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「ジョゼと虎と魚たち」について

 映画の「ジョゼと虎と魚たち」がとても好きです。

 

 主人公の恒夫は雀荘でバイトをする普通の大学生なのですが、ある日、大きな乳母車を押す謎のお婆さんを話を聞きます。その後、恒夫もまた、そのお婆さんに遭遇するわけなのですが、乳母車に乗っていたのはなんとジョゼと名乗る大人の女の子でした。ジョゼは足が不自由な女の子で、普段はずっと家の中にいます。お婆さんに押してもらえる乳母車の時間は、ジョゼが唯一外に出られる時間だったのでした。

 

(以下、結末までのネタバレあります)

 

 この物語は、健常者である恒夫と、障碍者であるジョゼのお話です。僕は障碍を持っていないので、立場的には健常者なわけですが、なぜだかジョゼの方に強く感情移入してしまいました。足が不自由で外出できないジョゼは家で本を読んでいます。近所のゴミ捨て場で拾ってきた本です。彼女が自称するジョゼという名前は、その中で彼女が気に入ったフランソワーズ・サガンの本の登場人物からとったものでした。彼女は物静かで陰鬱です。なかなか外に出られない彼女には、本の世界が自分の世界の大半を占めています。彼女の発する言葉はキツイものが多いです。彼女は沢山のものを拒絶します。そしてそれは、手に入れることが不可能なものを諦めるための、能動的な拒絶のように見えました。

 

 誰かが自分に何かをしてくれるということを諦めているのです。

 

 そんな中、恒夫はジョゼにおせっかいを焼きます。そんな恒夫をジョゼは拒絶します。拒絶された恒夫はジョゼの前から去ります。それは無理もない話です。しかし、恒夫は再びジョゼのところにやってきます。それは、ジョゼの唯一の肉親であるお婆さんが亡くなったことを知ったからでした。足の不自由なジョゼは、もう外にでることもできずに、天涯孤独に生きなければいけなくなっていたのでした。恒夫は心配します。そんな恒夫をジョゼはまた拒絶します。「帰れ」と言います。そして、恒夫は帰ろうとします。そんな恒夫にジョゼは泣きながら言います。

 

「帰れ!帰れと言ったぐらいで帰るような奴は帰れ!」

 

 ジョゼは助けを求めていたのでした。でも、言えなかったのでした。自分の方を向いてくれる人が、再び去っていくことが怖かったのでした。だから、試さなければいけなかったのでした。そして、いざ去られようとしてしまったときに、もう耐えられなくなってしまったのでした。ジョゼは絞り出すような声で「…帰らんといて…ここにおって」。

 

 助けを求めて拒絶されることが怖い人は、一人で生きていこうとします。表面上は強く見えますが、むしろ誰よりも弱いのです。僕がジョゼに感情移入してしまったのは、その儚げな弱さからなのでした。誰かに助けを求めることもできない弱さは、健常者であろうと、障碍者であろうと同じものなのだと思います。ただ、後者の方がよりそうなるシチュエーションが起こりやすいかもしれませんが。

 

 恒夫とジョゼは恋人関係になります。ジョゼは相変わらずぶっきらぼうな口ぶりですが、精一杯、恒夫に甘えます。恒夫はジョゼを外に連れていきます。背中に負って移動します。車椅子を使わないかと提案する恒夫に、ジョゼは恒夫が背負ってくれるから必要ないと言います。ジョゼは世界で初めて全力で甘えられる存在を手に入れることができたのでした。

 

 この物語は、恒夫がジョゼの元を去ることで終わります。

 

 恋愛はいつもそうかもしれませんが、幸せな時間は永久に続くものと感じてしまいます。そして、それはそうではないことが多いと思います。やはり、健常者と障碍者の壁は大きかったのです。恒夫はジョゼの元を去ることを「逃げた」と表現します。あの瞬間は間違いなく幸せだったのに、結末はこうなりました。ジョゼはこうなることを恐れて恒夫を拒絶していたのに、結局こうなってしまったのです。そんなジョゼを理解しているからこそ、恒夫は、ジョゼと中途半端な付き合いを続けることができないことを悟ります。

 

 これは希望の物語なのだと思います。

 

 最後は電動車椅子に乗って買い物に出かけるジョゼのシーンで終わります。恒夫の背中があるからと拒絶した車椅子に乗るジョゼは強くなりました。一人だったジョゼはまた一人になりますが、一人でも生きていける強さを手に入れました。だから、これは希望の物語なのだと思います。恒夫との思い出も、決して無意味なものではなかったのだと思います。僕はジョゼに感情移入してしまっていましたから、そんな強くなったジョゼに希望を見出したのでした。

 

 と、記憶を頼りに書いていてこの感想は「おおかみこどもの雨と雪」のときの感想と似ているし、自分が同じようなものを別の映画に感じて、同じようにグッと来ている感じに気づいてしまったので、自分がワンパターンだなあと思いました。

 

 人間は物語の中に自分を発見するものなのではないかと思っているので、多分これからも似たようなものを別の物語に発見しまくるように思います。自分の外を見ることで自分がよく分かるみたいなのが物語の世界に足を踏み入れる醍醐味のように思います。それは例えば、ジョゼが拾ってきた本の中に自分を発見し、ジョゼと名乗ったように。

 

 綺麗にまとまったような気がしたので、そういうことにして終わることにします。