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同人誌は商業漫画より儲かるのか?関連

 同人誌を出した方が商業誌に漫画を描くよりも儲かる??という話があり、その答えは「いくつかの要素を満たせば儲かる場合はある」だと思います。そして、それが成立するための要素として一番大きいと僕が思うものは、「ページあたりの販売単価が高い」というところです。

 

 つまり、商業誌であれば、200ページの単行本を500円で売っているところを、同人誌であれば30ページで1000円でも売れたりします。

 僕もコミティアでは50ページぐらいの同人誌を500円とかで売っていたりしますが、それについて「自分の同人誌はジャンプの漫画の単行本よりも高いな」と思ったりします。冷静に考えてみれば、ジャンプに掲載されている漫画の方が技術も高いし分量も多いので、コスパ観点では、僕の同人誌を買う理由は無さそうなんですが、でもなぜか買ってくれる人がいるので、僕は本を刷ることができています。不思議ですね。

 

 僕は全部の本を売り切った場合でも、年間の収益的に税金を払わなければならないラインには届かないような部数でしか同人誌を刷ってないので、1冊あたりの印刷費もそんなには下がらないということもあり、刷った本を全部売り切っても印刷費と参加費の回収+αぐらいの雰囲気で活動をしています。

 それでも、趣味で好きなように遊んでいるのに、そこで利益が出るのは不思議だなと思っています。普通趣味はやるほどお金が減るので。でも、同人誌を作るのはなぜかやるとお金が手に入るので不思議な趣味だと思います。

 

 話を戻しますが、同人誌が商売として商業誌よりも割の良い前提条件は、そのように「少ないページ数の漫画をより高く売ることができるという売り場があること」が前提であって、つまりは、漫画の本を作る上での出版社の役割に意味があるか?という話とは別のところでまず決まっていると思います。

 

 つまり、仮に同人誌であったとしても商業誌の単行本ぐらいの分量を、同じぐらいの値段で出そうとしたら別に割はよくないという話です。

 数字の立て方によって任意の結論が導けそうではありますが、例えば、商業誌で500円で200ページの単行本が8000冊ぐらい刷られる本のことを考えたとします。

 

 商業誌の場合は、原稿料が1枚8000円だとして、200ページを描くことで8000*200=160万円と、印税率が10%で500*0.1*8000=40万円、収入は合計200万円です。

 

 そして同人誌の場合は、一冊の印刷費を200円程度と見積もる場合、(500-200)*8000=240万円の収入になります。ただし、これは在庫を売り切れた場合の話です。2割売れ残った場合では、500*8000*(1-0.2)-200*8000=160万円と在庫が1600冊。そして、この1600冊には資産としての税金と保管場所の費用がかかります。

 

 この数字で考えた場合、同人誌は商業誌よりも「割の悪い商売」となります。さらに、商業誌は印刷や構成で他の人に手伝ってもらうことができますが、同人誌の場合は自分でやらなければなりません。他人に仕事を頼むのであればその費用を自分で払うか、無償や食事代ぐらいで手伝ってくれる人を探す必要があります。利益はもっと少ないはずです。

 

 ただし、電子書籍ならまた条件がもう少し良くなります。8000部売れる想定の場合、電子書籍ストアの決済費用が3割必要であったとして、500*(1-0.3)*8000=280万円、紙で2割売れ残る想定と合わせても、224万円です。

 この場合、商業誌よりもいい感じの水準の商売になってきました。ただしこの場合も、作業はひとりでしなければなりません。電子書籍ストアへの取次を代行してくれる会社を利用すれば、利益はここからさらに6がけなどになってくると思います。

 

 このあたりを考えて分かることは1万部売れない水準の漫画というのは、商業誌の分量を描いて商業誌の値段で食っていくのが難しいということです。

 

 一方で、30ページで1000円の漫画を電子書籍で配信し、8000部売れる想定をすると、1000*(1-0.3)*8000=560万円になります。紙で2割売れ残る想定と合わせ448万円です。値段設定を上げることで一気に話が変わってきました。

 なおかつ、漫画を描く量が6分の1以下になっているので、単純化すると、200ページの本を作るのと同じ労力で6冊の本を作ることができます。それが同じだけ売れたと仮定すれば利益は6倍になります。

 こうなってくると、儲かる商売に見えてくると思います。

 

 ざっくりとしてでも数字を比較してみると、1万冊も売れない水準の商業出版では、誰かが中間で不当に利益をとっているということはなく、むしろ出版社の設備や人員を持ち出して成立しているものだということが分かります。

 商業出版でそれができるのは、何十万冊何百万冊売れる本がその中から出てくるからこそのことでしょう。

 

 印税率の10%が高いか低いかの話でも、電子であろうがストアの決済費用は3割程度は必要でしょうし、紙の本でも特に書店や取次の費用が3割とかなので、流通させる費用は安くなりません。そこにデザイン費、校正費、入稿費などの諸経費もあります。紙の本にはさらに印刷費と在庫の管理やリスクを出版社がとっているという事情もあります。部数が大きくなれば相対的に諸経費の割合が少なくなり、在庫を抱えなくて済めばそこのリスクもなくなりますが、そうではない本もあります。売れている本で出る余裕も、結果的に売れなかった本を支えるために使われたりもするので、別に誰かが不当に上前を跳ねているという話でもないわけです。

 この手の話では、「作者の仕事をより評価をする」というていで、周辺で労力を支払っている人の仕事を不当に低く評価し、彼らの報酬を切り下げることでそれを達成させようという発想の人が目に入ることがあり、なんだか嫌だなあと思ってしまうことがあります。

 

 例えば、著者印税を10%から倍に増やすためのシンプルな方法は、10%値段を上げるということだろうなと思っていて、その場合、値段が上がったとして買う人がどれぐらい減るか?という試算が必要となってきます。

 以前、福満しげゆき氏がエッセイ漫画の中で、自分の本の値段を上げられないか?という交渉をする場面がありました。氏の主張では、自分の漫画のファンは、値段が少し上がったぐらいで、「じゃあ買わない」となる客層ではないという認識が開示され、それは実際そうではないかという印象があります。

 

 同人誌の市場では嗜好品的な意味合いが商業出版よりも高いことから、さらにそういう側面が強くあり、400円の本が600円になっても問題なく買うという人が多いですし、逆にそれまで買わなかった人が、200円だったなら買うということも少ない印象があります。

 たった30ページの漫画が数百円以上で売られていても成立するという事情は、それが特殊な嗜好品であるからではないかと思います。反面、そのような値段を気にしない人の総数は商業出版よりも多くはないと思います。つまり、それは値段に糸目をつけずに同人誌を買える人の総数の中でだけ成立するもので、そこから数百万冊のヒットが出ることは難しいのではないかということです。

 

 あと別な話では、30ページが1000円で買われている場所でも、200ページの本が6000円だったら売れない気がしますね。

 

 つまり、商業出版というのは、単巻何十万部以上売れる漫画が出てくることが前提の場所であり、それは一人の漫画家が1冊200ページもあるような漫画が何十冊も量産するような環境で生まれてくるもので、同人誌の市場はその代替にはなり得ないのだと思います。

 

 一方で、売れるのは1万部以下だが嗜好品的な内容で、この本でなければならないという漫画を描ける人にとっては、商業出版の流れには乗れなくとも、同人誌であれば儲けられるということだと思います。そして、そのような嗜好品として代表的なものはエロ漫画で、エロでない漫画だとその壁を突破するのは、かなり難しそうです。

 

 結論としては、最初に書いたように、同人誌が特定条件下で商業出版よりも儲かるのは事実だと思います。そして、それは商業出版の代替になる種類のものではないとも思いますし、出版社の役割もなくなる理由がないように思います。少なくとも、今のところは。

 

 これは同人誌の市場を大したことがないと言っている話ではなくて、商業誌では食えない人でも自分に適した戦う場所ならば食えるという話ですし、電子販売などの環境整備によって、その領域は広がっているという話でもあると思います。

 自分が何かをやるならば、どの場所でやるのがいいのかを考える選択肢が増えることはいいことで、そして、漫画で食っていくことを考えるなら、その場所が自分にとってどこなのかを考えないといけないのだろうなと思いました。