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実写映画「バクマン。」は実質、林羅山説

 実写映画の「バクマン。」を皆さんは見たでしょうか?最高と秋人の2人の高校生コンビが、週刊少年ジャンプでナンバーワンの漫画を描くこと(そしてアニメ化されて好きな女の子をその声優にすること)を目指す映画です。

 特に原作を読んでいた人に聞きたいのですが、あれは「バクマン。」でしたか?確かに登場人物や、置かれている状況は「バクマン。」だったでしょう。でも、本当にあれが「バクマン。」ということでよかったのかどうかに、僕は疑問があります。僕はあれが、「スラムダンク」であったように思えてならないからです。

 

 さて、林羅山という人物をご存知でしょうか?歴史の授業で出てきたと思うのでご存知と思います。林羅山は、朱子学派の儒学者であり、徳川家康から数えて4代の将軍に遣え、江戸幕府の在り方についての様々を定めた功績のある人物です。

 彼は儒学者でありながら、儒教ではなく、仏教の僧侶として出家しています。しかしながら、彼は仏教の僧侶としての立場を得つつも、儒学者でもあり続けた人物でした。朱子学とは、儒教から宗教性を取り除いた学問です。江戸幕府は、寺請制度により、人々をいずれかの寺院に所属することを義務付けました。つまり仏教を利用することで、宗教統制を行うとともに、民衆の管理を行う施策を進めたわけですが、一方で、江戸幕府の正学としては朱子学が採用されており、ここに林羅山の影響があると思われるわけです。

 

 宗教性を排除した朱子学と、形式を残した仏教による江戸幕府の統治は、その習合にも影響を与えたのではないでしょうか?曖昧に書いたのは、僕は適当な本の読みかじりなので、学問的には間違っているかもしれないという予防線です。

 

 さて、現代の寺院で見られる、日本の仏教と我々が思っているものの中には、様々な儒教的なものが残っています。例えば、位牌は儒教にその起源があるものです。お盆も、なんとなく仏教的に思えてしまいますが、先祖の霊が帰ってくるという思想は、仏教における輪廻転生の概念と矛盾しますし、一方で祖霊を祀ることを教える儒教とは親和性が高いものです。

 この辺も、僕には厳密な話はできませんが、我々が仏教という枠組みで捉えているものの中には、実は仏教由来ではなく、仏教が日本に根付く中で、様々な別の思想を取り込んだ結果であったりもするわけです。

 

 宗教は、このように外来したものが現地信仰などと結びつくことも多く、あるいは、布教のために土着の進行を悪神として取り込んだりなどして、地域によって変化をしがちなものです。その結果、開祖の思想はどこへやらとなってしまったり、最初の経典の思想に帰れ!と主張する人が出てきて揉めたりを繰り返していて、様々な地域での受け入れられ方なんかの本を読んでいると、非常に人間的で面白い話だなと思います。

 

 林羅山は仏教の顔をしながら、儒教由来の思想をその中にまんまと取り込ませることに成功した男という解釈をすることができます。

 これですよ!つまり僕が言いたいのは、「バクマン。」の実写映画を作るというていで、映画製作者たちが作りたかったのは「スラムダンク」であり、まんまと「スラムダンク」の映画を作ってやったのではないかと思うわけです。

 

 じゃあ、どこが「スラムダンク」なのかというと、終盤の展開です。

 

 映画の中で、最高は、ハードワークがたたって入院してしまい、せっかく上り調子な連載中の漫画を休載せざるを得ないことになってしまいます。しかし、最高は病院を抜け出し、原稿を完成させて、編集長に提示して、見事掲載する許可を得ることができます。そして、ついにはアンケートのナンバーワンを得ることができるのです。しかし、ここで全精力を使い果たした彼らの漫画は、その後人気を落とし、終わってしまうことになります。

 これは、映画の尺に物語を収めるための変更だと思いますが、原作とは異なる展開なんですよね。

 

 そして、一方でこれは「スラムダンク」の最後に酷似しています。バスケの試合中のアクシデントで背骨に痛みを感じた桜木花道は、選手生命にかかわると警告されながらも、自分の全盛期は今だと言って試合に出続け、最強のチームと名高い山王工業に勝つことができます。そして、その試合で力を使い果たした彼らは、次の試合でぼろ負けしたと書かれ、連載が終わるのです。

 

 実写映画の「バクマン。」でも、「スラムダンク」の話題は登場し、そして、なによりクライマックスのアンケート1位をとった場面で、最高と秋人がタッチをかわすのです。これは「スラムダンク」における流川と桜木のタッチをかわすシーンと同じでしょう。僕たちは、「バクマン。」の映画を見に来たつもりが、「スラムダンク」を見させられていたのだ!!とそのとき思いました。

 

 長々書いてきましたが、もちろん「スラムダンク」だけが描きたかったわけではなく、他の作品へのオマージュも沢山あり、あるいは、大槻ケンヂの「グミチョコレートパイン」を意識しているのかな?というような場面もあったのですが、基本的には、90年代のジャンプ漫画が好きだった人たちが、90年代のジャンプ漫画が好きだった気持ちを元に作った映画なんじゃないかなという風に感じました。

 そんな感じに、「バクマン。」の原作で描かれていたものをぐぐっと最小化して、90年代のジャンプ漫画が好きだったぞ!という気持ちをマシマシにしたら、結果、映画が面白かったので、なんかその状況が面白かったなという話でした。