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「金色のガッシュ」のコルルについて

 今週のマガジンから雷句誠の新連載が始まりました。僕は雷句誠の「金色のガッシュ」がめっちゃ好きなので、本作に登場するコルルという少女について書きます。

 

 金色のガッシュは、魔界の王を決めるため、千年に一度開催される100人の魔物の子による戦いを描いた漫画です。魔物の子たちは、人間界に送り込まれ、人間のパートナーを得て、その戦いに臨みます。人間と魔物の子の絆となるのは一冊の本です。その本に書かれた呪文は、魔物の子の成長に合わせてその数を増やす、魔物の子の持つ才能の結晶です。しかし、その呪文はパートナーである人間の口で唱えられない限り、その力を発揮することができません。

 人間と魔物、そのタッグがともに成長することでしか、この戦いを勝ち残ることはできないのです。この漫画の主人公、高嶺清麿もまた、魔物の子ガッシュと出会い、パートナーとなって、辛く厳しい戦いに身を投じることになります。

 

(以下、金色のガッシュのネタバレが含まれますのでご了承ください)

 

 コルルはそんな100人の魔物の子のひとりです。彼女もまた、その秘めたる才能を認められて、100人のうちのひとりに選ばれました。しかし、コルルは戦うことを望まない、優しい心を持った少女でした。しかし、この戦いでは「戦わない」という選択肢を選ぶことが認められません。戦いに不向きな性格の子供には、別の人格を与えられ、呪文をきっかけに凶暴な性格へと変えられてしまいます。そして、そんな凶暴な別人格は、あらゆるものを壊し傷つけようとし、その結果は、元の優しい人格をより深く傷つけてしまいます。なんと残酷なことでしょう。

 ガッシュは過去の記憶を奪われて魔物の子供です。それゆえ、ガッシュは自分が何のために戦わなければならないかが分かりません。しかし、コルルとの戦いを通じて、彼女が深く傷ついていく様子を見て、ガッシュははっきりと自分の目指すべき場所を見つけます。本を焼かれて、消えて行く彼女は「魔界にやさしい王様がいてくれたら…こんなつらい戦いはしなくてよかったのかな…?」と呟きました。コルルはそんな願いをガッシュに託し、魔界へと還って行くことになります。

 「やさしい王様」。ガッシュは自分が王様になり、こんな残酷な戦いを二度と起こさせないことを心に誓うのです。そしてガッシュは、同じくやさしい王様を目指す仲間を増やし、戦うのです。たとえ自分が負けたとしても、誰かがその意志を継いでくれるように。

 

 ココという人間の少女がいました。貧乏ながらも優しい少女です。貧乏を理由に盗人の冤罪をかけられても、必死で耐え、頑張って勉強し、奨学生として大学への入学も決まっていました。彼女はシェリーという少女を助け、そして助けられ、強く生きていました。自分たちは頑張って幸せになるのだと信じていました。

 ゾフィス。これはココをパートナーに選んだ魔物の子の名前です。ゾフィスには人間の心を操る能力があります。ゾフィスは、ココの心をいじりました。彼女の中にあった憎しみを増やし、彼女が大切に思っていた沢山のことを忘れさせます。

 自分を蔑んだ人々の暮らす町を、火の海に沈めたココは、にこやかな笑顔でシェリーにこう言いました。

 

 「凄いでしょ?私、こんな力を持ってたの」

 

 もちろん、ココの本心ではないでしょう。しかし、それはもしかすると、ココの心には種として植わっていたものかもしれません。彼女が無力であり、貧乏であり、それゆえに理不尽に蔑まれていたことは事実なのですから。そして、それは彼女の優しい心の中では発芽しないままに一生を終えるはずだったものかもしれません。ココはゾフィスとともに町を去り、残されたシェリーはブラゴという魔物のパートナーを得て、後に戦うことになります。次の魔界の王を決める戦いは、魔物も人間も、その意志を関係なく巻き込み、その心を踏みにじってまで続けられるのです。

 

 「金色のガッシュ」には多くの人間と魔物の子が登場します。彼ら彼女らには、それぞれ大切なものがあり、そのために力を合わせて戦います。その願いは叶ったり、叶わなかったりします。人間界と魔界、本来隔てられた場所にいるはずのパートナーは、強くなり、勝ち残るために絆を深めます。しかし、負ければ待っているのは別れです。多くの戦いがあり、多くの別れがあります。

 別れ寂しく悲しいことですが、それでも、隔てられた向こう側で元気に暮らす相手を想像できればまだ和らぐかもしれません。しかし、物語の終盤、ある事実が分かります。魔界の王とは、つまり、全ての魔物の生殺与奪を握った存在であるということが分かるのです。王の気に入らない魔物は、次の時代には全て排除されることになります。

 そして、強大な力を持つ最も王に近い魔物の子が登場しました。彼の名はクリア、消滅の力を司り、王になった暁には、全ての魔物を消し去り、自分も死ぬことを望む、破滅の権化です。

 ガッシュの物語は、それまで出会った仲間達の力を合わせてクリアを倒す、最期の戦いに収束していきます。

 

 クリアとの戦いでガッシュの仲間たちは、ひとりまたひとりと消えてゆき、100人いた魔物も残りはたった3人だけになります。それは、クリアと、それに相対するガッシュとブラゴです。クリアの力は強力で、その消滅の力は、ガッシュとブラゴの力を奪い去ります。しかし、ガッシュは立ち上がるのです。立つこともままならない状態で、仲間達のために立ち上がるのです。その胸にあるのは「やさしい王様になる」というコルルや、他のみんなたちとの約束です。

 打つ手がなくなったと思ったそのとき、ガッシュの願いに呼応して、清麿の持つ赤い本が、金色の輝きを放ち始めました。そこに現れた呪文は「ジオルク」、それはガッシュの力ではありません。かつて消えていった魔物の子のひとり、ダニーの呪文です。守るべきものを守るため、自分の本が燃えて消えることも辞さなかったダニーは、ガッシュと心を通じ合わせたひとりでした。彼の術はガッシュの体を癒します。

 ガッシュの本の下に、消えて行った仲間たちの力が集まるのです。魔界で魂だけの姿のなっていた彼らの力が、最期の戦いを見守る彼らの想いが、届くのです。ウォンレイの呪文「シン・ゴライオウ・ディバウレン」は、巨大な虎の姿となり、クリアの放った攻撃を引き裂いて防ぎます。レインの呪文、「シン・ガルバドス・アボロディオ」は、幾本もの巨大な腕となり、その爪でクリアに襲いかかります。

 ガッシュの本の金色の輝きは、消えて行った魔物の子たちの才能を最大限に引き出し、次々と繰り出される連撃としてクリアに襲いかかります。勝つことが不可能かに思えた強固な防御力と、全てを消し去る強大な攻撃力を兼ね備えたクリアが、その鎧を破壊され、その攻撃は跳ね返されます。不利を知ったクリアは逃げるのです。ガッシュたちの力が及ばないほど高く、成層圏を越え、宇宙に。その安全圏から一気に地球を撃ち滅ぼすために。

 

 せっかくの形勢逆転にも、打つ手がなくなったと思われたそのとき、新しい呪文が届きました。「シン・ライフォジオ」、それはたとえ宇宙でもどこでも、包んだ生命を守ってくれる優しい光です。そして、その力を持っていた者こそがコルル、それは人間界の戦いでは、まだ未熟で発揮できなかった、彼女に眠っていた才能です。

 

 「ガッシュ…私、人を傷つける術だけじゃなく、こんな力も持ってたわ」

 

 そう呟くコルルに対して、ガッシュは「ウヌ、素晴らしいのだ、コルル。優しい術だな」と応えます。そうです。みんな知っていたわけですよ。彼女が優しいことを。そして、それに見合う才能があったであろうことを。それが強大な的であるクリアを追いつめるときにようやく明らかになります。

 魔物の子、ティオが「チャージル・サイフォドン」という、自分の受けた痛みを攻撃力に変える力に目覚めた時、同時に目覚めていた「チャージル・セシルドン」という呪文がありました。しかし、その力は、ガッシュたちのピンチになるまで使うことができませんでした。「チャージル・セシルドン」は守りの力です。傷ついた仲間たちを目の前に「守りたい」という気持ちに比例するように盾の力が高まります。それはティオの才能です。怒りに任せて生まれたサイフォドンとは異なり、彼女の「守りたい」という気持ちが高まって初めて使えるようになった、彼女の本来の特性が純粋に現れた強力な力です。それは他の術とは比べ物にならない力を発揮します。

 

  コルルも同じでしょう。彼女には、生命を壊すのではなく、守るための強い力が眠っていました。その力は、別の人格に操られた発揮した凶悪な力とは比べ物にならない、強い優しさを秘めています。

  「金色のガッシュ」で発揮される強さは皆そういうものです。心の力を媒介にして発揮される数々の術は、人と魔物の心の成長に合わせて、その力が発揮されます。術の強さは心の強さです。自分がやるべきことを見つけ、そのために引き出された力はとても強いものです。そして、それは素晴らしいものです。

 

  物語の冒頭、記憶を奪われていたガッシュは、自分に電撃の能力があることを知り、それが危険な能力であることを清麿に指摘されて傷つきました。人と違う能力があること、それを持ってして化け物呼ばわりされることに。そして、それをせめて前向きに「人より優れている」と誇ろうとしたことを「危険」と指摘されたことに傷ついてしまうのです。自分は人と違い、それゆえひとりであると。

 清麿はそれを知り、自分もまた孤立していたところをガッシュに助けられたことを思い出し、その力を肯定し、戦うことを心に決めます。自分の運命と戦うために。その後、叫ばれた呪文「ザケル」は、それまでとは比べ物にならない強い力を帯びていました。ガッシュは、自分を取り戻すため、そして、誰も悲しいことにならない世の中を作る「やさしい王様」になるために、その心を成長させるのです。その偉大な目標は、ひとりの力では成し遂げられませんでした。数多くの仲間の力を借りなければ成し遂げられなかったことです。その中にはもちろんコルルの力も含まれています。

 

 困難に立ち向かい、みんなの笑顔を取り戻すために、皆が心を成長させる、「金色のガッシュ」はそういう物語だと思いました。めっちゃ面白いです。新連載の今後も楽しみです。

 

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