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「夢中さ、きみに。」と内向的な人間を浮き彫りにする人間関係関連

 和山やまの「夢中さ、きみに。」は、先月単行本が出た漫画で、気を抜いていたら紙の本が売り切れていたので電子版を買ったものの、先週ぐらいに紙の本が重版されたようなので、そっちでも結局買いました。以下、具体的ではないですがほんのりとネタバレが含まれます。

 

 この漫画は大きく、林くんを取り巻く複数のお話と、二階堂くんを取り巻く複数のお話で構成されます。この2人の共通点は、2人とも何を考えているんだかパッと見、よく分からないところだと思います。

 

 林くんは、本当に何を考えているんだか分かりませんが、でも、彼の中では何らかの考えがあってそういうことをしているんだろうなと思えます。周囲は、林くんが林くんであることに困惑しますが、一方で、林くんが何なんだか分からないことで、林くんに興味を持ち、林くんが何を考えているかを探ろうとしたりします。

 そうすると、浮き彫りになってくることがあるわけです。彼が言い出す突飛な言動は、全くランダムに出てきたものではなく、彼なりに色々考えて出てきた言葉なんだなと思える瞬間があるわけです。ただ、その過程が表に出て来ず、ただ結論だけを与えられると困惑したりします。無数の「分からない」の間に、ときおり「分かる」が発生することが林くんの魅力じゃないかと思っていて、人間には「分からないものが分かりたい」という根源的な欲求があると思うんですよ。だから、林くんを分かりたいと思う人が沢山現れるのではないかと思います。漫画の中にも、漫画の外の読者にも。

 

 二階堂くんの方は、意図的に自分の周囲を混乱させるメッセージを出している子です。人間は結局、その人が出してくれたメッセージを読み取ることでしか、人を解釈することができません。それは言葉だけではなく、表情やしぐさもそうですし、服装や髪形など、見た目が発するメッセージ性もあります。そのように目に入った断片を繋ぎ合わせて、この人はこんな人ではないか?と類推するわけです。

 では、人が、わざと誤解されるように振る舞ったとしたらどうでしょうか?狂人のまねとて、大路を走らばすなわち狂人なりです。周囲の人間には分からない理屈で、周囲の人間の分からない行動をとるならば、それはきっと狂人なのかもしれません。どんな狂人でも、その行動には、その人なりの理屈があるのではないかと思っています。そして、それが理解できたときに、理解できた人にとってその人は狂人ではなくなりますが、どんなに理路整然とした理屈があったとしても、他人に理解されなければ、狂人として扱われてしまうのです。

 

 二階堂くんは、他人を遠ざけるために、わざとそのような行動をとる普通の人です。でも、普通の人がそんなまねまでして、人を遠ざけなければならないのは異常です。彼をその異常に走らせたのは、周囲の人間からの誤解でしょう。狂人のまねをせずとも誤解は発生します。

 人は他人を見たいようにしか見ません。運が悪ければ、他人が見たいように見た人物像に、当人のありのままの姿が合致していないことで怒られたりもします。二階堂くんは、そういった不幸を避けるために必死で自分を偽り、でも、そこに気づく人も出ました。

 

 自分の中だけで完結した理屈で動きがちな内向的な人間の内面は、その人をひとりにしていただけでは何も読み取ることができません。僕自身その傾向があります。子供の頃はもっとそうでした。

 子供の頃は、他人から言われたことをブラックホールのように吸い込んで、相手が予想したリアクションを返さないので、何を考えているのか皆はよく分からなかったようで、周囲を混乱させてきたこともしばしばでした。それは、周囲の人間にどのようなリアクションを返せばどのように受け取られるかにビビッていて、上手くいかなくて失敗も繰り返すので、それならいっそ何も返さない方が安全だと思い込んでいたためではないかと思います。

 

 だから僕の人間関係は、周囲の僕の人間性にぐいぐい踏み込んでくる友達がいたことで何とか成り立っていました。僕自身はできるだけ何も発さないように決め込んでいましたが、ずかずか踏み込んでくる友達へのリアクションが面白がられて、僕という人間の人間性が周囲に受け入れられていた部分が多分にあったと思うからです。だから、僕が一番仲が良かった友達は友達で、周りには変な人だと思われていたことも多かったです。距離感がぶっ壊れていたので、0から100に距離を縮めてきたりしましたけど、それが運よく、常に周囲との距離をとりまくってしまう僕との相性が良かったんでしょうね。

 僕は、他の友達に何であんな変なのと仲良くしているのか分からないなんて言われたこともありますけど、でも僕には彼ら彼女らのその態度がありがたかったとも思うわけなんですよ。

 

 「夢中さ、きみに。」で描かれていることもそこに通底することがあるような気がしていて、ひとりで存在していれば何も読み取れないような内向的な人間について、周囲の人間との関係性が発生することで、見えてくるものがあります。それがなんか嬉しい感じがしました。僕はこの漫画を読んでいて、なんか嬉しい感じがすごくしたんですよ。

 

 それは内向的に生きてきていた自分が、周囲の人間関係が存在することで内面が開示されたことで、何かしら救われてきたというような自覚があって、そして、それが面白く肯定的に描かれているように思ったからです。

 

 に…人間と人間の関係性~!!僕はそれをすごく良いものだなと思っています。