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モノローグは物語の中にしか存在しない関連

 物語の登場人物が、自分の頭の中の考えを喋るモノローグは、よくある表現であると同時に、とても特異な表現だなと思います。なぜなら現実では、「他人の考えていることがそのまま分かること」はあり得ないからです。

 

 自分が実際に生きている世の中では、自分以外の人が考えていることは、その言葉や行動を手掛かりに類推して理解するしかありません。言葉ではそう言ったけれど、頭の中でも同じことを考えているとは限らないのです。他人の考えを完璧に正確に理解することは、きっと不可能でしょう。

 

 なので、これが人生であれば、他人に対しては、本質的には理解し得ない存在だと思いながらやっていくしかありません。

 

 しかしながら、物語の中では違います。モノローグで語られることは基本的にその時点でのその登場人物の本当の気持ちです。だから、それは疑う必要性がない言葉なんですよね。

 そのため、モノローグ描写のある物語の登場人物は、読者にとって疑う必要のない人物として存在することになります。これは疑う必要がないために安心すると同時に、神の視点が得られるということなのでもやもやする要素になる場合もあります。

 

 つまり、本来人間と人間のコミュニケーションはすれ違っているのに気づかないで、なんとなくそれで上手く行ったり行かなかったりするものだと思うのですが、モノローグによる神の視点を得てしまうと、人と人とのすれ違いが明確に見えてしまうために、それが過剰に愚かなことであるかのように思えてしまうからです。

 実際は他人がどのように考えているかなんて分からないので、言葉や行動から想像するものだけ、という当たり前で普通なことを、なまじ確定した答えを見てしまうからこそ、読者は、なぜ相手の気持ちを確認しない?とか、なぜ勘違いをしたままでいる?などと思ってしまったりするのではないでしょうか?

 

 普通のことがあたかも愚かであるかのように見えるのは、たまたま神の視点を得ているからというだけだぞ!という認識がなければ、自分がちゃんと意思表明をしないことがなく、相手を誤解することもない、ちょっとした賢い人間であるかのように誤認してしまったりするんじゃないかと思うんですよね。でも、誰だってそんなことはないと思うんですよ。

 

 それはなんというか、全部の牌が透けて見える麻雀を見ているようなものです。次に何をツモるかや、他の人たちが何を持っているかが分かる視点を持っているときの最善手と、現実のように限定的な情報しか持っておらず、その中での最善手はきっと異なります。そんなとき、その打ち手のことを何も分かっていない愚かな人間だと思ってしまうかもしれません。

 

 実際の人生では持ちえないような神の視点を得てしまうことで、本来はちゃんとしている人を、過剰に愚かな人間だと思って見てしまうというようなことっていいことなのだろうか?と思ったりします。

 

 そういうふうに考えると、様々な物語の見方が少し変わってくるかもしれません。例えば、浦沢直樹の漫画は基本的にモノローグを禁じ手にしているという話によって、読者と登場人物が同じ情報しか与えらえないという緊張感が生まれるのだろうと思います。あるいは、ラブコメの登場人物たちが好き合っているのに、なかなか踏み出せない様子にも、実際にモノローグが読めない人同士であれば、そうなるだろうなと思ったりもしません。

 作者が、どの登場人物にはモノローグを喋らせ、どの登場人物には喋らせないのかで、登場人物の誰を現実の人のように分からない存在として描こうとしているかにも気づくかもしれません。

 

 一方で、モノローグがないことで、読んでいる人によって、それぞれが想像した「この登場人物はこのように考えているのではないか」という認識が統一されないということもあると思います。それは演出上意図されたものだとしても、作者が思いもよらない読み方が可能にもなるということであって、そこで突飛な読み方が代入されても辻褄があってしまったりします。

 たまに物語のある登場人物が、このとき何を考えていると思ったかの認識が、他の人と全然合わないことがあったりして、でも、そういう読者が自分で埋めて理解するところがあるんだから、ホント、物語において作者がコントロールできる範囲は限定的だよなと思います。

 

 僕がこの文章で言いたかったのは、モノローグって物語を描くときに基本的な演出なのに、実際の生活の中では絶対にあり得ないものなんだよなという認識がなんか面白いということです。現実も、そういう神の視点を持てさえすれば変な誤解もないだろうになと思いました。

 いや違うか。誤解がないからこそ、良い感じに勘違いし合うことができず、生まれるトラブルもある気もしますね。世の中はままならない。