漫画皇国

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お肉の錬金術師

 「鋼の錬金術師」における錬金術では、「等価交換」を原則としていて、物体を理解して分解して再構築することで、別の何かに変えることができたりします。さらに禁忌である人体錬成をしようとすると真理の扉というものと向き合うはめになったりします。

 でも、人体錬成というのはうすらぼんやりと考えると人体の営みそのもので、外から物質を摂取しては分解して常に再構成しているというのがそもそも人体の普通です。そうか、現実の人体錬成はそんなに特別でもなく毎日生きているということそのものなのだなあと僕は思ったりしました。とはいえ、錬金術師のように自発的に人体を理解して分解して再構築しているというわけではなく、人体にそもそも備わった機能であり無意識の所業なわけなのですが。

 ある日のことです。僕は今日も今日とて人体錬成でもしようかと思いながらある飯屋に入ることにしました。

 席に案内された後、気がつけば目の前に扉があるのです。あれ?なんだろうな?おかしいな?と思ったのですが、その扉は間違いなく目の前に存在しています。もしかするとこれは真理の扉なのではないかと思いました。おそるおそるその扉を開けてみたところ、びっくりです。なんとハンバーグのメニューが出て来たのです。

 よく考えてみれば、ハンバーグは肉を分解して再構築している非常に錬金術的なものですし、そうか真理とはハンバーグのことなのか!!と僕は瞬間的に理解したのですが、それと同時に「エッグカリーバーグディッシュ150g」とわけのわからないことを呟いてしまったのです。その言葉の結果、どうやら「真理」との契約が成立してしまいました。扉は閉じられ僕の前から姿を消してしまったのです。

 真理の扉の中を垣間見るには通行料として身体の一部を取られるのが常。しかしながら、僕の身体には欠損は見られません。でも、胃の中が空っぽになっている感じはあったので、ひょっとしたらこれかな??と思ったりしました。そこで、はっと気づいた僕は両手をパンと合わせてみました。もし、僕が真理の扉を通過していたのなら、錬成陣がなくともこの所作だけで錬金術が使えるはずです。手を合わせると同時に「いただきます」と口にした僕の目の前には、なんということでしょう、

 いつの間にか「エッグカリーバーグディッシュ150g」があったのです。

 僕は自分の力に困惑しました。先ほどまではなかった「エッグカリーバーグディッシュ150g」が目の前にあるのです。しかし、そこで疑問に思ったのは、錬金術というものは等価交換ということです。この「エッグカリーバーグディッシュ150g」は何によって錬成されたのだろう??と思いました。

 視界の端に紙切れが見えました。そこにはこう書いてあったのです「エッグカリーバーグディッシュ150g 868円」。なるほど等価交換です。この「エッグカリーバーグディッシュ150g」は868円と等価交換されることで、ここに錬成されたということが分かりました。

 僕はそれを食べます。自分の人体を錬成するためにです。この「エッグカリーバーグディッシュ150g」は分解されて僕の血肉として再構築されるのです。卵の黄身がハンバーグにかかり肉汁の旨味と溶け合って濃厚な風味を醸し出します。そこにはカレーソースがよく合います。濃いめの味を白米が優しく受け止め、ちょうどよい旨味が口腔に広がります。こうなったらもはや僕の手は止まりません。同じ動作を何度も繰り返し、ハンバーグは、目玉焼きは、カレーは、そして少し控えめに存在するサラダとその上にちょこんと乗ったプチトマトは、何度も何度も繰り返したその動作の果てに、ついにはすっかり僕の胃の中におさまってしまいました。

 「エッグカリーバーグディッシュ150g」をすっかり食べ終えた僕は、等価交換を成立させるために飯屋のレジに向かいました。そこで僕が思ったのは「等価交換を否定する新しい法則」のことでした。10を貰って10を返すのが通常の等価交換です。でも、この支払は違います。868円の「エッグカリーバーグディッシュ150g」に5%上乗せして911円にしてお店に払うのです。これが、僕の辿り着いた等価交換を否定する新しい法則です。名を「消費税」と言います。

 911円を払った僕は颯爽と飯屋を出ました。目の前には昨日までと同じようで、昨日までと決して同じではない新しい世界が広がっていました。

 その飯屋の名前は「びっくりドンキー」と言うそうです。