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「迷い」と「決断」について

 映画監督の実相寺昭雄の撮影現場は、他の深夜まで撮影が及ぶ現場と異なり、朝に始めて夕方には終わるという話を聞いたことがあります。多くのシーンはすぐに撮り終わり、何度もやり直してみたり試行錯誤を繰り返したりはしなかったのだそうです。その理由を問われて、実相寺昭雄が答えたのは、「試行錯誤を繰り返し悩んでいると思っているというのは、実は悩んでいるのではなく迷っているのだ。何が正しいのかを把握していないから迷うはめになる。プロは迷わない」というようなことでした。記憶で書いているので、正確ではないかもしれませんが、僕はこれを聞いて、なるほどなと思いました。

 

 さて、僕はとにかく決断ができないことでお馴染みなのですが、ご飯を食べる店ですら、ああでもないこうでもないと思いながら、長時間歩きまわってどこにすればいいだろうと悩みまくったりします。それはつまり迷っているのだと思います。自分が何を食べるとよいかを分かっていないということです。この迷っている時間を、僕は実は嫌いではないので、好きで迷っているという部分もあるのですが、世の中では、早急に結論を出さなくてはいけないことも多く、そういうときに困ってしまいます。

 

 基準が欲しく、理由が欲しいのです。であれば迷わないのです。

 

 ただし、基準があっても迷うことがあります。それは基準が複数存在し、それらがトレードオフの関係にある場合です。例えば、全く同じ商品が100円と90円で売られていた場合、価格を基準とするならば90円の方を買うことを即決できると思います。しかし、100円のものが売られているのは近所の店、90円のものが隣駅の店であったならどうでしょうか。足を伸ばすことと10円の差のどちらが重要かを考えなければならなくなります。近所の店で90円ならば迷う必要がないのに、「安く」「近い」の両方の基準を満たす解が存在しないため、自分にとって「安い」と「近い」のどちらが重要かを考える必要性がでてきました。そしてその答えは場合によると思います。例えば隣駅に別の用事があれば、そのついでにできるとかいうことです。

 

 即決で答えを出すためには基準をトレードオフの介在する余地のないシンプルな形にしなければいけません。

 

 例えば、大学の研究室にいたとき、夜には友人とご飯を食べに行くのが習慣でしたが、土日を問わず毎日研究室にいた僕らは大学の近所のご飯を食べられる場所にいい加減飽き飽きしていて、どこかに特別行きたいという気持ちがなくなっていました。これは迷いやすい状態です。そこで、紙に近所の店のリストを書き出し、サイコロを何度か振って決めるということにしたのです。この方法はとてもよく、基準が明確です。サイコロ様の言う通りであり、出た目の店に行けばいいだけです。これによって、どの店に行くかでごちゃごちゃ話してまとまらない時間を無くすことができるようになりました。

 

 他の例では麻雀があります。対人の麻雀では、長考し過ぎるとテンポが悪くなってしまうので、迷いやすい形のときには、何を基準に手を作るかを予め決めていることが僕は多いです。ちなみにこれがバレると、一緒に麻雀を打つ人に手を読まれやすくなるので、具体的には書きませんが、いくつかのバリエーションを使い回しつつも、自分がよく迷う形のときには、それが状況によって正しいかどうかは別として、こうすることにするというルールを持っています。そうすれば迷わないで済むからです。
似たものに、マークシートのテストを受けるときに、最初に選んで、後から「いやまてよ」と別の選択肢の可能性を考えた場合、最初の方を選ぶみたいなルールも持っていたりします。それは、迷っているような時間の余裕がない場合には即決しないといけないからと、最初の直感の方が正しいことが多かったという経験則からと、迷った末に間違った選択肢を選んだ場合に自己嫌悪になるからなどの理由からです。

 

 何かものを作るときには、こういった無数の基準を「方法論」と呼んで抱えることになると思います。少なくとも僕はそうなのですが、相反する複数の基準を持ってしまった場合に、迷って決断できないと完成しないからです。自分がどのようにするべきかを一手ごとに持っていることで手早く完成しますし、それがなければいつまで経っても完成しません。練習と実践の中で、自分が寄り添うその価値基準を作り上げていくことが習熟するということだと思っています。
 この辺のルール作りをする上で手がかりになるのが「達成すべき目標」です。これが一番大きく一番抽象度の高いルールであり、具体的に物を作る上での細かい沢山のルールは、これに照らし合わせて理想に近づくかどうかというのが採用不採用の基準となります。

 

 何かものを買い替えるときには、沢山の条件の中から、自分が何を重要視しているかを選んで、基準をシンプルにしなければいけません。例えばスマートフォンを買い替えるときには、今より何が良くなって何が悪くなるのかを考えないといけないケースが多く、割と迷ってしまいダルいです。理想を言うならば、全ての要素がアップグレードするというような状態が迷わなくて済むのでグッドで、例えばiPhoneを毎年買い替えるというようなのはそのケースだと思います。今の良い部分は温存しつつ、ほぼあらゆる面で良くなると思えているうちは、お金さえあれば買い替えることに躊躇はないでしょう。ただし、今年のiPhone 6 Plusなんかに関しては、大きくなる分、操作しにくいというようなトレードオフが発生してしまうがために、迷うポイントが発生していたように思いました。
 僕は数ヶ月前からTORQUE G01というスマートフォンを愛用しているのですが、濡れていたり手袋をつけていても問題なく使えるタッチパネルなんかがとても快適で、この機能が他のスマートフォンにはついていませんから、次に買うのはこの後継機にならざるを得ないのではないかと思って困ってしまいます。他の機種を選ぶとしたら、この部分が悪くなるのが確定となってしまうので、他の良くなる部分が、その悪くなる部分と比べてどれぐらいに良いのかというのを評価しないといけないですし、面倒くさくて、迷ってしまうので、迷ってしまううちは買い替えることができないのです。

 

 世の中のあらゆる決断には理由がきっと必要です。理由がはっきりしていれば、決断はそう難しいことではありません。何かを決断できないときに、自分が何の基準と何の基準を比較してどちらが重要であるかを上手く評価できていないのではないか?という部分を整理し始めると、少し決断をするというところに近づくのではないでしょうか。

 

 なんでこんなことを書いてきたかというと、僕はここしばらく、3DS LLをnew 3DS LLに買い替えるべきかを迷っていたのですが、先ほど決断ができたからです。


買い替えると良くなるポイント
・3Dの映像が見えやすくなる
・動作が速くなる
NFCに対応する
・ボタンが増える
・今後専用のゲームが出る

買い替えるのを躊躇するポイント
・今の3DS LLが全然使えるのでもったいない
・SDカードをmicroSDカードに変更するのが面倒
・データ移行が面倒
・カラーバリエーションが今後出るんだろう?
・20000円する


 大体、上記のような条件があったのですが、良くなるポイントと躊躇するポイントが拮抗していたので迷っていました。が、microSDカードの32GBを昨日手に入れてしまったこと、20000円とか別に働けばすぐに稼げる額と思った(思い込んだ)こと、3DS LLは知人の子供にでもあげればよいかと思ったこと、カラーとかそんなどうでもいいと思った(思い込んだ)ことなどで躊躇ポイントをじりじり潰していき、お友達にnew 3DSを自慢されて畜生と思ったことと、実際に触ってみたことで、良くなるポイントがより魅力的に思えてきたということで、基準のバランスが壊れてしまい、一気に買う方向に寄せることに成功しました。


 なので、週末にでもnew 3DS LLを買おうと思います。