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「バスタード」における魔法とSNSの類似関連

 「バスタード」は連載が長らく止まっている漫画で、僕はそのずっと続きを待っています。バスタードは剣と魔法のファンタジーとして始まった漫画ですが、途中で世界のからくりが明らかになります。それは、この剣と魔法の世界は実は我々の世界の数百年後の姿であるというものでした。作中の「魔法」という概念は「霊子力」という科学の文脈で説明されるのです。

 漫画に登場する破壊神アンスラサクスは、霊子力が生み出した大量破壊兵器で、強大な魔力を持つ魔法使いの主人公、ダークシュナイダーもまた、霊子力が生み出した存在であることが示唆されます。

 

 バスタードが特異だと思うのは、「魔法は科学」だと解き明かされたあとに、その上でさらに天使と悪魔という神話上の存在が登場することです。魔法だと思っていたものは科学であったが、実はその根本には神話の世界があり、それらは全て一体のものであるという統一理論的な世界観が示されるのです。

 この世界には神が存在し、天使が存在し、堕落した天使が悪魔となり神に反逆し、神話の中で伝えられる出来事は全て事実であると示されます。その上で、彼らはまた物理的な存在でもあり、それらは重なっているのです。

 物理の視点において、天使は正のエネルギーフィールドであり、悪魔は負のエネルギーフィールドであって、例えば「天使が堕落する」ということは、あたかも恒星がブラックホールに転換するように、そのエネルギーが中心に向かって落ちていくことで反発力を崩壊させたときに、力場が正から負に反転する物理現象と同じであることが説明されます。

 

 神話を否定せず、魔法を否定せず、科学を否定しない、全てを飲み込むような大統一的な世界観がめちゃくちゃ十代の僕の心を掴んで離しませんでした。なおかつ、様々な漫画やらゲームやら特撮なんかのパロディーも盛りだくさんで、例えば天使という概念がウルトラマンと同一視されるような描き方をされたりしていて、本当に何でも飲み込み取り込む強烈な漫画で、僕の心も飲み込まれているわけです。

 

 そろそろ本題なのですが、バスタードの作中における「魔法」の概念についてのことです。魔法は霊子力によって説明される物理現象であると同時に、神の力の秘密でもあります。それは神や天使や悪魔は当たり前に使える力であり、その力を霊子力という文脈で解明した人間にも取り扱えるものとなっています。

 魔法における長大な儀式や複雑な象形は、人間と霊的に上位な世界とのチャンネルを開くためのもので、魔韻を含んだ言霊で組み上げた呪文は、さながらプログラミング言語のようにその魔法を記述します。これらは初心者向けの魔力制御方法とされています。弱い魔力しか持たない人間でも、神の力の秘密を再現することができるように作り上げられた技術体系なのです。

 

 これがSNSにおける人間の振る舞いと似ているなと僕が思ったという話です。

 

 SNSには、そもそもSNS外で有名な人もいれば、あるSNSの中だけで有名な人もいます。そして有名ではない大多数の人がいます。

 有名な人の振る舞いは、バスタードにおける天使や悪魔に似ていると思います。つまり、ただ手足を動かすことで魔法が使えるように、何気ない発言でも猛烈な勢いでシェアされ、いいねがつけられるということです。同じ発言を有名ではない人がやっても見向きもされないのではないでしょうか。そんな内容の発言でさえ、有名人ならばすぐに沢山の人に反応されるのです。

 

 一方、そもそも有名でなかった人ではそうはいきません。発言の内容にSNS韻の含まれた言霊を組み込んで、漫画や図解のような象形を活用し、そのとき注目が集まっている話題や猫の写真などという霊的上位世界とのチャンネルを開いて力を借りるようなことをしなければ、多くの人から反応を得ることはなかなかできません(ただ、多くの人から反応を得ることは副作用も大きいので僕個人はあんまりそうなりたいとは思いません…)。

 

 SNSの中で有名になろうとしてなった人は、そういう魔法を頑張っている感じに僕は見ています。流行りの話題にSNSウケのいい「韻」を組み込んだ魔法を繰り返し使ってきたことでフォロワーを増やし、魔法使いとしての立場を確立してきたのかな?と思うのです。

 そして、一方でやっぱり天使や悪魔に相当するような有名人ならば、そんな複雑な術式を使わなくとも大量の反応を得られるわけなんですよね。つまり、魔法を使うことを頑張っている時点で天使や悪魔ではなく、人間の魔法使いだな、あくまで人間の魔法使いの頑張り屋さんだな、と思ったりするわけです。

 

 人間の魔法使いが、流行りの話題にいっちょかみしつつ、ときに対立をあおって両側の神経を逆なでたりもしながら、SNSでウケる韻を意識したり、複雑な象形を駆使して漫画にしたり図にしたりして、やっと発動できた魔法により入手できるシェアやいいねの数を、有名人の天使や悪魔は「おはよう」の一言で悠然と超えていったりします。

 この歴然とした差があるという事実、皆さんも認識しているのではないでしょうか?

 

 例えば、インターネットの論客として日々色んな揉め事にコメントしている人が、それ以外の何気ない日常の発言には全然いいねがつかないなどという光景を皆さんも見ているのではないでしょうか?その魔法使いたちが、天使や悪魔に勝つ光景を想像できますか?

 

 そう、つまりバスタードで行われているのは、そのような絶望的な戦いです。

 

 天使と悪魔の戦いの中に、兵器として人工的に作り出された魔法使いダークシュナイダーが、その超絶美形(ハンサム)と、巨大なポコチンと、絶大なる自信と、人間離れした魔力と、悪魔たちから奪った力なんかを使って戦い挑んでいるわけです。この戦いの無謀さについて、皆さんもご存知かもしれないSNSの雰囲気を手掛かりにして理解していただけましたか??

 

 バスタードの続きが載らなくなってもう何年経ったかも曖昧ですが、あの戦いの先がどうなるのか?僕はいまだにずっと読める日を待っているわけです。皆も待とう!バスタードの再開。