漫画皇国

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漫画の鼻の描き方について

 僕には絵を描く趣味がありますが、人の顔を描くときにはまず鼻から描きます。それは何故かというとそれが一番描きやすいからです。なぜ描きやすいかというと、僕は人間の顔を描くときには目鼻口のパーツのバランスを取りながら描いていくわけですが、鼻は顔の中心にある構造物ですから、それが描かれると他のパーツの向きとかも決まってきますし、基準として使い良いからです。なので、絵を描くのを途中で飽きるときも鼻だけはしっかり描かれていたりしますし、鼻を描くのが好きなので、鼻に関してはよく考えているのです。

 漫画の絵でも鼻の描き方のトレンドっていうのがある気がしていて、ここずっとしばらくは井上雄彦の鼻の描き方に影響を受けている人がすごく沢山いるような印象があります。その漫画に求められているものによってベストな描き方は違うような気もするんですけど、なにやらそのへんのぼんやりしたあたりについて、書こうかと思います。

 

僕の描き方について

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 さて、鼻の絵を適当に描いてみましたが、鼻を線をごちゃごちゃさせていいので一生懸命描くと(1)みたいな感じになります。それをどのようなパーツに分解して認識しているかというのが(2)です。この図は僕がそう認識して描いているというだけで、上手い人はもっと細かく分割したり、もっといい感じに分割したりしているかもしれません。ただ、僕の中で鼻というとこういうパーツで構成されているという認識なので、この要素をでっかくしたりちっさくしたりすることで鼻の個性を描き分けるというような感じになります。

 さて、このパーツの中から自分が好きな線を選んで描いたのが(3)になります。僕が人の顔の絵を描くときにはこういう感じに描くことが多いです。鼻の頭の丸は、「何?」って聞かれることも多いんですけど、色を塗ったときにここにハイライトを入れるのが三度の飯よりも好きで好きで仕方がないので、色を塗らないときにも描きたくなってしまうのです。(4)はこういう描き方をすることはあまりありませんが、より線を減らしつつ、記号的に描くとしたらこんな感じかなという絵でした。

 僕の好みとしては、鼻翼というらしい鼻の横の部分と、鼻の頭の丸みをに立体感を持たせて描きたいという部分で、それをできるだけ少ない線で表現するにはこんな感じというデフォルメ感になっています。僕は写真を見て絵を描くタイプではなく、漫画を見て適当にパクって描いているので、この描き方は誰かからパクったものですが、色んなのをパクり過ぎたせいでよく分からなくなっています。が、パクリ元には少なくとも池上遼一井上雄彦五十嵐大介がいるはずです。

 この鼻翼の部分って特に子供の頃は全然上手く描けなくてヤバい感じです。

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 これは今適当に描いてみた絵ですが、子供のときに図工の時間とかに描いていた絵というのはこんな感じになるのではないでしょうか。子供の生真面目さによって細部を一生懸命描こうとするので、鼻とかもこんな感じになってしまいますし、鼻の下の人中の筋の部分とかを描いてしまって、全然気持ち悪い感じになってしまったりします。なので、子供でも特に女の子の描いている絵とかを見ると、鼻を省略して描いていたりするものも多いような気がします。なぜなら、絵が可愛くなくなってしまうからです。

 僕は自分の描く絵は割と気に入っているんですが、気持ち悪いと言われることもあって、それは他人から見るとそうかもしれないなあと思ったりもします。

 

色んな漫画家の鼻の描き方

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 部屋にある漫画を適当にピックアップして、(十分似せられていないことは能力の限界で仕方ないので置いてもらうとして)、色んな漫画家さんの描く鼻を見ながら描いてみました。僕が描いているからというのもありますが、前述の鼻を構成するパーツから、それぞれの漫画家さんがどの部分をピックアップして省略したり誇張したりして鼻を作っているかというのに個性が表れているように思えます。

 僕の雑な偏見として、少年サンデーの漫画では、デフォルメの効いた記号的な鼻が多かった気がしたので、適当にピックアップしてみると、実際比較的とんがっている感じでした。それはつまり、漫画っぽい漫画であるということです。写実とは離れるものの記号として伝えることで、より純に表現しようとしていると言えるかもしれません。

 で、井上雄彦の鼻なのですが、この鼻翼部分の処理の仕方が流行っていると思うのです。もちろん井上雄彦が全てを始めたと言いたいわけではなく、例えばジャンプでは北条司の絵や原哲夫の絵にも見て取ることができるのですが、この部分を描きつつも野暮ったく見せないというスタイリッシュに描く方法に井上雄彦が、多大な影響を与えたというか、バガボンド以降では、この部分の線を男でも女でも描いたりするようになっています。

 前述のように、この部分を下手に描くと野暮ったくなってしまう可能性が高まりますから、例えばスラムダンクの時点では、終盤に至るに向かって男の顔はどんどん線が増えて精悍な感じになりますが、こと可愛い女の子の場合、急に顔の線が少なくなって白く抜けた綺麗な絵になってしまったりします。具体的にはお手持ちの漫画を確認してもらうとして、つまり、この時点ではゴツい男と、可愛い女という二つの絵に置いて二種類の文法が存在しているわけなのですが、それが徐々に融合していくのがバガボンド以降であり、それに憧れた人たちが真似をするようになったのではないでしょうか。僕を含めて。

 

漫画の鼻の種類

 さて、漫画の絵に正解は特にないと思っていて、その漫画が表現したいものが表現できれば、丸ちょんの絵でもいいかもしれませんし、写真を合成して貼付けてもいいようにおもいます。漫画の絵において鼻があることで表現できることというのは、そんなに沢山はないことが多く、鼻が強く感情表現することもあまりないような気がするので、実は別になくてもいいかもしれませんし、有名で絵の大変上手い漫画家さんであったとしても鼻の形は(耳の形の方がもっとかもしれませんが)複数のキャラで同じものを使い回している人も多いと思います。特徴的な鼻のキャラがいたとして、例えば手塚治虫猿田彦系のキャラクターのように、その特徴的なキャラを特別扱いして、他は同じ鼻であったりすると思います。

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 そんな鼻の処理の仕方には色んな方法があると思いますが、絵柄の濃い人は(1)のように立体感を出して描きたいかもしれませんし、漫画的でよければ(2)のように記号化したものを使うかもしれません。鼻を詳しく描けば描くほどに野暮ったくなる可能性が高まるので、(3)のように穴しか描かないという人もいます。これは江口寿史の美少女絵なんかがそうだと思います。

 そして、(4)はデフォルメが効き過ぎて様式美化した結果、何がなんだかわからなくなったものです。黒三角形で鼻を表現するという記号表現はありますが、これはそもそもは黒の部分が鼻の横の部分が陰になっている様を表したものだと思います。が、左に突き出た黒三角形を鼻の記号としてしまったために、右側にトーンで描いたのはこちらもまた陰であったりするのです。つまり左右に陰が出来てしまうという不思議な絵なのだと思いますが、これはもうこういうものだと思ってしまえば気になりません。(5)は思い切って描かないというもので、(3)に近いですが鼻の穴の点すら省略されます。この絵の場合、横向きの絵でも鼻がなくなっているというデフォルメがつく場合もあります。

 (6)は福本伸行の絵の真似ですが、これに限らず独自のデフォルメが進み過ぎて不思議なことになっている絵も存在します。ちなみに福本伸行の絵は、正面の漫画的な絵を立体の整合性を持ったまま横顔に持って来たせいで、アゴや鼻が独自進化し過ぎていて、大変独特ですが、この絵であるがゆえに表現できる表情などがあるので、僕の感覚では上手い絵です。僕の考える漫画の絵の上手さというのは、写実とかデフォルメとかはあまり関係なく、その絵だからこそ出来る表現があるかどうかだと思っているからです。

 

まとめ

 漫画では一般的にペンで絵を描くので、絵は線の集合体になりますが、人間が見ている世界には線はあまりなく、陰影の境界なんかに人間が勝手に線を見いだしているだけです。さらには、漫画ではその陰影も線の疎密で表現されたりもしています。つまり、線で絵を描くということ自体が「自然物を概念化する」という大変高度な人間の営みだと思うので、そこに現れるものには人間的なものが大変反映されるのだろうなと思います。

 漫画の絵は色んな人が色んな人の真似をするという行為を昔々から続けて来ているので、その中に含まれている人間的なものが長い年月の間に沢山引き継がれ練り込まれていると思いますし、「鼻」をひとつとってもきっとノウハウの宝庫であり、その一本一本の線に託されたものが、僕の能力で読み取れる読み取れないにかかわらず沢山あるのでしょう。奥が深いですね。

 まだ書いてないこともいくつか残っているのですが、だんだん書くのがダルくなってきたので、今回はこの辺にすることにして、また今度。あと、この文章は「浦沢直樹の漫勉」という番組を見て面白かったので、書こうと思ったということも書いておきます。