超古代文明の遺産を秘密裏に発掘調査したり、悪い人間に利用されないように封印したりしている組織ことアーカムで活躍するエージェントは、スプリガンと呼ばれています。「スプリガン」はそんなスプリガンの一人であるところの御神苗優くんを主人公にした漫画です。
超古代文明とは、正式な歴史には記載されていない、かつて存在した高度な文明で、現代以上の科学力で栄華を誇ったものの、何らかの理由で滅んでしまったという感じのやつです。その存在は、歴史書としては採用できないあやしげな文献や、当時の科学力では作ることができないような物体(オーパーツ)が存在することから喚起されたりしているものです。
僕が子供の頃を過ごした90年代はオカルトブームもあり、僕個人の記憶では「三つ目がとおる」や「MMR」や「超頭脳シルバーウルフ」などなどがあって、「ムー」も読んでいて、超古代文明大好きっ子という感じでした。そんな中で読んだのがこのスプリガンで、僕はもう夢中だったわけなんですよね。
スプリガンという漫画の特徴として僕が感じていたのは、その「受け入れる力」の強さです。超古代文明の超科学なオーパーツだけでなく、軍事大国のサイボーグ兵士やサイキック兵士、魔術や精霊や気功のようなものを全てそのまま同じ土俵で受け入れるだけの土壌がありました。
超古代文明の話で出てきがちな理屈で、僕も当然好きなのは「神話の中に登場する超自然的な現象は、実は科学の文脈で説明できる」というもので、それが疑似科学的なものであったとしても、それによって不思議な現象に説明がつき、僕たちが生きているこの世界と同じ世界観に回収できるという面白みがあります。
しかしながら、このような魔法的なものを疑似科学で回収するという試みは、とても面白い一方で、逆にその体系による制約も受けてしまいます。理屈があればあるほど、その理屈に反するものは存在できず、それが自由を縛ってしまう側面もあると思うからです。
僕が関連すると思っている話ですが、ゲームの「レイトン教授vs逆転裁判」では、魔法が存在するという世界観の中での裁判(魔女裁判)が行われました。魔法という超自然的な概念が存在したとしても、そこに発動条件や効果における明確な理屈が存在すれば、それはマジックをロジックで取り扱えるということになります。このゲームは魔法の矛盾を追及して真実に至ることができるというとても面白いゲームでした。そしてそれはまた、何でもできそうな魔法なのに理屈で追及されて逃れられないという不自由さもあるということだったと思います。
スプリガンでは、そのような超自然的なものを疑似科学的文脈で解釈すると同時に、魔法を魔法のままで取り扱うことも併存しています。分からないものは分からないままでよく、もし科学がさらに発展すれば、解明もできるかもしれないわね?的なところで受け止めているのです。
それにより、魔術師や仙人vsサイボーグ兵士みたいな異色な戦いが成立しますし、科学で作られた強化服を着た主人公が、サイボーグ兵士に人間を豹に変える魔術を加えた科学と魔法のキメラのような存在と戦うというようなのも問題なく成立してしまうわけです。そして、その魔術の大本は、古代に地球に飛来した宇宙人だったりもします。それぞれ位相の異なる属性を持つ概念が、同じ土俵の上に乗るということ、それがこの何でも取り込む化け物のような面白い漫画の根底にあるのではないでしょうか?
これはさながら作中に登場するオリハルコンのようです。スプリガンにおけるオリハルコンは、遺跡からまれに発掘される賢者の石と呼ばれるものから作り出される鉱物で、様々な別の金属と合金化することで全く異なる性質を発揮する不思議な存在です。例えば、人間の精神に感応したり、ものすごい硬度を発揮したりします。このオーパーツは、現代の科学力では到達できない未知の領域に、人間の手を届かせることができる踏み台となっています。
スプリガンもまた同じです。失われた古代の超科学から、魔法、呪い、精霊、気、仙人、霊魂、宇宙人、そして現代の科学と、あらゆるものと違和感の壁を溶かして結合し、そこに物語が生まれていきます。
なんかそういうのが似ている感じがしませんか??スプリガンとオリハルコンは似ている気がしませんか??これは、なんとなくそういう感じがすると僕が思ったというとても曖昧な話です。
「十分に発達した科学は魔法と区別がつかない」とはアーサー・C・クラークの言葉ですが、既知の科学と、魔法の間に、疑似科学や超科学で説明可能な領域あり、フィクションのリアリティは、その中のどこに点で設定されるかという個性があるように思います。スプリガンはそれを幅をとって、ここからここまで全部オッケーとなっているところが面白くて、この世にあるあらゆる神話は、なんらかの形でスプリガンの世界に取り込める感じがするんですよね。
なんか、そういうところが好きな理由のひとつな感じがしています。