、色んなパフォーマンスが落ちてしまったりします（経験談）。
なので、会社組織というものは「人間が安心して働ける」ということを目的として進化してきた概念だと思います。自分が支払う税金のことも会社に属していれば自動的に支払われてあまり考える必要がありませんし、人間の脳みそをもっと生産的なことに活用できる余裕を生み出します。
一方で、経営者になると会社組織の中にある幻想から外にでなければならないという辛さがあるように思います。僕も管理職になってから仕事の色々で経営者と話す機会が増えていくにつれて、会社という共同幻想を維持するためにその背後で実は動いている様々な辻褄合わせについて、意識する機会がとても多くなってきました。
経営者になると人格が悪くなってくる側面がどうしてもあると感じていて、特にお金の判断について常にシビアでなければならず、そのシビアな判断が反発を招くことも多いです。ただし、そうでなければ会社という幻想を維持できずに瓦解させてしまいかねないのだろうということも数字をみれば理解をできるようになり、この苦しい立場を誰かが引き受けなければ、権利として毎月安定したお金がもらえ、休みたいときには給料をもらったままでいつでも休め、社会生活上の様々なわずらわしさ、税金や社会的信用力を肩代わりしてくれるようなことはないのだろうと思ったりします。
先日も、お前ももっと出世してこっちの苦しむ側に来いよと言われて、嫌です…と軽口を叩きましたが、実際これ以上出世をしてしまうと、もはや夢から覚めてしまうなとも思っており、一方で、会社を辞めて漫画家専業になっても夢から覚めてしまうとも思うので、一生夢を見て幻の安心感の中で生活することはできないのか？？と思って、世のままならなさについて思いました。
でも、今は会社の中での実務を中心的に回していくような年齢とポジションになってしまっているので、そういう役回りが自分のところまできていて、これまでは別の誰かがやってくれていたし、自分もやって次に回していかないといけないんだろうなというような諦めと責任感のようなものもあったりします。
会社員はしばらくは続けようかなと思っていますが、いきなり辞めるかもしれません（出世させられそうになったらとか…）。
