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コミティア129で買った「カラオケ行こ!」について

 昨日のコミティアで、どうしても欲しかったので、サークル参加している初動の早さを利用して、開場すぐに並んで買ってきました。以下が感想ですが、ネタバレも多少は含んでしまうので、皆さんはまずどうにか本を手に入れて読んでください。

 以下にサンプルが公開されていました。

 

www.pixiv.net

 

 この漫画は、合唱コンクールに出場していた中学生に、ヤクザの若頭補佐の成田さんが目を付けたことから始まる物語です。

 その組の組長は大のカラオケ好きで、定期的にカラオケ大会を開催しては、一番下手だった組員に罰として自分の手で刺青を掘ります。組長の下手な刺青を入れられたくない組員たちは、必死でカラオケを練習し、自分が一番下手にならないように死に物狂いになるのでした。そこで、成田さんが目を付けたのがこの物語の主人公の岡くんです。彼は合唱コンクールの中で一番歌が上手い学校の一番歌が上手い少年です。若頭補佐の成田さんは中学生の岡くんを毎週カラオケに誘っては、指導を頼む関係性になるのでした。

 

 この物語から僕が読み取ったのは、「変わってしまうもの」と「変わらないもの」です。世の中は諸行無常なので、あらゆるものは時間の経過とともに少なからず変わってしまいます。子供にとっては特にそうでしょう。肉体の成長も精神の成長もとても早く、今のままでいることはできません。

 

 岡くんにとっては声がその象徴です。避けられない声変わりがあることで、これまで出せていた声が出せなくなるからです。歌が上手かった少年は、かつて出ていた声がでなくなり、歌は上手くあることはできても、今までと同じ上手さではいられなくなります。物事は変わっていくのです。その場に留まることはできない。

 成田さんが歌を上手くなって逃げようとしているのは、「変わらないもの」からです。組長の一時の思い付きで、消せない刺青がその身に刻まれてしまうかもしれないことから逃げたいということです。だから変わらなければなりません。歌が上手くなるように変わることで、変わらないものの恐怖から逃げることができます。

 

 この物語は、そんな変わりたくない岡くんと、変わりたい成田さんの関係性で紡がれる物語です。

 

 変わることは、良いことでしょうか?悪いことでしょうか?では、変わらないことはどっちでしょうか?ヤクザの介入によって自分の生活を変えられてしまった岡くんは、最初はそれを迷惑だと思いながらも、徐々に、その変わったことを受け入れていくようになります。

 成田さんは、岡くんの指導で、歌を上手く歌うコツを獲得していきます。好きな曲よりも上手く歌える曲を教えてもらい、それを練習していきます。でも、毎回のカラオケで好きな曲を、X JAPAN「紅」を、歌い続けるわけですよ。変わらずに。だって好きだから。

 

 変わってしまいそうだけど変わりたくなかったり、変えなければならないのに変えたくないことがあります。変わらない何かを受け入れることが嫌だったり、変わることが心地よかったりします。物語の後半で、決して変わってほしくなかったことが起こるわけじゃないですか。あり続けて欲しかったものはいつかなくなってしまうかもしれないわけです。

 自分にとって大切で心地の良い時間は、永遠には続きはしないかもしれないということに気づいてしまいます。それが自分ではどうにもできないかもしれなくても、その中で生きるしかないわけです。

 

 変わりたくなかった少年は、自分の人生に暴力的に介入してきたヤクザによって、たくさんのことが変わってしまいました。でも、それが今度は変わってしまったことが、変わらないでいて欲しく思ったりしてしまうわけです。世の中はそういうことの連続じゃないですか?

 永遠に続くものはないです。でも、すぐになくなってしまうものもあれば、少しは長く続くものもあるじゃないですか。そういうことのごちゃまぜになったものが人生じゃないですか。だったら、それを瞬間瞬間で切り取って、変わることも変わらないこともあるでしょう。変わってほしいことも変わってほしくないこともあるでしょう?だったら、自分の中で、何がそれぞれに当たるかということが分かることに、意味があるんじゃないでしょうか?

 

 この物語の最後は、変わらないもので締められます。でも、それは決定的に変わったものでもあります。それが変わらなかったことと、それが変わったことが、なんだかとてもいいなあと思いました。

 みんなもどうにかして手に入れた方がいいよ??