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マグロ漫画年代記

 マグロに関する漫画は色々あるんですけど、その中に「大漁!まちこ船」「オフィス北極星」「全てはマグロのためだった」あたりを続けて読むと色々思うところが発生したりしたのでそれについて書きます。

 

 3作のネタバレが含まれますので気をつけて下さい。

 

大漁!まちこ船(三宅乱丈

 「大漁!まちこ船」は、まちこという名前の人間のようで人間とは少し違う生き物が、「職業マグロの餌」として、マグロに食べられては水揚げされて生還するという感じの漫画です。漫画の中では、まちこは脱サラして漁師となった小川さんとのラブロマンスなんかを繰り広げるわけなのですが、卵で増えることもあって、最終回では沢山の子供をもうけることになります。子供たちもまた「マグロの餌」ですから、海に飛び込んではマグロが水揚げされるということになり、日本ではマグロがとれすぎてマグロの価格が下がってしまうというような事態になるのです。

 まちこ一家のおかげで日本のマグロ漁獲量は大変に増えました。ここまで覚えておいて下さい。

オフィス北極星 (原作:真刈信二、作画:中山昌亮

 さて、「オフィス北極星」は、主にアメリカに進出した日本企業が、現地のルールに無知であるために起こった訴訟を取り扱った漫画です。

 本作の8巻に「マグロの曲線美」というエピソードがあるのですが、そこではアメリカで「クロマグロ輸出禁止法」が提案されているのです。作中では、クロマグロの個体数は大漁捕獲の漁法により激減しており、50年以内に絶滅するおそれがあると言われています。そして、その最終消費地は100%日本なのでした。

 マグロの輸入を行っている業者は主人公のゴー・時田に法案の成立阻止を依頼します。同法案は、禁止したところで、日本人はマグロを求めることをやめはしないということから、むしろ高騰した相場のために密漁が増えることが示唆されます。そして、値段の高いトロだけを除いて、他は廃棄されてしまうことになるでしょう。マグロ輸入業者の一員であり、誰よりもマグロに詳しく、誰よりもマグロを愛した男、八木は法廷に立ち、自身が輸入業者であるものの、愛したマグロがそんな風に扱われることを我慢ならないと言います。そして、そのためになら自分がマグロを諦めてもいいと主張するのでした。

 本エピソードでは、一国の禁止法案では目的を達成出来ないという結論となり、クロマグロワシントン条約保護を示唆する形で、法案の撤回が行われることになります。

 まとめると、クロマグロの個体数激減は問題視されており、それを禁止する法案はよりそれを早める危険性があるということから、幸か不幸か撤回される形で幕を閉じたのでした。

全てはマグロのためだった(Boichi

 そして最後に、「全てはマグロのためだった」は、ある少年がマグロの寿司を食べるところから物語がスタートします。既にマグロは絶滅し、最後に残った一切れを食べる運命を背負った少年は成長し、マグロの復活を目標とした研究者となります。父親が財産を処分してまで自分に食べさせたくれた、あの美味しいマグロには意味があったと思うためです。

 彼の研究は迷走します。彼の研究はマグロのためなのに、肝心のマグロを再生することはできず、その副産物である数々の発明が、世の中を変えて行きます。彼の力で人類の文明は進歩し、そして遂には人間を超越するような高度な知的生命体を生み出すことになるのです。そしてそれなのに、相変わらずマグロは地球には戻ってこないのでした。

  さて、その知的生命体は、地球というゆりかごを離れ、宇宙に飛び立とうとするのですが、造物主である彼を旅の伴として求めます。そして、その代わりに一つの願いを聞いてくれるというのです。彼が望んだものはもちろん「マグロ」。大海原に泳ぐ沢山のマグロ。単純な種としての再生だけではなく、彼らがまた再び繁栄できる、環境の再構築を含めた大きな変革です。彼はその命を捧げ、宇宙へ飛び立つとともに、こう思うのでした。

 「全てはマグロのためだった」

マグロ漫画年代記(僕)

 これらの漫画は作者も違えば年代も違い、それぞれ独立していますが、連続して読むことで勝手なストーリーラインが生まれます。つまり、「大漁!まちこ船」によってマグロ漁獲量が増えてしまったせいで、「オフィス北極星」のアメリカでではその絶滅が心配され、輸出禁止法案が提言されてしまいます。しかしながら、その後、結局マグロは絶滅してしまうのです。そして、「全てはマグロのためだった」の主人公が生涯をかけてその再生を実現します。もしかすると、「大漁!まちこ船」の世界は、さらにこの後にあるのかもしれません。まるで手塚治虫の「火の鳥」のようにマグロを巡って、時代が世界が巡るのです。

 映画の技法に「モンタージュ」というものがあります。複数のカットを繋ぎ合わせることで、それぞれのカットの関係性を視聴者に想像させ、意味を付与することができるというものです。この効果は「クレショフ効果」と呼ばれていますが、例えばある無表情の人のカットの前に「スープの皿」「棺の中の遺体」「ソファに横たわる女性」のカットをそれぞれ繋げると、人の映像は同じ表情であるにもかかわらず、視聴者はそれぞれ「空腹」「悲しみ」「欲望」の意味を表情から読み取ったのだそうです。

 同様に、全然関係ないマグロ漫画を複数読むことによって、その背後の勝手な物語を読み取ってしまうという自分に気がついたりしたのでした。僕はこの妄想上の物語に「マグロ漫画年代記」というタイトルをつけました。

 そして、今後新しいマグロ漫画が出てきたときに、僕は勝手にマグロ漫画年代記的には、どの時代に当てはまるのか??というどうでもいい妄想を巡らすことにしようと思ったのでした。