タオルまるめちゃおさんのサンダーボルトの最終巻が、11/25(日)のコミティア126で出ました。気持ちが高まっているうちに書くべきだなと思ったので感想を書きます(ネタバレが含まれてしまうが、それを書かないことには感想を書けないので、どうにかしてサンダーボルトを全部読んでから読んでくれた方がいい…)。
以下、通販ページですが、全5巻の3巻までしかまだなく購入不可になっていますが一応。
この物語は、何がどうなれば終わるのかということについて、全然予想がつかなかったんですけど、終わってみれば、これ以外ないというほどの終わり方をしていて、めちゃくちゃ良かったです。コミティアの会場で読んで泣いてしまいました。
タオまるさんの、サンダーボルトの最終巻、めちゃくちゃよかった!最後のとこで、号泣しそうになったので、一旦本を閉じて落ち着いた。人がたくさんいるところでなければ…。 pic.twitter.com/NBqLdKb2Kc
— ピエール手塚🍙ティア け08a (@oskdgkmgkkk) 2018年11月25日
サンダーボルトは、ヒーローになろうとした少女の物語です。過去の戦えなかった自分を後悔し、過去の救えなかった人々を、今度は救うために戦う物語です。金色の髪を携えたマスクに身を包み、両腕には電撃の武器を装着して、みっこちゃんはヒーローになろうとします。
以下は、前に途中の段階で書いた感想。
この物語は勝ち目のない戦いの物語です。どんなに体を鍛えても、どんなに秘密の武器を作っても、ひとりの少女でしかないみっこちゃんの力には限界があります。いや、少女ではなく屈強な男だったとしても、ひとりで出来ることにはきっと限界があるんですよ。世の中は一対多になってしまったとき、ほぼほぼ負けてしまうものだからです。
そもそも暴力で人を救えることなんて、ごく限られた場合のみです。悪を倒すよりも、傷ついた人に寄り添うことの方が多くの人を救えるかもしれません。
でも、違うでしょう?みっこちゃんの根本は、あの日の出来事です。ダンボールで作った鎧を身にまとい、イナズマ仮面として最強だった小さなみっこちゃんが、友達のピンチに駆けつけることができなかったわけですよ。暴力に怯えて、友達が傷つくのを知りながら、隠れていることしかできなかったわけですよ。
暴力で人を救えることは少ない。でも、相手が暴力を行使するとき、その場、その時には暴力でしか立ち向かうことができません。あの日の自分を振り切るため、今度は絶対に立ち向かうため、サンダーボルトは悪と戦うわけです。じゃあその悪とは何なのか?サンダーボルトは、何と戦えばいいのか?そして、その結果はきっと敗北になってしまうんじゃないでしょうか?
世の中に正義と悪がいたとしたら、皮肉なことに悪の方が持続的です。持続的な悪が、人を追い詰め疲弊させ、それでも、人と人とがその歯車の中にがっちりと嵌められてしまうからこそ、抜け出すことができません。対する正義は、多くの場合、残念ながら瞬発的です。その瞬発力は、瞬間的になら悪を上回る力を見せることもあります。でも、その悪を倒した後の世の中で、持続的に正義をやっていくことは実は難しい。
だから、世の中では正義が悪を打ち倒しても、その後に、またじわじわと悪が世の中を蝕んでいきます。繰り返し続く悪にまみれた日常の中を、たまに起こる一瞬の正義のきらめきだけで生きていくことになります。でもそのように生きることは本当に幸せでしょうか?
みっこちゃんは、サンダーボルトは、その一瞬のきらめきのひとつです。そして、それは悪を一瞬倒せるほどにも大きくない、小さな小さなきらめきです。だから勝てっこない戦いなわけです。敗北必至な戦いなわけです。でも、それでも戦うわけでしょう?だって許せないから。そんな悪がはびこる世の中が当たり前であっていいはずがないのだから。
この世にはびこる悪を象徴するような男は、とても正しいことを言います。その正しさが、多くの人を巻き込み、盤石で、損得で考えればそこにすがるしかないような人たちを沢山生み出しています。それがじわりじわりとその身をこそぎ取られるようなものだとしても、目先の損得を放棄できない普通の人々は、その中に、自分の意志とは関係なく絡めとられてしまうのです。
こんなものは正しくなんてないと思いながらも、そこを抜け出せない人がいる。それは、それでもきっと、そこに留まることが自分にとって最良と思えてしまうからでしょう。一番ましな選択をすることが、自分自身をどぶの底から抜け出させる可能性を放棄させるように働きます。それはとてもとても悲しいことです。
サンダーボルトは、それに抗うイナズマのように戦い、そして、負けてしまいました。いや、もしそこで勝っていたとしても、その後の結果は同じでしょう。サンダーボルトが倒さなければならない悪は、サンダーボルトひとりの力では決して倒すことができません。
これは敗北の物語です。それは最初から分かっていたことかもしれません。世の中は分かりやすい悪党を倒して、平和になるような構造をしていないからです。瞬間最大風速としてしか機能しない正義よりも、地道に時間をかけて世の中に浸透する悪の方が、ある意味真っ当かもしれません。なぜ正義にはそれができないのか?なぜ正義は一瞬にきらめく、イナズマでしかないのか。
この物語が見せてくれるのは、そんな敗北でしかない戦いの中で、それでも生まれてくる持続可能な正義の萌芽です。勝ち目のない戦いかもしれない。でも、決してそれは無駄ではなかったという話です。意味のない戦いではなかったという話です。
しかしながらそれは、サンダーボルトがようやく対峙した悪の権化のような存在との戦いとは、全く関係のないところから起こったものでした。
それは悪を打ち倒すことそのものではなく、弱き者を守ったことから繋がった先のお話です。サンダーボルトは負けました。サンダーボルトは消えてなくなりました。でも、意味はあったわけです。それがみっこちゃんのあずかり知らぬ場所で起こったことだとしても。
そして、みっこちゃんにはまだサンダーボルトではない未来が待ち受けています。それは、もしかすると、サンダーボルト以上に困難な道かもしれません。
サンダーボルト、2巻目が出たときに、コミティアでたまたま買ったんですけど(何がきっかけかは忘れました)、ほんとすごい良くて、そして3巻目が思ってもみない話だったので、これは絶対すごいやつだぞ!!と続きを待っていて、最終巻がもうホントホント良かったんですよ。いやあ、ホント良かったなあ。
この感想も、今の僕の瞬間最大風速でしかないので、もうちょっと何回も読み直して書き直すかもしれません。
とにかく皆、何とかして読んで!!