漫画皇国

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ドラクエ主人公のコミュ力について

 僕はコミュニケーション能力が非常にダメな感じの人間なので、社会で生きていく中の様々な場面で色々な困難に遭遇します。その根底には「他人に迷惑をかけてはいけない」という強迫観念がある気がしていて、そのために、自分がこうしたら相手はどう思うだろうと無限に考えてしまいますし、考えているのでなかなか行動に至れません。例えば、忙しそうにしている店員さんに声をかけようと思うと、忙しくなさそうになる作業の切れ目までじっと待っていたりしますし、食券制の店で何も言わずに出ていくのにも感じが悪いのではないか??と思って、「ごちそうさま」を言うタイミングを計ったりします。ホテルに宿泊しても、顔を合わせるわけでもない掃除の人に感じ悪く思われたくなくて、綺麗にベッドを整えてから出たりしてしまいます。他人から自分に対する敵意や嫌悪感にとても弱いですから、色々頑張ってできるだけそうならないようにしてしまうのです。なので、基本的には他人を頼らずに自分で何でもできるようになろうと心掛けていて、おかげさまで、割と何でも一人でできるようになったので、ある意味良かったとか思っているのでした。

 一方、仕事なんかをしていく上では完全に一人で完結したことができるわけでもなく、それでは困ることも多いですから、必要に迫られて後天的に獲得した上っ面のコミュニケーション能力を駆使して、どうにかなんとか、仕事モードのときにはその性質を抑え込んで生きています。でも、それは上っ面なので、そのモードでいると、大変疲れてしまうのでした。話を聞くにつけ、こういうのをまるで精神を消耗させずに出来る人もいるようで、僕からすると全然違う生き物を見ているようです。自分もそうだったらいいのにと思う一方、そうでなかったからよかったと思う部分もあるので、自分はそういう性質で育ったのだから色々と仕方ないなと思うばかりです。

 

 さて、本題。ドラクエをプレイしていて、大変疑問に思うのは、プレイヤーが操作する主人公たちは、初めて訪れた町の見ず知らずの人々に対して大変気軽に話しかけるということです。コミュニケーションで大変消耗してしまう僕からすると、それはすごいことです。だいたいが僕は初めて行った場所でも、人に道を聞いたりすることが気軽にできないので、必死で地図を見て何とかしようとしますし、学生のときに一人でアメリカに行ったとき、利用しようと思っていた交通機関が工事で止まっていて、しかし、僕は数時間後の飛行機で日本に帰らなければならず、本当に困っていたときですら、英語が拙いのも相まって誰かに聞くこともまるでできず、周囲を観察して、それらしき代替経路のバスに乗り、みんなが降りたところで一緒に降りてみたら、全然飛行場なんかではなく、アメリカ東海岸の某所のだだっ広い草原の中で、あと1時間以内に空港にチェックインしないといけない状態で途方に暮れ、たまたま持っていた方位磁石だけを頼りにきっとこっちに飛行場があるはずだと走り出したときの辛さを思い出して、よく帰ってこれたなあなどと思います。

 

 いきなり話がそれました。

 

 ゲームの中の彼らについて気になるのは、一体何と言って話しかけているかということです。

 「へんじがない、ただのしかばねのようだ」というのはドラクエの中で骸骨に話しかけたときに出てくる有名なメッセージですが、ここにあるように、「返事が返ってくるような言葉」を投げかけているようなのです。しかし、それは表示されずに省略されています。僕は彼らがある種、羨ましいわけなのです。自分にできないことを容易にやってのけているからです。知らない町に行って、知らない人に話しかけ、自分の冒険に必要な情報を効果的に集めることができています。あろうことか家に上がり込み、タンスを開け、ツボを壊し、それでも咎められることがない。大変なコミュニケーション能力だと思うのですが、どうにもそれが隠蔽されている。その秘密を僕はとても知りたいのです。

 

 例えば、「武器や防具は装備をしなければ意味がないぜ」というようなことをいう村人がいたりします。驚くべきことに、彼に何度話しかけても、「武器や防具は装備をしなければ意味がないぜ」と答えるのです。ここから類推するに、おそらくドラクエの勇者一行は「武器や防具は装備をしなければ意味がないですか?」と聞いている可能性が高いです。そうなると返答方法は「武器や防具は装備をしなければ意味がないぜ」か「武器や防具は装備をしなくても意味があるぜ」の二択になるからです。後者は一部の道具として使って意味がある武器防具以外では情報として嘘ですから、村人が正直ならば、きっと「武器や防具は装備をしなければ意味がないぜ」と答えてくれるでしょう。そしてなんど尋ねても、「武器や防具は装備をしなければ意味がないぜ」と答えてくれるはずです。いい加減堪忍袋の緒が切れれば「いいかげんにしろ!!」と怒られたりするかもしれませんが。

 

 このように、きっと自分が他人から何か情報を引き出すためには、自分が何を知りたいのかをきっちりと表現する必要があると思うのです。にもかかわらず、自分が知りたいことや、やってほしいことを口に出さず、相手が察して上手いこと自分の要望に応えてくれるなんて都合のいいことを期待してしまったりします。だって表面上はそうなのです、ドラクエの主人公は、ボタンひとつで他人が自分から有用な情報を喋ってくれ、こちらはせいぜい「はい」と「いいえ」を選ぶぐらいです。楽で素晴らしいではないですか。現実のこの世もそうあって欲しい。

 しかしですよ、あいつらの実際は違います。ドラクエの主人公は、寡黙なイメージがありますが、それは能動的に発する言葉が描写されていないだけで、決して受け身な人間ではなく、どんどん積極的に自分から話かけては情報を得るようなタイプな人間なのです。その証拠に、ドラクエ5の主人公は、幼少期に自分が成長した姿の男性と話す機会がありますが、

 「うん?坊やはステキな宝石を持っているな。その宝石をちょっと見せてくれないか?アハハ…。べつに盗むつもりはないよ信用してほしいな」

 などと言います。これがこいつの正体です。このフレンドリー過ぎる胡散臭さが、こいつの正体です。きっと世渡り上手です。

 

 くそー、人間関係消極的な仲間だと思っていて騙されたなあなどと思いつつ、一方、こちらがボタンひとつ押すだけで、彼らが裏でその卓越したコミュ力を駆使して、いい感じの言葉に変換して質問してくれていたおかげで、僕はあのゲームをプレイできていたのだなと思いました。自分があの世界に実際にいたらと今軽く想像してみましたが、自分に有用な情報が何一つ得られず、どこに行けばいいのかも分からぬまま、道端でうずくまっているという物悲しい光景が広がってしまったのです。

 僕はむしろ彼らに感謝すべきだなあと思いました。そして、彼らがいないこの現実の世界では、誰も助けてはくれませんから、武器や防具を手に入れたときには、「ちゃんとこの武器や防具は装備しないといけないんですよね?」って他人に確認したりして、ちゃんと生き延びなければいけないなあと思ったりしたのです。