漫画皇国

Yes!!漫画皇国!!!

強さと悪さを兼ね備えた者だけがキャッチできる信号の話

 「幽遊白書」の戸愚呂(兄)は、弟に粉々にされたあと、海を漂います。そして、少しずつ再生し、ある浜辺に着いた頃には頭が半分だけ回復できました。戸愚呂(兄)は自分をこのような目に合わせた元凶である幽助たちへの復讐を誓います。そこで、戸愚呂(兄)はある特別な波長の信号を送り続けたのです。それは「強さと悪さを兼ね備えた者だけがキャッチできる信号」です。

 強いだけの善人でもダメ、悪いだけの弱者でもダメ、彼は自分が望む強くて悪い人が来ることを期待し、何年でも待つつもりでその信号を送り続けました。意外にもその相手はすぐに現れます。その名は仙水忍、幽助の前の霊界探偵であり、魔界との間にトンネルを開けようと画策する男でした。

 

 さて、強さと悪さだけを兼ね備えた者だけがキャッチできる信号といえば、似たようなものを発信し続けている存在がいると思います。オタクです。オタクの中には、自分と同じ属性の者だけが意味の分かることを言い続け、書き続け、それをキャッチできる者だけと繋がりたいという欲求がある人も多いんじゃないかと思います。

 最近ではそうでもないのかもしれませんが、僕ぐらいの年代(30過ぎ)だと、オタクであるということはあまりおおっぴらに公言するものではなく、聞かれでもしなければ言いませんし、聞かれても隠す人も多いものでした。

 

 何年か前、七歳下の妹が、「大学にオタクの同級生がいて、その娘は友達が同じ学科にはおらず、休み時間にひとりで携帯ゲーム機で遊んではニヤニヤしている」という話をしていて、同じくオタクであるところの僕は、その話を味のある顔で聞いていたのですが、その様子を見て、「もしかして、○○(妹には呼び捨てにされている)はオタクなの?」と聞かれたので、「うん」と答えると、妹は「うーん」としばらく困った顔をしたあと、「でも、キモくないからいいよ」という謎の許しをもらいました。そのときの僕は「そんなにオタクは悪いものかしら、そんなにオタクは悪いものかしら」と、新見南吉の「手袋を買いに」の狐のお母さんのように思ったりしたということがありました。ちなみに、姉兄弟妹が多い家庭なのですが、オタクは僕だけです。

 ともかく、つまり、当時生まれてから二十年以上の付き合いである妹にも、オタクであることはずっと隠せていたので、相当気を使っていたということが言いたかったのです。

 

 そのようにオタクであることを隠してはいるものの、でも、同じ趣味の友人知人は欲しいと思うことはあって、でも、おおっぴらに言うことができないようなタイプのオタクは、信号を発するんだと思います。それは同じ種類のオタクだけがキャッチできる特別な波長の信号です。僕の場合だと、会話の中にさりげなく何かの漫画に由来する言葉を入れてみたり、同じく、相手がさりげなく入れてきたパロディに反応して、理解を示したりします。それらはある種の暗号です。

 世間の表面から隠れた存在である種類のオタクとしては、他のオタクでない人に気づかれないようにオタクであるという信号を発する必要あったのです。それこそ、何年でも待つつもりで、根気よく信号を送り続けるのです。

 

 このブログも、そのような信号のひとつです。ここのは僕が好きなものしか書いていないですし、多くの人に無理矢理にでも読んで貰いたいと思っているわけでも特にありません。たまたま、僕と同じものに興味がある人が検索で辿りついたり、Twitterなんかを経由して同じ趣味の人が覗いてくれればいいと思っていますし、最悪届かなくたっていいんです。

 ここに書いてある文章には、色んな特別な波長の信号が含まれていますけど、それは僕の感性に従って埋め込まれているので、全てを理解出来るのは僕しかいません。なので、完全に届くとも思っていないのです。なので、ぼちぼち誰かに届いたり届かなかったりすればいいと思っています。

 

 ちょうど丸9年前の2007年1月21日に、阪大漫研Podcastというものを始めました。思い返せば、2006年の4月に就職のために東京に移り住んだところ、僕はそれまでのように毎日漫画の話をすることができなくなってしまいました。漫研や大学の研究室では、毎日のように好きな漫画の話をしていたのに、です。しかたがないので、ある種の口実として以前のように漫画の話をきゃっきゃとできる場所が必要と考えたことからこのPodcastを始めたのだったような気がするのですが、もはや記憶が曖昧なので、微妙に違うかもしれません。

 

 途中何度か、休止していた時期もあり、例えば、一緒にやっている人たちが修士論文で忙しくなったとか、配信に利用していたcocologが大きめのサイズのファイルをアップロードすることを禁止にしたので、音声ファイルを置く場所がなくなってしまったこととか、結局、別のファイルストレージを契約して再開したものの、podcast用のfeedを作るために借りていたpodcasting juiceというサービスが終了したこととか、さらには、阪大漫研という昔所属していたサークルの名前を使うには、メンバーの全員がもう卒業してしまったので迷惑をかけるというようなことが色々あり、色々な変遷があって今は漫画帝国という名前のPodcastとして存続しています。

 

mgkkk.cocolog-nifty.com

 

 ちなみに、この漫画皇国というブログは、漫画帝国で喋ったことや、あるいは、これから喋ろうと思うことをまとめる形で文章が書かれていることも多いです。

 

 さて、漫画帝国もこの前100回を迎え、自分でも長く続けているものだと思うのですが、今月配信したぶんで借りているファイルストレージの利用率が99%ぐらいに到達してしまったので、これ以上続けるためには、昔のデータを削除しなければならなくなりました。

 色々考えたのですが、いい加減昔の自分の発言の音声ファイルなど恥ずかしいでのは?という思いもあり、この際すっぱり阪大漫研Podcast時代のファイルはネット上から消してしまおうと思ったのですが、それをPocastで告知したところ、「消すぐらいなら、どこか別の無料でアップロードできるところに置いてみたらどうですか?」とご意見を頂いたので、さらに色々考えて、それをそのうちしようと思います(soundcloudかmixcloudに置くのがいいのでは?と教えてもらったのですが、ちょっとめんどうなのでまだやっていませんが)。

 

 このPodcastもある種の信号です。送り続けていると、誰かに届くということもあります。僕は人付き合いがあまり得意ではなく、それはネットに場を移してもそうなのですが、淡々と発信していると、それを淡々と受信してくれている人がいて、ぼんやりと繋がっているような感じが、僕が心地よく維持できるレベルの人間関係なのかもしれません。これらの活動を通じて、何人かの人と新しく知り合うこともできました。

 受信できない人からは見えないように、受信できる人にさりげなく分かるように、特別な人にしかキャッチできない信号を、送るということ、それは決して効率のよい方法ではないのかもしれません。手当たり次第、沢山の人の目に触れるところに立って、その中で合う人を見つける方が、手っ取り早いのかもしれません。でも、それがもう個人的に苦手で苦手で全然できないので、こういうのが自分にあった方法なんだろうなと思っています。

 具体的な経験の話をすると、以前、ニコニコチャンネルのブロマガで漫画共和国というブログをやっていたのですが、あそこだと運営に勝手に煽り文体のタイトルに入れ替えられ、動画の上に広告として表示されたりして、頻繁に一記事に何万というアクセスがあって困っていたのです。おかげで僕の隙のある文章が色々な価値観の人に読まれてしまい、意図が正確に伝わらないので、それはちゃんと意図を正確に説明しないといけないなあとフォローするために、大変手間がかかるということがありました。それがめんどいので、今のようにゆったりと書けている方があっていると思います。楽です。

 

 この文も、僕はこういうスタンスなのでという波長の信号なのですが、伝わる人もいれば、伝わらない人もいると思います。そして、それでいいというか、それの方がよくてこういう書き方をしているというお話です。